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単眼族

 真っ暗闇。

 手探りで周辺を確認すると、じっとりと水分を含んだ硬い壁だと感じた。


「……ダンジョン……迷宮」


 どうやら俺達は、なにかしらダンジョン的な場所へと現れた様子だった。


「クコ、俯眼で外の様子とか見れる?」


「……やだー……頑張るー」


 今度はカイの口真似らしい、これは突っ込むべきなのか? 迷っていると……


「……アーモン……ダンジョンじゃない」


「へ?」


 どうやら俺達は地下倉庫のような場所に閉じ込められている様子でクコの俯眼で外を見ると普通の家にいる事がわかった。


「じゃ、やるぞ」


「……おー」


 クコに調子を狂わされながらも外から俯眼で突き止めた木製のドアを蹴破った。




「ひっ!」


 外にいたのは身重の妻らしき女性と、その夫と思われる男だった。

 どこにでもいる普通の若夫婦……いや、普通ではないところが二箇所。


「……一つ目……2つ手」


「えーっと、単眼族で、双腕?」


 目が一つで腕が左右二本づつある種族らしく、もちろん元の世界には、いないし今の世界でもいない種族だった。


「出て来ちゃダメなんだぁ、殺されっちまう」


 男の方が、そう言うので取り押さえられるかと身構えたが、その心配はなさそうだった。

 一つ目は一つ目だが、何とも優しそうな瞳だった。

 その時に身重の妻が話し始めた。


「どこから来られたのか知りませんが今朝、この人が畑の中で倒れてるお二人を見つけて隠したんです」


「隠した?」


 それは、この世界だか、この地方だかに伝わる伝説だった。


 この辺りでは何年かに一度、目のない赤子が産まれるらしく、その赤子が産まれる原因が双眼の人が取ったからと言われているそうで、見つかれば双眼の俺達は間違いなく殺されるのだとの話だった。


「では、なぜ匿ってくれたんですか?」


「双眼の夫婦現れし時、目なし子に目を分け与えん……でさぁ」


 それも、また伝説なのだと今度は男の方が口を開いた。

 そして単眼族の、この夫婦は自分達の生まれてくる子供が目なし子だと既に気付いているのだと……


「……夫婦……ラッカに言お」


「どうして自分達の子が目なし子だと?」


「オイラは見えちまうんだぁ、黒いモヤモヤが」


 それは魔力視のようなものだろう。

 金環で共有出来ないか試してみたが出来なかった。

 俺達がいる世界の魔眼とは、また違うチカラなのだろうか?


「……誰か……来る」


 クコの言葉に窓から外を見た単眼族の男は焦り出した。


「いかん、見つかっちまう! か、隠れてけれ」


 もう一度、地下倉庫へ隠れてくれと言うが嫌な予感がした俺は別の場所へ隠れる事にした。その方法は少々、冒険だったが時間がなかったので仕方なかった。


「そこじゃ、見つかる。クコ抱きつけ!」


「……わかった……あなた」


 緊急時に限って、ふざけるクコを神様どうにかして下さい。


 獣人の種族スキル、レイジを発動。

 クコを抱きかかえたまま、天井の梁へ飛び付いた。

 長時間でなければレイジの効果で支えられるはず……

 ただ、見つからない為には、もう一つ、ここまで使いどころがなく温めていた手段を使う。


 コロポックの種族スキル、気配を発動。


 森の葉陰に隠れる様に気配を消した。


 バン!


「……!」


「……」


 入って来た男達も同じく単眼族で双腕、夫婦と違うのは乱暴そうな態度だった。


 嫌な予感通り、男達は地下倉庫の中まで覗いたり家中を探しまわり、やっと諦めて帰って行った。


「ふう」


「危なかったなぁ、んでも、良かったな、あんたら殺されなくって」


 この人の良い単眼族の夫婦と、この後3日共に過ごし、出産の時を迎えた。



 ヴゥヴァ、ヴゥヴァ


 残念ながら夫婦の予想通り生まれて来たのはスカルフェイスの赤ん坊だった。

 赤ん坊が泣くように慟哭の出来損ないの様な弱い黒色魔力を産声と共に放っていた。

 俺がドワーフの種族スキル、ガードで充分防げる程度の弱い慟哭だ。

 だが単眼族の夫婦には抱っこすら出来ぬ程のダメージを負わせるモノである。


「本当に目を分けては、くれなんだか?」


「……本当に申し訳ないが、分ける事は出来ないし、その子から取ったりもしてないんだ」


「あなた、仕方ないわ掟通り私達の手で……うっ、あぁ」


 単眼族の掟では目なし子が生まれた時は自分達、つまり父か母が始末しなければならないのだ。

 他人に任せれば後々、揉め事の原因となる。

 それが理由だった。


「……アーモン……考えある」


「考え?」


 クコの考えは防御魔法を夫婦の体へ薄っすらと展開し赤子を抱かせると言うものだった。

 抱けば、もう夫婦に赤子を始末するのは不可能だろう。

 正しい事なのか迷っていると、クコは勝手に始めてしまった。


「本当だか? この手で抱けるだか?」


 夫婦の感激具合を見る限り、もう後へは引けなかった。

 即断出来なかった俺の責任だ。

 もし夫婦が始末を躊躇うなら俺が始末するしかないだろう。


「……その時は……わたしがする」


「なっ!」


 クコは勝手な行動を取ったんじゃなかった。

 そこまでの決意を持って動いていたのだ。


(ヘーゼルと潜った元の世界では首を落としたんだ、相手が赤子であろうとスカルフェイスなんだ、やるしかないんだ)



 きっと俺の命を奪う覚悟のなさを魔湖は試しているのだと思った。


「いや、俺がやるよ」


 クコの薄い膜的な防御魔法プロテクトスキンにより夫婦は赤子を抱いて泣いていた。

 それでも幸せそうな顔だった。


「抱けねぇと思ってただ、あんがとな、お前さんら」


「後は、任せて下さい」


「何から何まで、すんまねぇ」


 夫婦から見えない部屋で、せめて苦しまぬように一撃で……

 ウロボロスを剣モードで構えるも……一歩が出ない。


(どうしてだ、何で、こんな良い夫婦が、こんなにも苦しい思いを、しなければならないんだ!)


「……抱っこ……してる……あなた」


 こんな時まで、クコは、流石にふざけるなと叫びそうになって顔を上げると、クコは泣いていた。

 それは、もう号泣と呼べるレベルの泣き方だった。


(そうだよなクコは家族を亡くしてるんだ)


 もしかしたら緊張や重圧を和らげる為にクコはバカな真似をするのかも知れないと思った。


 俺まで泣いちゃダメだと思えば思う程に涙が頬を伝った。


「何で、何で、こんな悲しい事が起きるんだ! なあ神様」




 ウロボロスが回転を始めた。




 こうなるのは、いつも祈るような気持ちと何かが合わさった時だ。

 そんな法則に気付いたのに、どこか冷めた気持ちでウロボロスを傍観していた。


(何の武器になったところで、この赤子の殺め方が変わるだけ……)


 どうでも良い、涙越しでボケて見える手元にピントが合った時、一瞬、頭が混乱した。


「……ぐすっ……鈴?」


「鉾先鈴だ」


 元の世界で巫女が神楽舞に使う物だ。

 普通は鈴がたくさん付いた神楽鈴を使うのだが一部に、この鉾先鈴を使う舞がある。

 短剣の鍔の部分に鈴が付いているのが特徴だ。

 鈴の音で邪を祓う道具だ。


 俺は元の世界、日本でも男だったけど神社の息子だった為に子供の頃、巫女舞を舞わされていた事がある。

 それを見ていた同級生に、誂われた嫌な思い出だ。


「祓うよ……舞ってみよう。クコ黙って見ててくれ」


 シャン、シャシャン!


 子供の頃の記憶を頼りに神楽を舞った。

 本来は、ゆっくりした舞なのだが速くなっていただろう。


 気がつくと音に釣られて単眼族の夫婦も部屋の入口に立っていた。

 せめて癒やしたい、鈴の音で……


 心を込めて、祈りを込めて舞った。

 こんな悲しい事が、どの世界からも無くなって欲しかった……


「……ア……アーモン」


(ああ、何かが起きている)


 鉾先鈴を振る度に黒色魔力が巻き取られて来る感触。

 鈴が鳴る度、その黒色魔力が浄化されていくような清々しさ。

 一連の動作を終えた、その時、大きな泣き声が部屋に響き渡った。


 単眼族の父の泣き声。

 単眼族の母の泣き声。


 そして単眼族の赤子の泣き声だった。

 慟哭ではなく、普通のオギャアだった。


「伝説は本当だっただ」


「双眼の夫婦現れし時、目なし子に目を分け与えんだわ」


 虚空だった赤子の目はキラキラと輝く単眼が蘇って、その顔もスカルフェイスなどではなく可愛い赤子の顔になっていた。


 そして俺達は魔湖から帰還した。


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