衛星都市
衛星都市で一泊し朝食を露店で食べる事にした俺とイーズだが……
「やばい、目立ってるかも……」
最初は俺のサングラス的なモノが目立つのかと思ったが観察するに違う事に気がついた。
「うぅ〜ん! 朝は気持ち良いのじゃ」
「こ、こら、イーズ伸びとかするなよ」
「何でじゃ?」
「な、悩ましいからだよ」
「おほ、ダーリンもやっと妾の魅力に気がついたのじゃ」
ツインテールでビキニアーマーの大人美人、それでいて妙に人懐こい雰囲気。
目立たない訳がないのだ。
「そこの姉さん、これ食べてってよ」
「何じゃ、くれるのか?」
「こっちもだ! 食べてってくれ」
イーズが立ち寄る露天に人が集まるもんだから露天商達がイーズ争奪戦を始めてしまった。
すぐにでも連れて逃げたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢して、この好機を利用する事にした。
「はふっ、旨いのじゃ」
「どうして、この街はコロポックが多いのですか?」
「おっ、なんでぇゴーグルのあんちゃん達は他国の人かい? それで、その変なゴーグル……いや何でもねぇ」
露天商によると皇国バビロニーチ、中でも皇都バビロニは人種差別に厳しく奴隷などもっての他なので他国では差別されがちな種族が普通に生活しているのだとの事だった。
(それでハリラタではコロポックを見かける事が少ないのか……)
カシューを攫われた事でバビロニーチ、特にテーベの鎖がいる皇都バビロニには悪いイメージを抱いていたが話を聞く分には良い国、良い街に思えて来る。
「あの店の片目の獣人見えるかい? 元奴隷なのさ、ああして商人として暮らせてるのも皇帝のお陰さ」
別の店の女露天商の話でもバビロニの印象は良くなるばかりだった。
元々バビロニーチは奴隷制度を嫌い人種差別にも厳しい国ではあったが、ここまで解放的になったのは現皇帝になってからだとの話だった。
「良い皇帝なんですね?」
「ああ、そりゃもう! あたいらにとっちゃ神様みたいなもんさ」
「むぐ、旨い物もあるし最高の国なのじゃ」
「イーズは黙っててくれ」
その頃になると国の話に我も我もと声をあげる元奴隷やコロポック、獣人の中でも差別されがちな種類の人々が集まって来た。
「ただな良い事ばかりでも、ねえんだわ」
「えっ?」
「貴族様が荒れてな」
皇帝の命により一方的に奴隷を取り上げられた貴族や領主たちは面白い訳がなく一時期は揉め事が絶えなかったそうだ。
「それが落ち着いた原因は?」
「イフニールさ」
「伝説の?」
「それが実在したのさ」
そして逆らう貴族の中の一つが見せしめのようにイフニールによって文字通り消し去られたのだと……
「落ち着いたと言っても裏で色々とやってるらしいのさ」
「ああ、そうだ皇女だって貴族に攫われてたって噂だ」
(なるほど、そう言う事になってるのか……)
伝説と思われていたイフニールを探し出したのはイーズを探し出したのと同じ方法、つまりカシューの過去視を利用したのだろう。
では現皇帝がカシューを利用しているのか? いや、貴族から奴隷を取り上げるほど人間の出来た皇帝が、そんな事をするだろうか?それは考えにくかった。
それに……
(皇帝……皇女……ん? 皇帝ってカシューの兄弟って事か?)
そうなると、やはり『テーベの鎖』が勝手に動きカシューを利用している可能性が高いのだろう。
皇帝は知らない可能性が高い。
カシューが貴族に攫われていたってのも皇帝へ向けての嘘かも知れない。
「で、食べ足りたのか?」
「まだ食べれるけど、そろそろ行くのじゃ」
カシューは、きっと城にいる。
いくらイーズの鱗式光学迷彩があるとはいえ城のどこに居るかも分からずに侵入するのは無謀だろう。
日暮れと共に今夜は偵察し作戦を練る。
それが昨夜の宿で同じベッドで寝ようとするイーズを退けながら決めた方針だ。
日が傾きかけた頃に俺とイーズは衛星都市を一旦出て人目のない場所まで来たところでドラゴン形態のイーズへ乗って皇都バビロニへ出発した。
(待ってろよ!カシュー)




