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混成治癒魔法

「馬王、ザクセンはまだか?」


「くくくっ、ヘーゼルよ前にも言ったが現れたとて願いが叶うとは限らんぞ」


 首神べハイムをカータの訓練民に投げ入れたヘーゼルは馬王への元へとズカズカと歩み寄りながら質問をした。


「ザクセンって花の民エリアに昔生えたって世界樹の?」


「そうだ横取りは許さない」


 その時、ヘーゼルのアメジスト色の瞳はとても鋭い光を宿していた。


 世界の、どこかに100年に一度生える世界樹。

 人の実がなる木……その実がザクセンという人で種を運ぶためだけに生まれる短命の種族。


「寿命を分けると願いが叶うんだったかしら?」


「そうだ横取りは許さない」


 ラッカに対してもヘーゼルは鋭い目、鋭い口調で同じ言葉を吐いた。


「私だって横取りは許さないんだからザクセンじゃないけど……」


 小声で返したラッカの言葉はアーモンにも誰にも聞かれてはいなかった。


「それでヘーゼルは何の願いをするの?」


「お前には関係ない」


 そう吐き捨て、くるりと向きを変え銀髪をなびかせ行ってしまった。

 それを見つめる馬王の顔は、ここへ来て初めて見る悲しげな表情であった。






「じゃあ俺とラッカとピスタは経験不足だったと?」


「くくくっ、そうだ」


「確かに某の馬眼を使いこなせ申したのは皆、経験豊富な強者でしたな。もちろんアーモン殿達も潜在能力の高さは目を見張るものがあり申すが……」


 蜂の巣ダンジョンの最後、金環で波及させたヘレフォーの馬眼が使いこなせなかった理由を馬王から聞かされていたアーモンに、マテオが寄って来た。


「ちょっとアーモン、ウロボロスを振らせてよ……」


「ん? ああ、良いけど、すぐに俺のところに戻るぞ」


 フキの民にも触らせたし、まあ良いかと思ったアーモンだったが、それが間違いだった。

 馬王やヘレフォーの話が興味深くてマテオの横ヤリが(わずら)わしかったせいもあっただろう。





 そして、それは起きた。





「おい! 何やってんだ、ヘーゼルたん大丈夫か、おいおいおい誰か! 誰か助けてくれ」


「くっ」


 マテオがウロボロスでヘーゼルを刺したのだ。

 そして直後にウロボロスは砂を撒き散らしながら2匹の蛇に別れアーモンの元へと戻っ来た。

 腕へと巻き付いたウロボロスからはヘーゼルのものと思われる真っ赤な血が滴っていた。


 蝙蝠状の翼の下あたりの脇腹をヘーゼルは刺されていた。


「何やってんだぁ! マテオ」


 アーモンはヒューマンの種族スキル、クイックを発動しマテオを取り押さえた。


「当然の報いだ! その翼は例のバケモノと同じだ」


「何の事を言ってんだよ!」


「ヨモギを襲ったバケモノの話を聞いて育ったんだ! 間違いない」


「アーモン! それより治療しなきゃ、ペカン治癒魔法よ」


 騒然とする中、ラッカの声でペカンがハルティス髄一の治癒魔法の腕を振るおうとしたその時、馬王が制した。


「待て! そなたの治癒魔法では治せぬ……いや、むしろ逆効果なのだ魔族には」


「属性……で、あり申すか?」


「そうなのじゃ、魔族には闇系統の治癒魔法でなければ効かんのじゃ」


「闇属性なんてプトレマくらいしか会った事ないぜ」


「おいおいおい、誰かいねぇのかよ! ヘーゼルたんが死んじゃうよ」


 カータの民にも闇属性の治癒魔法、いや、そもそも闇属性魔法自体、使える者はいなかった。

 しかし、たった1人だけ使える可能性を秘めた者がいると馬王は口にした。

 そして、その者とは……




「……アーモンが……使える?」




「どうして俺が?」


「気付いておらぬだろうがな、お主の混成魔法には闇属性も時々、含まれておるのだ」


「そう言えば魔力視に時々、見えてた妙な色があったわ……あれが闇属性だったんだ……」


「そんな事、言われても……そもそも治癒魔法自体が使った事もないのに」


(それでも、やるしかない、自分が出来なければ、この魔族の少女ヘーゼルは目の前で死んでしまうかも知れない)


 アーモンは意を決して行動を始めた。


「ペカン、治癒魔法を見せてくれ」


「はいよー、です」


 ただ空中へ放たれたペカンの治癒魔法を見つめアーモンは、その詠唱をしっかりと記憶、どうにかして放つ為、その魔法の特徴を掴もうとした。


「……抱き癒やしたまえ」


「惜しいが風属性が混成しておる」


 何度か繰り返しす内に闇属性が混成した時には独特な感覚が宿る事にアーモンは気が付き始めていた。

 しかし……


「治癒魔法になってないよー、です」


「それに、なったとしても闇系の割合を大きくせねば結局は逆効果であろう」


「ほっとけ! ヨモギの恨みだ」


「マテオは黙ってろ!」


「落ち着いてアーモン……そうだ、これなら」


 ラッカは、そう言うと山吹色の瞳を輝かせた。


「そうか、 金環を発動! ピスタも頼む」


「分かったぜ」


 ラッカの魔力視、ピスタの解析眼でペカンの治癒魔法を再度観察し自身の放つ治癒魔法をもアーモンは何度も詳しく観察した。

 驚くべきはヒューマンの種族スキル、クイックを発動し高速で魔法発動を繰り返した事だ、その発動速度は尋常ではなく周りで見守るしかないカータの民達も呆気に取られていた。

 通常であれば魔力不足に陥るはずがアーモンの魔力消費の異常な少なさゆえにこなせた回数であった。

 そして……


「馬王、見てくれ」


 そう言うとアーモンは金環で魔力視と解析眼を馬王へと波及させた。


「……抱き癒やしたまえ」


「良いだろう、闇属性の割合も何とかなるレベルだ、ただ……」


 光属性と闇属性の混成になっているから弱い部分へ光属性を絶対に当てるなと馬王は告げた。


「分かった」


「おいおいおい兄ちゃん、大丈夫なんだろな、頼むぜ」


「っく!」


 苦しそうに脇腹を押さえ倒れているヘーゼルを見据えアーモンは詠唱を始めた。


「……抱き癒やしたまえヒーリング!」


「あぁ! っく」


「バカ、苦しんでるじゃねえか、おいおいおいヘーゼルたん大丈夫かぁ」


 混成治癒魔法は上手く発動出来たが馬王の言う弱った部分が把握出来ない、傷口へは光属性を外す様に放てたはずだが、どうしても体のどこかへ光属性も当たってしまう。その部分が弱っているか? 大丈夫か? なんてアーモンには、見当も付かなかった。


「ダーリンこの魔族の娘もう何度もは保たんのじゃ」


「分かった、次は決める……そうだ! アルワルさん猿眼、点眼を貸して下さい」


「ああ、構わんわぁね」


 アーモンの代わりにマテオを押さえていたアルワルは弱点や支点、力点の見える魔眼『点眼』を発動した。


「見える! 今度は外さない……抱き癒やしたまえダークネスヒーリング」


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