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スカルフェイス深海魚

「もう一度潜ると申されるのか?」


「はい」


「一回やりゃあ充分だぁね。適応出来るかどうかの問題だぁね」


「それは解ってるんです。ただ納得出来てない部分があって……」


 魔湖訓練が成功せずに何度か潜った者はいるが成功したのに再度潜った者など今迄にはいない。

 ヘレフォーもアルワルも怪訝(けげん)そうな顔で俺の事を一旦は見たが、中でヘーゼルと一緒だった事を聞いて納得した様だった。


(ヘーゼルの手助けでクリアした事を俺が納得してないと思ったんだろうなぁ)


 それは彼らの勘違いなのだが、もう一度潜れれば良いだけなので訂正せずにいた。

 そうこうしている内にピスタが戻って来た。


「面白かったぜ! 木組みで動く物だらけでさ、なぁヘレフォーさんよ、もう一回入っちゃダメか?」


 俺だけでなくピスタまで、もう一度潜りたいと言い出したのでヘレフォーとアルワルも呆れていた。

 もう一度潜ったところで同じ世界が現れる訳ではないとピスタに言い聞かせつつも、入らせてくれる事になった。


「この子も戻ってるわね」


「今度は咥えないね」


 俺が戻った後、いつの間にか戻って来ていた黒湯気のコマちゃんとシーちゃんだが今回はヘーゼルを咥えて離さないという行動はとらなかった。


「では、参り申す」




 ヒョロ〜ヒョ〜




 もう一度……電車に戻りたい気持ちが少しあった。

 そう気付いたのは次の世界に着いた時だった。

 岩と無機質な灰色の玉が転がるだけの世界。


「おっほぉ、今度も面白そうだぜ」


「えっ? 何でいるのピスタ!」


「そりゃ分かんないけど、さっきだってアーモンはヘーゼルと一緒だったんだぜ?」


「まぁ、そうか……」


 どんよりとした空の下に、どこまでも続く岩だけの地形を見つめながら1人で来たら寂しかっただろうなと思ったが、そんなの関係ない雰囲気のピスタを見てる内に元気になって来た。


(そうか、さっきの世界での事を引きずって元気がなくなっていたんだ俺……)


「おぉ! 見ろよアーモン、あの中って人がいるぜ」


 見るとピスタの赤い瞳が輝いていた。

 魔眼『解析眼』を発動しているのだ。


「乗り物か何かなのかな?」


 俺も『金環』を発動し、ピスタの解析眼の効果を自分へと波及させた。

 それは驚きの光景だった。


 荒廃した異星へでも来たかのような岩の景色とは対照的に灰色の玉の中はハイテクそのものだった。

 元の世界でモーターショーに展示される未来的な車さながらのコックピット感……

 いや車というよりも、むしろ宇宙船の救難ポッドのような雰囲気だろう。


「ヒューマンかな? 妙な感じの種族だぜ」


「無表情だしアンドロイドとかロボットみたいだな」


「なんだぜ? そのアンドロって」


 前の世界で開発されつつあった人型の機械だと教えるとピスタは興奮していた。


「それ、すげえぜ! アーモンの前の世界にも行ってみたいぜ」


 前の世界の話をしたのはイーズ以来二人目だがアンドロイドやロボットの話に夢中なせいか? ピスタは驚きもせずに知っていたかのような反応を示した。


(まあ、今も別世界に来てる訳だし別に驚きゃしないかぁ)


 解析眼の深度を深めると、その灰色ポッドの中の無表情な人はアンドロイドでも何でもなく骨格も内臓も間違いなく人間だった。




「がっかりしてないで見ろピスタ」


 機械じゃなかった事に落胆しているピスタの視線を向けさせたのはポッドの間や上空を漂い始めた生物だった。


「おっ、あれに似たのをボク見た事あるぜ」


「もしかして、ラパの魚港で?」


「そう、海の深い所に住んでる魚が時々、網に掛かって水揚げされるんだぜ、ただ、こんな大きいのは見た事ないぜ」


 それは前の世界で見た事のある深海生物のような姿をしていた。

 半透明の太刀魚のような体に骨格が透けて見え、青い蛍光色の血液が流れているのが解析眼を使わずとも見えていた。

 ただ、前の世界と圧倒的に違うのは泳いでいる場所だ。


「空中を泳ぐ巨大深海生物か……」


 そして、その半透明生物に周りに嫌なモノが蠢いている事にも気付いていた。




 そう黒色魔力だ……




「あぁ、アーモンやっぱり成ったぜアレに」


「そうだな……」


 ピスタと俺が駆け出すと同時にスカルフェイス深海魚は慟哭を灰色ポッドへと放った。


 ヴゥヴァァァー!


 灰色ポッドは意外に脆く、一瞬で中の人ごと崩れ去った。

 いや、これは脆いのではなく慟哭そのものが強力なのだ。


「アーモン、この人達、変だぜ」


「ああ、仲間が殺されたのに無反応なんて、どうかしてる」


 無反応、無表情、それどころか無抵抗だった。

 崩れ去った灰色ポッドの代わりなのか? どこからともなく次の灰色ポッドが補充されていた。


 ヴゥヴァァァー!


 ヴゥヴァン!


 見ていられなくなったのだろう。

 スカルフェイス深海魚の慟哭をピスタのスカルホーンハンマーの慟哭が打ち消した。

 慟哭同士のぶつかり合いの衝撃で、いくつもの灰色ポッドが吹き飛んでしまう。


「うるぁ!」


 俺はウロボロスを銛モードで展開しスカルフェイス深海魚の虚空の瞳へ向けて投げ込んだ。

 ……が、くるりと向きを変えたスカルフェイス深海魚によって弾かれた。


「アーモン、ボクが何とかしてるから込めをやってみるんだぜ」


「分かった! 気をつけろよ」


 スカルフェイスツノシャチの時にピスタの父、カタロニが見せたドワーフ達の技『込め』をウロボロスの銛へと施した。


 ヒューマンの種族スキル、クイックで腕の振りの速度を上げる。

 獣人の種族スキル、レイジでパワーを上げる。

 そして……


「いいぞ、ピスタ! 離れろ」


「分かったぜ」


 足裏発動を利用して一気に離脱するピスタ。

 もう、こんなアレンジをして来る辺り流石だなと思いながら『込め』たウロボロスの銛を今度こそスカルフェイス深海魚へ突き刺した。


 灰色ポッドの中の人達が無表情なまま、こちらを見つめている事に気付いた時には、もう……


「おかえりアーモン、ピスタ」


 魔湖から帰還しておりラッカの膝枕の上で目覚めた。


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