予期せぬ出来事
「2重に魔法を打つ感じ?」
「そうなんだけど、そうじゃないって言うか……」
「一発目は自分に向けて打つ、もしくは固定する感じだぜ」
「それだけだとダメージ受けるから当たらない様に2発目で弾くよー、です」
「……ただ……同じ魔力だと……失敗する」
「自分の同じ魔力だと吸収して反発力が働かないんですよアーモン」
「だから出来ないマテオが何で教えて来るんだよ!」
「頭じゃ理解してる分、僕の方がリードしてるからですよ」
「やれやれなのじゃ」
マテオと喧嘩になってはイーズに宥められる残念な展開を毎日繰り返している。
「カータの新人も、まあまあの人数が足裏発動を習得しちゃったなぁ」
「今回はラッカさんとクコさんの存在が大きいと思われます」
雪豹コスマスの言う通りだ。
ラッカの魔力視で出来てない人の魔力の流れを見てのアドバイス。
クコが金剛の体術を応用しての身のこなし方のアドバイス。
この2つによって習得している者が多いのだ。
そんな話をしていた、その時、突如ソレは現れた。
「何か来る!」
一瞬で辺り一面が闇に包まれた。
いや、ただの闇ではない。
「翼だぜ」
蝙蝠状の翼の影が馬王の間を包んだのだ。
なんて大きさだ、これだけの翼で蝙蝠状の翼となるとドラゴン以外は思い付かない。
天使の様な翼を持ったホーリードラゴンのイーズとは異なる別のドラゴンでも現れたのか!
「ヒューマンの種族スキル、クイックを発動」
俺は真っ先にヒューマンの種族スキルで速度を上げ、レイジ、ガードと次々に種族スキルを発動し近くにいた仲間を抱きかかえ1点に集めた。
「クコは防御魔法!」
「……得意」
その間も次々と指示を出し。
ウロボロスを剣モードで展開しつつ極大混成魔法の準備をした。
デスリエ王女の様に出来るだろうか?
(いや、出来るかどうかじゃない。やるんだ)
みんなを守る。
上空の太陽で逆光になりドラゴンの姿は黒い影でしかなく確認不能だ。
それでも、ドンドン近付いて来ているのが気配で分かる。
(もし極大混成魔法がブレスを相殺出来なかったら全滅……)
俺は囮となれる角度へ移動し、そこから極大混成魔法を放つ事にした。
少しでも、みんなから離れた位置で……
「……メーギードー……」
俺が打てるメギドは多分一発。
全魔力を込めて、いざ放つ!
と思った、その時……
「へ?」
ああ、そうか蝙蝠状の翼を持つ者はドラゴンだけじゃなかった。
そもそも前に見た事のある翼だ……
「じゃーん、やあやあ我こそは馬王の友べハイムなり〜」
「ちっ!」
「ちょっと、ヘーゼルたん、今舌打ちしたっしょ」
「たんって言うな、死ねばいいのに」
「それ酷くね? 俺が死ねないの知ってるくせにさ」
「くくくっ、しばらく振りよのぉ、首神」
何とドラゴンかと思われた蝙蝠状の翼は以前、ラパで遭遇した首だけ男のべハイムと魔族の少女ヘーゼルであった。
「あんた攻撃しようとしてた?」
「あぁ、ヘーゼル久しぶりだな。あまりにも大きかったからさドラゴンか何かかと思ってさ……ハハ」
忘れていたカータに入った時に俺達は小さくなっていたんだった。
外から人が近付くと巨人ばりに見えるとも聞いていたはずだ。
「久しぶり?」
「何、何? ヘーゼルたん知り合い? てかてかオイラに隠れて男と会ってたりしてんの? マジかぁ、気付かなかった〜」
「うるさい朽ちればいいのに」
「思い出したわ……その眼、ツノシャチを倒した……」
「あ、そかそか、あの時の宝具の少年な。てか宝具の形が変わってんじゃん? どうなってんの? それ、なあなあ」
「ああ、もう相変わらず良く喋るのじゃ」
呆れたイーズの方をべハイムは、ゆっくりと振り返る……
いや、正確には首を抱えたヘーゼルがゆっくり振り向かせているのだが……何やってんだか……
そしてイーズの方を振り向いたべハイムは……
「ま、まさかソイビーか? いつ起きたんだよ! いやはや死ぬまでに会えて嬉しいぜ。って俺死ねないんだけどぉ」
「くくくっ、元コンビか、懐かしいの」
色々な情報が入り乱れ混乱気味なまま、その日の訓練は終了となった。
「アーモン、あの時に足裏発動出来てたの気付いてる?」
「へ?」
ラッカが言うにはメギドを放とうとした時に俺は足裏発動を数回しヘーゼルへ近付いていたのだそうだ。
きっと皆から離れた場所で少しでも敵の近くでメギドを打とうとしていたから無意識の内に使ってしまったのだろう。
「某のホースステップよりも一歩が大きく驚き申した」
「くくくっ、これぞ混成魔法しか使えぬ、いや使ってこなかったゆえの効果だろうて」
馬王が言うには足裏発動は一段目と二弾目の魔力を別の魔力色にする必要があって、それは属性でも陰陽でも違えば何でもよいのだが効果は使う魔力によって異なる。
「じゃあ、俺は一段目も混成魔力、二段目も別の混成魔力だから倍弾くと?」
「くくくっ、そう言う事だ」
「なるほど……まあ出来たのは嬉しいんですけど、それより馬王もイーズもべハイムと知り合いなんですか?」
「よく聞いてくれた少年よ、このソイビーは、かつて今のヘーゼルと同じ様にべハイムと世界の空を制しておったのだぁ、キマったな! なあソイビー?」
「忘れたい過去なのじゃ」
「私は空なんて制してないわ、死ねばいいのに」
遠い遠い昔の事だそうで、ある街では神として、ある国では悪魔として拝められたり恐れられたりしたのだそうだ。
「悪魔としてって大勢殺したりしてないだろうな?」
「そんな事はしてないのじゃ」
「そうそう仮にソイビーが、そんな真似をしようものなら我が、この身を挺してでも止めておる。って身はないだけどぉ、まぁ、ソイビーがした悪さは、せいぜい国中の食料を食い尽くした程度よ」
「はぁ、あのなぁ」
「もう若気の至りなのじゃ、ダーリン許してたも」
べハイムの、ウザいながらも賑やかな雰囲気に場が盛り上がりつつ色々な事情を聞いていたのだが予期せぬ人物の行動によって場は凍り付いた。




