天地鬼灯
「では、この天地鬼灯が消えるまでに多く切り倒した方を勝ちとする、始め!」
淡いオレンジ色の鬼灯の実を弾き地面へ落とすと
地面が楕円を描きながら真っ赤に染まった。
それは枯れ草に種火を落としたかの如く勢いで広がったが決して地面より上へ炎は上げず地面のみが燃えるようにメラメラと色付き揺らぐだけの不思議な光景で、まるでプロジェクションマッピングのようだった。
「おっしゃあ!」
「なっ!」
大鎌捌きを見せると豪語していたアルワルであったが、それは大袈裟でもない見事な腕前であった。
いや正確には腕前プラス足前であろうか?
「……赤猿……足で鎌」
「すごいぜ、腕で刈った勢いを殺さずに足で刈ってるんだぜ」
腕で大鎌を振るい、その勢いで回転するのではなく8の字を描く様に足に持ち替えて大鎌を振るっているのだ。
「目が回らない最大限の速度の為に編み出した方法です」
雪豹系獣人のコスマスが補足した通り、回転したのでは目が回る可能性は高い。
「うらぁ!」
「アーモンだって負けてないわ」
ラッカの言う通り俺も負けてはいなかった。
アルワルの8の字刈りは確かに速いが、こっちはヒューマンの種族スキル、クイックを発動している。
同速? いや少し負けている? 違う、負け始めているのだ。
「腕が辛そうよー、です」
片手で刈れれば良いのだが流石に無理で両手を使い渾身の力を込めての大振りで、やっと刈れている俺は手首に負担が積もり速度が徐々に落ちていた。
(くそっ、剣じゃ限界だ! アルワルの鎌みたいに柄の長い刃物じゃないと)
ゆっくり考える余裕もなく、ただ同じ長柄の刃物の事ばかりを考えながら繰り返し常春の土筆を切り倒していた。
「アーモンさん、鬼灯が半分超えました。後半は消えるまで速くなるので残り頑張って下さい」
「頑張ってったってなマテオ、剣じゃ手首が限界なんだよぉおぉ」
叫びながら刈った、その瞬間!
シュルッ! シュルシュルシュル
「うおっ!」
久々の感覚だった。
ウロボロスが掌の中で回転し……そして……
「おい、何だありゃ」
「斧だ! あの剣、斧に変わったぞ」
(この斧は……ああ、そうだ神事で見た事がある……)
「斧始めの神事」
前の世界で育った日隠神社で子供の頃に見た神事、『斧始めの神事』は神社を建て替える為に使われる木材に最初の斧を入れる神事だ。
その時の神事斧と同じ形にウロボロスは変形していた。
「アーモン、切らなきゃ差が開くぜ!」
(そうだった、切るんだ)
スコン!
剣とは違う斬れ味……
随分と楽に刈る事が出来る。
それでも……
「得物を変えても追い付けんわぁね」
確かにアルワルの切り倒す勢いには追い付けそうになかった。
速度は俺の方が速い、ただアルワルは確実性が高かった。
俺の方は神事斧モードで楽になったとは言え慣れないせいか何回かに一回は切りきれず刃が幹に食い込んだりして差が開く一方だった。
「……赤猿……魔眼使ってる」
「えっ?」
クコの指摘通りアルワルの瞳が輝いてるように見えた。
勝負の前に話していた時には、なかった輝きだ。
(それなら、ダメ元で……)
「金環を発動」
アルワルの魔眼を勝手に使わせてもらう。
俺は瞳のゴールドリングを輝かせた。
「のるほど、そう言う事かぁ」
それは不思議な見た目だった。
常春の土筆の弱点は、ここですよと教えてくれる様にウィークポイントが見えるのだ。
そのポイントに刃を立てると失敗なくスパスパと切り倒せた。
そして遂にアルワルの速度を超え、このまま続ければ追い付くと思われた……その時!
「消灯、そこまで」
天地鬼灯が地面に灯していた炎が、最後には線香花火が火を落とすように、スッと消え、ヘレフォーの声が勝負終了を告げた。




