インフィニティ
「何で、俺だけ!」
「それが馬王道ですので、お諦め下さい」
昼過ぎに馬王道へ入ったイドリー、メルカ、フラマウ、エラトスであったが一人だけ馬王の間に辿り着く事が出来なかったのである。
「あらあら、日が暮れてしまいました」
「ダメだった様ですね、エラトス……」
「そういうところなのよねエラトス」
そう、エラトスである。
「メルカさん、ここって日暮れまでに着けなければ二度と辿り着けないんですよ。だから、そのエラトスって人は、残念ですが、もう無理です」
「あらあら、マテオの故郷は特殊なのね」
「えーっと、故郷はヨモギなので少し違ってて、まだ戻ってないんですよ」
「ヨモギって、わたくし達が泊めていただいた集落ですね。よい所でした」
イドリー達は雫フキ集落でなくヨモギに宿泊したようである。
「仕方ありません、あらためまして馬王殿に、ご挨拶を」
「くくくっ、犬人よ堅い事は良い、それより首神の相手をしてやってくれ煩くて敵わん」
「おいおいおい、そりゃねぇぜ馬王よぉ、ヘーゼルたんに置いて行かれたオイラの寂しさと来たら、もう」
「本当に煩いのじゃ、空腹に響く! そうじゃ! メルカやアレを作ってたも」
ハリラタに入ってから、ゆっくりする間もなく馬王の間に来てしまったフラマウにとっては、ここに居る面子の意味不明っぷりは相当なモノである。
「えっと、イドリー様、あの首だけの人なんで生きてるんですか?」
小声で聞くフラマウである。
「えーっと、それは、わたくしにも説明出来ないのですが不老不死らしく……ただ聞くと面倒臭いので聞かない様に」
イドリー真顔である。
「おっ、ダーリン達が戻って来たのじゃ」
「あらあら、少し見ない内に逞しくなったかしら」
「メルカ、イドリー」
「シスター!」
最後のシスターはアーモンとラッカの声が重なった。
「あらあら、もうフラマウはシスターじゃないわ」
「そうだったわ、メルカは慣れたんだけどシスターは、まだシスターなのよね」
「二人共……立派になって」
フラマウは思わずラッカとアーモンをまとめて抱きしめた。
「シスター、く、苦しいよ」
「あ、ごめんなさい」
そうは言ったアーモンだったが照れくさかっただけである。
「それでだ、アーモン色々と話さなければならない」
再会の喜びも落ち着いた頃、イドリーはアーモンに真っ直ぐ向き口を開いた。
「そんな! シュメーが嘘を言ったって言うんですか?」
「そうだ」
「信じません」
カシューの隷属が継続しているのはモヘンジョが死んでいないからだとイドリーは話した。
そして『テーベの棺』についても昔の話で今は『テーベの鳥籠』としてしか存在していないのだと。
「じゃあ、皇族のすり替えはどうなんですか!」
「アーモンをエラトス達、テーベの小箱が匿っていたのは、そんな事の為じゃない。現にメルカとフラマウがお互いにテーベ同士なのを知らなかった場面をアーモンも見ただろ?」
「ちょっと、イドリーもアーモンも待って! 何の話よ」
ここまでアーモンがラッカにも話さなかったのは共に旅して来たイドリーとメルカが、そんな人間じゃないとアーモン自身も思っていたからだった。
それでもシュメーから聞いた話に真実味があった事も事実……
エラトスへのモヤモヤした気持ちとないまぜになり、いつしか考えるのを止めていた。
スカルフェイスダークの事や馬王、閃馬訓練に没頭する事でテーベの事から目を反らしていたのかも知れない。
「あらあら、ラッカだいたい分かったかしら?」
「うん、アーモンに話して欲しかった……」
「ゴメン……」
本来はエラトスが話すはずだったのだが代わりにメルカから重要な事がアーモンへ告げられた。
「ダミアン様とマカ様……つまりアーモンのお父さんとお母さんが計画された事なのです」
「インフィニティ?」
「そうですサークルとは幻想なのです」
メルカの話は衝撃的だった。
全種混血サークルは幻想。
本当に全種混血なのはインフィニティと呼ばれるのだと、そしてアーモンが、そのインフィニティなのだと……




