皇帝
「いざとなれば城ごと吹き飛ばせるのじゃ」
イーズの、その言葉を聞いて俺は皇帝シュメーのくれたコインで正面から堂々と城へ入る事にした。
とは言えイーズのくれた鱗サングラスは着用した。
「どうぞ」
通されたのは立派な彫刻があちこちに施された大広間だった。
そこには既に大勢の人が並んで立っていた。
そして、その中に……エラトスもいた。
鱗サングラスのお陰か俺に気がついてない様子だった。
しばらくすると場の空気が一変した。
シュメーの……皇帝の登場である。
カッ、カッ、カッ!
大理石のような床を歩く足音が大広間に良く響く。
一足一足に広間内の緊張感が高まっていくのが分かる。
仰々しく皇帝登場の口上が述べられ、それに合わせ皆が整列する様は見事だった。
「楽にしてくれ今日集まってもらったのは他でもないカシューナの事である」
(そう言えばカシューが見当たらない)
「攫われていたカシューナを取り戻した日の事を、もう一度余に説明してはくれんか?」
皇帝の言葉に意気揚々と前へ出て来たのは例の濁り目だ。
「畏まりました陛下、カシューナ姫奪還の立役者である、この大司教モヘンジョが改めて説明いたしましょう」
忌々しい、この男は自慢気にありもしない話を嬉々として話した。
連れ去られたカシューは嫌がるのも無理矢理に魔眼を使わされていた。
その魔眼によって見つけられたドラゴンによってブレスが放たれそうになった所を危機一髪で助け出したのがモヘンジョなのだと……
「全く逆なのじゃ」
イーズの言う通りだ。
呆れたもんだ、どうやって助け出したのか肝心なところはボカシているし……
「どうやって助け出したのか具体的に教えてくれ」
流石シュメーだ。
俺が思ってた事と同じ事を言ってくれた。
いや、そもそもシュメーは、もう知っているのだ俺の黒湯気コマちゃんとシーちゃんでドラゴンブレスが防がれた事を……
「えっと、それは……そう! 飛び降りたカシューナ姫様をスカラとカラルが受け止めたのです」
(それは、お前から逃げた時の事だろう)
「では立役者はスカラとカラルなのではないか?」
「あ、いや……ぼーっとしておったスカラとカラルに即座に指示を出したのが、この大司教モンジョなのです。はい」
「そうか、では飛び降りなかったお前はドラゴンブレスに当たった事になるな?」
「あ、いや、それは……」
詰んだ。
「カシューナに無理矢理、魔眼を使わせていたのは、お前だなモヘンジョ」
「そ、そんな滅相もございません」
「ドラゴンブレスを防いだのは巨大な黒い犬のようなものではないのか?」
「ど、どこで、そのような事を聞かれたのでしょうか?」
「どうなのだ?」
「そ、そうでした部下に使い手がおったのでした……失念しておりました。ハハ」
「もう良い。お前が余に嘘の報告をした事は良く分かった」
「し、しかしながら陛下! わたくしは国に良かれと思えばこそ……」
「黙れ、モヘンジョ! 国の為にした行為でカシューナは死ぬところだったのだぞ」
そこまで言うと皇帝……シュメーは壇上より降り始め俺の前へ来ると小声で話しかけて来た。
「アーモン! あの男、モヘンジョにだけ君の瞳を見せてはくれないだろうか?」
「良いですよ」
シュメーの考えは理解した。
衛兵によって引っ張り出されたモヘンジョの前へと俺は歩みよると他の皆に見えない角度でしゃがみ込んで鱗サングラスを外した。
「やあ、ホールマウンテンでは、どうも」
「お、お前がどうして皇帝陛下と! くそ、ち、違うんです陛下! このような者の言う事など聞いてはなりません」
「モヘンジョを地下牢へ永遠に幽閉せよ」
「なっ! ええい、皇帝と言えど知った事か! 隷属せよ」
しまった、モヘンジョの濁り目が鈍く輝いてしまった。
シュメーが隷属されてしまう……と思った瞬間だった。
「消えた?」
皇帝シュメーはモヘンジョの背後へ立っていた。
そして……
一閃!
手刀がモヘンジョの首を飛ばしていた。
吹き上がる血しぶきに動じる事もなく立つシュメーは別人のように冷やかに見えた。
ヒューマンの種族スキル、クイックで移動……それも尋常じゃないスピードだ。
そして獣人の種族スキル、レイジを込めた手刀……今まで見た中で最大級のレイジだろう。
(忘れていた全種族混血サークルの末裔……それが金眼の一族バビロニーチの皇族なんだった)
「このような事は最後にしたい、皆、心に留め置いてくれ」
「はっ!」
こうしてカシューを連れ去ったモヘンジョは葬られた。
これにて第6章『たなびく旗に想う』編終了です。第7章も、よろしくお願いします。




