閃馬
「もし俺の里に行く事があったら見せるなり吹くなりすりぁええ、悪い様にはしねぇはずだ」
この小さな石笛を貰った時に言われた言葉である。
その里が、どこかも聞かず、教えてもくれずバタバタと旅立った。
そして石笛に刻まれた目の模様と同じ模様を見つけたから吹いてみた……
「はぁ……」
(思いっきり悪い様に、されてんだけど?)
あの青馬との戦闘にヘレフォーが割って入ってくれたお陰で何とかなり馬王の間という場所へ連れて来られた。
本来ならば連れて来られて入れるのなら自分で辿り着けるはずらしい、その場所で青馬が、あの馬王だと聞かされた……
(今頃言われても、もうタメ口で文句言っちゃったんだけど)
まぁ、そこまでは良いだろう。
問題は……
「で? 何でお前が戦闘将の石笛を持っておる」
馬王は青馬のままで俺を睨みつけている状態である。
「これこれ馬王や、ダーリンに、その様な酷い言い方をせんでも良いのじゃ」
「何だと? ソイビーお前の男なのか? この小僧がぁ?」
「やれやれ、その姿になると荒振るのは今も変わらんのじゃ」
青馬がイーズの憑依した馬王に文句を言う光景は着いたばかりの俺には展開が意味不明過ぎる。
「馬王殿、そのお姿が見れて某は恐悦至極にござい申す。ですが今は少し冷静にアーモン殿の話を聞こうではありませぬか」
「うるさい! ヘレフォー、お前は戦闘将だろうが? 何で今すぐ取り戻さねんだよぉ」
「その荒振り様、お懐かしゅう申します」
ヘレフォー感涙である。
「……お馬さん……よしよし」
「こらっ、クコ失礼でしょ!」
「クコ殿、某は悲しい訳ではなく感激しており申す。ただ、まあ、お気遣い感謝し申す」
クコの暴走と運の良さに益々、事態の全容把握が難解になって行く。
「ところでアーモン、石笛って魔眼修道院を出る時にポイティンガーから渡されてたアレ?」
「そうなんだけどさ、渡せって言うんだよ馬王だっけ? そこの青馬がさ」
そのラッカと俺のやりとりにヘレフォー、馬王、そしてマテオが強い反応を示した。
「今、何と?」
「まさかポイ家の跡継ぎと知り合いと申されるのか?」
「やはり、あのバカから奪ったのかぁ」
そして、その反応で事態の核が掴めたのだが……1人いや一頭ほど止まれない者が、いた。
「その奪った石笛を渡せ! こら」
「うおっ、この馬鹿馬がぁ! 話聞いてなかったのか? こらぁ」
さすがに、こちらもキレてしまった。
「黙れ! 小僧」
もちろん馬王もキレたのだが……
「ええい、いい加減にせんか! 馬王や、そんな事なら、もう妾は出るぞ」
そう言ってイーズが馬王の体から憑依を解いてしまった。
その時だった……
ウヴァシッ、ヴァシュッ、シュッルルル!
馬王の体の下から悍しい黒色の魔力が侵食するかの如く噴き出したのだ。
「ならん!」
一言残し青馬は閃光となり馬王へと吸い込まれていった。
それは一瞬の出来事だったが恐ろしいモノを馬王が押さえ込んでいる事実を俺達に理解させた。
「くくくっ、まったく無茶をするのぉソイビーや」
「いい歳して頭を冷やすのじゃ」
「くくくっ、確かになぁ。アーモンとやら久方ぶりに閃馬となって少々荒振り過ぎてしまった。許してはくれぬか?」
「はあ……」
巨大馬となった馬王は別人のようだった。
別馬と言うべきだろうか?
冷静になった馬王に魔眼修道院でのポイティンガーとの事等を話し、そしてカータとポイティンガーの関係も教えて貰った。
「つまりポイティンガーがカータの出身で代々戦闘将を排出していたポイ家の人って事よね?」
「それだけじゃないんですよラッカさん」
「ポイティンガーさんは本来なら次期戦闘将になる立場の人だったんです」
「それが、どうしてアーモン達が育った修道院にいたんだぜ?」
「ティンガー氏は某に戦闘将を譲りたかったのかと思い申す」
「あの方さえ居ればヨモギが今の様に馬鹿にされる事もなかったのに」
ポイ家はマテオの出身であるヨモギ集落で兵法を代々受け継ぐ家系だったが、ある時に『天眼』と言う魔眼を得た代から戦闘将となった。
この『天眼』は代々ポイ家の跡取りに受け継がれ、それと同時に戦闘将の座も受け継いで来たがポイティンガーが自らの意思で『天眼』を受け継がなかった。
それどころか勝手にカータを捨てて出て行ってしまった。
その時に戦闘将の石笛も一緒に持って行ってしまったのだと……
「その石笛って何よー、です」
「戦闘将の石笛は馬王様を閃馬として顕現させる力を持つアイテムで戦闘将だけが持つ事を許されており申す」
「それで青い馬になったのが久方ぶりって言ってたのか……」
「くくくっ、そうだアーモンよ、すまなかったな」
「いえ、それより魔眼って受け継いだり出来るモノなんですか?」
「天眼だけの特殊性と思われ申す」
「ただ、こればっかりはヨモギでもポイ家の者にしか知らされてないんです」
「ポイ家の人ってポイティンガー以外には居ないんですか?」
「それこそがティンガー氏が某に戦闘将を譲った理由なのです」
それから聞いた昔話は、あの無作法で適当なポイティンガーのイメージとは掛け離れた儚くも悲しい物語だった。




