存在意義
「くくくっ、ヘーゼルよ何故マテオを許す?」
「どうでも良いだけよ」
「おいおいおい馬王、ヘーゼルたんはな、前から自分の一族と、その何とかって集落を重ねて気に病んでたんだぞ」
「うるさい! 余計な事ばかり喋るな。死ねばいいのに」
「ええ、ヘーゼルたん庇ってるのに酷くね?」
ヘーゼルは助かった。
もちろん俺の混成治癒魔法も少しは役に立ったかも知れないが、それは入口程度の事で後はヘーゼルの回復力と気力の強さがモノを言ったのだろう。
そもそも魔族の回復力は驚異的らしく普段なら、あの程度の傷は自らの回復力でどうとでもなるそうだ。
今回はウロボロス、つまり宝具による傷だった事が仇となって回復が進み辛かったようだ。
その特別な回復の遅さゆえヘーゼルが寝込んでいる間にかつてヨモギ集落で起きた悲劇と同じ事が魔族であるヘーゼルにも起きていた話を馬王とべハイムより聞かされた。
「では、ヘーゼルの一族もバケモノに襲われたんですか?」
「うむ、そうなのだが、そもそもヘーゼルの一族から発生したのだ」
「ヘーゼルたんの前ではさ、その話ってゼッテー出来ねぇのな、だから寝てる間に言うんだけどさ、あ、そうそうヘーゼルたんの前でバケモノって呼ぶの止めてやってくれ」
馬王の下に封印されている我々がバケモノと呼ぶそれは……
「ヘーゼルの身内?」
「そうだ」
「お前さんらも海で見たじゃん、アレだよ」
「スカルフェイスツノシャチだぜ」
「ソイビーよ、お前スカルフェイスに会っているなら何故言わなかった?」
「妾が会う前の事なのじゃ」
その昔ヘーゼルの一族からスカルフェイスが発生し、悲しいかな、そのスカルフェイスは同族である魔族を次々に殺し、その殆どを根絶やし寸前にまで追い詰めたのだそうだ。
「それが何故、馬王殿の下に封印されておるのですか?」
戦闘将ヘレフォーですら初めて聞かされている事に少々驚いていると……
「なあなあ、お前さんさ、前にも話したじゃねえか? 忘れたのかよ」
「首神や、お前が忘れさせたのだぞ……その事を忘れておるのはお前の方だ」
「おお、そうだったっけ? 我の忘眼は強力であるからな」
やれやれである。
「まだ赤子だったヘーゼルを連れて逃げて来た者を追って来たのだ」
「その人は?」
「残念ながらヘーゼルを守り死んでしまった……ヘーゼルの母だ」
その時に馬王は全力でスカルフェイスと対峙したが倒せず仕方なく封印した。
いつか倒す日の為に戦闘民族を育て始めたのだとの事だった。
「ヘーゼルは自分の一族がスカルフェイスに襲われたからヨモギを襲われたマテオの気持ちが解るから許した?」
「おいおいおい、そんな程度じゃないぜ! あの状況でもヘーゼルたんならリャマ野郎の首を刎ねるくらいの事は出来たはずなのにさ、やんなかったんだぜ」
これはマテオに、しっかり謝らせなければならないと皆が思っていた。
「ん? じゃヘーゼルって何才なんだぜ?」
「魔族の寿命は元々とても長いのじゃ」
「それだけではない」
「もしかしてエルフの血よー、です?」
「そうだ」
ヘーゼルの母は魔族ではなかった。魔族に連れ去られた奴隷でエルフベースのミックスだったそうだ。
つまりヘーゼルは純血の魔族ではなく、魔族ベースのミックスと言えるのだろう。
「あの娘がザクセンに拘るのも、それと関係しておるのかの?」
「ふぅ、そうだヘーゼルはザクセンにスカルフェイスを元に戻してもらうつもりでいる」
その話をする馬王の顔は、また悲しそうな表情になった。
「もしかして叶わないんですか?」
その質問に答えたのは馬王ではなく首神べハイムだった。
「無理だろうな、俺さ不死を治して貰おうとして会った事があるんだけどさ、俺の不死は、まあ理から外れ過ぎてて無理でさ、その時に聞いた訳よ、だったら何なら叶うんだって」
「で?」
「これから起こす事なら叶うと。これまでに起きた事を戻す様な事は出来ないのだそうだ」
ここで答えたのは馬王であった。
馬王は会った事があるのか?
その疑問はすぐに晴れる事となる。
「ザクセンは寿命を貰い旅をし種を撒く……その種が上手く芽吹かぬ、もしくは根付かぬ時は……ここから、やり直すのだ」
「……ここ……馬王の間?」
「そうだ、そもそも、その最初の芽吹を守るのが私の役目……馬王の存在意義なのだ」
衝撃的な話の連続に着いていくのがやっとだった。
そして、この話はアルワルに見張れていたマテオにも話されヘーゼルが起きたと同時に謝る事になったのだが……
自分も刺してくれと懇願するマテオにヘーゼルが困らされると言う残念な展開になり……
あまりの、しつこさに辟易したヘーゼルがべハイムに忘眼で忘れさせてと頼んでしまったものだから……
マテオはヘーゼルを刺した事を忘れて馴れ馴れしくするという残念過ぎる結末を迎えたのであった。
そして、もう1つ。
その日から封印されし者をバケモノと呼ぶ者は、いなくなりスカルフェイスダークと呼ぶようになった。




