難攻不落のカータ
馬王を目指して草原を進んで行くにつれ、どんどんと植物が大ぶりになって来た。
「ここの草って大きいわ」
不思議そうなラッカは山吹色の瞳を輝かせている。
魔眼『魔力視』を発動させているようだ。
「どうだった?」
「全然、普通の草なんだけど……この土地全体に魔力っぽい反応がボンヤリ見えるの」
首を振りながら納得いなかい様子のラッカを見ながらニヤニヤとしているマテオにイラッとしていたが……
「これ草が大きいんじゃないぜ、ボクらが小さくなってるんだぜ」
『解析眼』の持ち主であるピスタは魔眼を発動せずとも物事の本質を見抜く能力があるのは、ここまでの道中でも証明されているが今回も流石だった。
「えー、ピスタさん早過ぎますよぉ、気付くの!」
やっと、がっかり顔のマテオが見れて俺としては満足だ。
ま、がっかりしようが、しまいがリャマ顔なので実際は良く分からないんだけど……
「この特性こそが難攻不落と言われるカータの所以なんですよ」
「そんな風に言われてるの?」
「そうよー、です」
俺とラッカやピスタはバビロニーチ生まれだから知らないだけでハリラタ出身のペカンやクコにとっては当り前の知識らしい。
それでも自分達が小さくなっていく現象は知らなかったらしく驚いている様子だ。
「何処とも争う必要がないのでクモ王女様との婚姻を結んでない唯一の民なのですから」
「そう言えば草原の民との子供は聞いた事がないぜ」
「……川の民もいないから……唯一ではない」
「えー、本当ですかクコさん?」
「……川の民は……断っただけ……草原はモテなかった?」
「なんて事を言うんですか!」
マテオをクコが、からかいながら歩いている間に周りの草は俺達の背丈を追い抜き、すっかり大木のようになっていた。
いや、大木と言うよりも巨木……いやいや、それを超えている大きさだ。
「こりゃあビルだな」
「何ですか、そのビ……」
いつもの、やりとりが始まると思った、その時!
カッ、カッ、カッ!
「誰か来る!」
馬だった。
これが馬王なのか?
いや違う、見た事ある顔……
「戦闘将!」
「ヘレフォーさんだ」
近付いて来たのは馬に騎乗した馬系獣人、草原の民の戦闘将ヘレフォーだった。
馬顔の獣人が普通の馬に跨がる光景は摩訶不思議なものだが笑ってはいけない。
絶対にだ!
「……馬が馬に乗る……ウケる」
(おい、クコこら〜!)
どんなシリアスな場面でも、ふざけて来たクコの悪い癖が遂に問題行動を起こしてしまった。
やらかしやがった……
「ハッハッハ、クコ殿には敵いませんな」
「……ハッハッハ」
俺達でも焦ったんだマテオの顔が真っ青だったのは言うまでもない。
とは言えリャマ顔なので実際は良く分からないのだけど……
ヘレフォーは俺達が近付いて来たのが見えたので迎えに来てくれたらしい。
草原の民エリアであるカータから見ればエリア外に立つ人間は巨人並みなので一瞬で見つかるのだとの話だった。
「それなら難攻不落なのも頷けるぜ」
「気付かれずに侵入なんて事は出来ませんからカータでは」
マテオはカータへ着いてから、ずっと自慢げだが久々の故郷なのだ、もう今日のところは許してやろう。
「仮に目を盗めたとしても馬王様が感知されまする」
「その馬王様には、いつ会えますか?」
「会えるかどうかは、この地カータが選択する事ゆえ某からは何とも言えませぬ」
プトレマが言っていたのは、これだ。
「見たけど会えなかった」
俺達も遠目では既に見ている、このまま会えなければプトレマと同じになるだろう。
「どちらにせよ本日のところは集落でゆっくりされよ、皆が楽しみにしておりまする」
案内されたカータ内の集落は予想と違う雰囲気だった。
好戦的な騎馬民族なのだ、てっきりゲリラやテロリストのような戦闘以外は必要最小限って暮しかと思っていたが……
「可愛いわ!」
「草が家になってるよー、です」
「そうなんですよ、ここは雫フキの群生地なので茎に部屋があるんです」
「集落毎に植物の種類が違っており家も植物毎に造りが違っております。ここは某の住む集落でカータの中でも一番の大きな規模になりまする」
そこは十階建のマンションサイズのフキが並んでいた。
茎に窓が何個も開いていて縦に何層も部屋があるそうで、まさにマンション的な住居になっていた。
その見た目は北欧的なメルヘン感に溢れていた。




