雫フキ集落
集落で歓迎会を催してくれるらしく準備が終わる頃には、すっかり夕暮れになっていた。
そして夕暮れは、この雫フキ集落のメルヘン度をさらに倍増させていた。
「ん〜可愛いぃわ」
「……光が……蛍光色」
ポワンと淡い光が大きなフキの茎に灯っている。
そのフキが何本も……と言うより何棟も建ち並んでいる様は、おとぎの国のような光景だ。
「お客人、こちらへお座り下され」
「へい」
「何よ、アーモンその返事は?」
「いや何だか、ここの人達が時代劇みたいな話し方だったから、つい」
「何ですか、そのシタイゲキって?」
「もうマテオ毎回、聞かないで」
(いやいや死体劇ってなんだよ)
メルヘンチックな場所だけど人々は時代劇みたいな話し方……
(や、ややこしいな)
広場の中央には火が焚かれ集落の人々が思い思いに座っていた。
色んな種族がいるが獣人の比率が高いように見える。
「お、ドワーフもいるぜ」
「エルフもいるよー、です」
「……金剛……いない」
さすがに稀少種族の金剛はいないが全体の半分が獣人で残りがヒューマンやドワーフにエルフと言ったところだろう。
もちろんハーフやクォーター、ミックスもいるが皆に共通しているのは戦闘装束を身に纏っている事だろう。
男達だけでなく家族らしき女性や子供までもが何かしら防具を身に着け武器を傍らに携えている。
「こちらへどうぞ、将殿が、お待ちです」
案内人に通され俺達はヘレフォーのいる近くへ座らされた。
「よく来られた、ゆるりと寛がれよ」
「将殿、この様な者共をフキに通される意味が分かりません」
「わしもじゃあ、将殿が、なして饗されらぁね?」
側近?
超絶歓迎されてないんですけどぉぉお!
「某が戦ぶりを見て、お連れした客であるぞ」
「そりゃあ知ってらぁね、じゃけんど弱そうじゃあ」
「将殿、自分もフキに相応しい様には見えませぬ」
戦闘将ヘレフォーと側近らしき二人の獣人が揉め始めた……
一人は白い豹系の獣人で、こちらは割と冷静に話をしている事から話せば分かりそうな雰囲気だ。
もう一人は赤い毛の猿系獣人で話し方も振る舞いも荒々しく見るからに話し合いで、どうこうなるタイプではなさそうだ。
どちらも俺達をヘレフォーが雫フキ集落へ招いたのが気に食わないらしい。
「あのぉ……ヘレフォーさん迷惑だったら別の集落へでも移りますけど?」
「いや、アーモン殿、その必要はござらん」
「ほらぁ、腰抜けじゃあね」
「将殿、せめてゼンマイ集落、本来ならヨモギで充分だったのでは?」
「そうじゃ、そうじゃ、ヨモギがお似合いじゃあね」
今回、連れて来られた雫フキ集落はカータの中でも選ばれた者達の集落なのだろう。
彼らは、この場に居る事に随分と誇りを持っている様だ。
それと同時に他の集落を見下している様子が言葉の端々に見て取れる。
そして、その態度が予想外の人物に火を着けてしまった……
「ヨモギを下に見るのは止めて下さい!」
マテオである。
「なんじゃあ、お前さんヨモギの出身かぁ、通りで弱そうじゃあね」
「強さの違いだ! お前達なんてヨモギが、なければ仲間割ればかりする喧嘩バカじゃないか」
「なんじゃとぉ!」
トラブルポーターマテオ健在である。
またしてもマテオのせいでトラブル勃発だ、ただ、今回はがりは仕方ないと思ってしまった。
「それ以上申すなら、勝負するしかあるまいな」
ヘレフォーの提案で、どうやらマテオと赤い毛の猿系獣人が勝負する事になったようだ。
こんな事になってどうしよう。
止めた方が良いのだろうか?
何で、こんな可愛い雰囲気のメルヘン集落で勝負だ何だと喧嘩腰の話になるんだろう?
みんなで楽しく火を囲めばよいじゃないか……
うん、やっぱり止めよう!
「あのぉ……」
「相分かった! このアルワルがアカゲザル系獣人の誇りに賭けて、その勝負受けたらぁね」
「いいのですか? 将殿、死にますぞ……あの少年」
「某、戦闘将ヘレフォーがアーモン殿とアルワルの勝負見届け人を引き受け申す」
「へ?」
勝負するのはマテオとアルワルと言うアカゲザル系獣人ではなく俺とそのアルワルらしい。
何で俺が……




