鱗式光学迷彩
切り立った岩山の頂上へイーズは降り立ち人型へと姿を戻した。
「どうじゃった妾の抱き心地は?」
「言・い・か・た! それは良いとして何で、こんな所で降りたんだよ」
「妾は姿を見えなく出来ん事もないがの、ある程度の奴なら気付くのじゃ、その辺の説明とか聞いて欲しいのじゃ」
「なるほど」
イーズに初めて遭遇した時に鱗でリフレクトされた事があったが、その能力の応用で姿を認識し辛くする事が出来るのだとの話だった。
「やって見せれたりする?」
「どうしても見たい?」
「お、おう」
「他の人に見たって言わないかの?」
「えっ、言っちゃダメなのか?」
「言わないなら……見せるのじゃ」
「わ、分かったよ……言わない」
「絶対?」
「う、うん絶対……」
何か変な所でも見せるかの様な物言いはイーズの悪ふざけなのだが、顔を赤くして乗せられてしまうアーモンは、まだまだウブである。
その姿は透明と言うよりは全身が鏡になったかのようだった。
意識せず見れば気付かぬ程の、その仕上がりは正に……
「光学迷彩だ!」
「何じゃ、そのコウガメとは?」
「いや、良いんだ。前の世界の話だから」
今まで何度となく繰り返された日本ワードへのツッコミだがアーモンは普通に前の世界の事だと話せる気軽さが新鮮だった。
「そうか、それなら、まあ良いのじゃ」
なぜか深く事情を聞こうとしないイーズであるが、アーモンも何故聞かないのかを追及しなかった。
それが自然と感じる雰囲気が、その時そこにあった……
「なるほどなぁ、気配つか存在感が大きいから、腕の立つ人間なら目には見えなくても気づいちゃうって事な」
「対処法がなくもなのじゃ、ただ、それをやると妾は役立たずになるのじゃ」
「役立たず?」
「そうじゃ、ダーリンに何かあっても助けられんのじゃ」
「どう言う事だよ?」
イーズの説明では確かに、その方法なら気配を消せるだろうが色々と問題がありそうだった。
ひとっ飛びと言った割には何度となくイーズは休憩をした。
「また降りるのかよ?」
「腹が減ったのじゃ、それに良い匂いがしておろう、ほれほれ」
「さっき食ったばかっりじゃねえか、匂いに釣られただけだろ……うおっ」
街を見つけるたびに急降下するイーズに振り落とされないように、しがみつくしかなかった。
「おほ、ダーリンが抱きつくのが堪らんのじゃ」
降りる度に街が少しずつ栄え始め大きくなって行く事から皇都が近づいているのが分かった。
次あたり皇都だろうと思われた街で雨が降り始めた。
「はむ、これは旨いのじゃ」
「どんだけ食うんだよ、もう行こうぜ」
「ダメなのじゃ、今日は泊まるのじゃ」
「何でだよ?」
「雨はダメなのじゃ」
イーズの鱗式光学迷彩は姿を消せても実体はあるので雨が降ると弾いて輪郭からバレてしまうのだ。
仕方なく皇都の衛星都市で雨が止むまで滞在する事になった。
その街は、この世界に来てから初めて訪れる都会だった。
丘の民エリアであるハルティスや港湾都市ラパよりも規模が大きく賑やかだった。
とは言え大きいだけで特に特徴もなく皇都に近いと言うアドバンテージだけで発展した都市のようだった。
しかし未だに、この世界の平均的な街を知らなかった俺からすれば皇都に入る前に知識を入手する良い機会となった。
「フードを深くかぶって、どうしたのじゃ?」
「あ、そうかイーズには話してなかったな……」
俺は瞳の金環が皇都では問題になるかも知れない可能性を話した。
するとイーズは……
「それならアレで何とかなるのじゃ」
立ち並ぶ露店の1つでゴーグルを買って来た。
ピスタが普段着用している物と似たような雰囲気だ。
「いや、これでも見えちゃうよ」
ガラスもプラスチックもない、この世界では色々な素材がレンズ代わりに用いられている。
ピスタのゴーグルはリビアングラスと言う希少鉱物らしいが今入手した安物のゴーグルには透明度の低い植物性の繭のような物が嵌められていた。
「ほれ、これで妾とダーリンは一心同体なのじゃ」
そう言うとイーズは鱗と思われる物と繭部を入れ替えた。
「おお! サングラスだ」
「何じゃ、そのサグラとは?」
「前の世界にあったんだよ日差しから目を守る目的のが」
イーズの鱗はリフレクトしたり光学迷彩化したりと変幻自在なようで今回は外から見ると黒色、こちらから見ると透明という前の世界のサングラスとは機能的に少し違うが見た目は正にティアドロップ型のサングラスそのものに出来上がっていた。
「おお、カッコいいのじゃ、ダーリン」
「そ、そうか」
予想外の出来とイーズの煽てによって気付くのが遅れたが、この時の俺の見た目はイキった中学生がサングラスかけて花火大会へでも出かけたような残念な見た目になっていた。
魔眼帯から始まりウロボロスの首輪、川の民でのプロレスマスクに続く久々のイタい容姿である。




