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魔眼の子 〜金環のアーモン〜  作者: きょうけんたま
砂漠の魔眼修道院編
14/206

修道院長ベアトゥス

 酒は騒動に巻き込まれた商人が落として割れたのだとエラトスさんが言ってくれたお陰でバレずに済んだ。


「2人共もう大丈夫でしょう。恐慌(きょうこう)は解けています」


 天然ゆえに気がつかないだけか、庇ってくれたのか分からないがシスターメルカは俺にも恐慌がかかっている事にして保護してくれていた。


「ありがとうカシューそっちの水枕も替えてくれたのね」


 下級生と思われる小さな魔眼修道士の少女がメルカの治療所で手伝いをしていた。


 ガチャン!


 あ、()けた。


「んぁ、すいません」


 転けた弾みでプラチナのサラサラ髪が顔の前にバッサリ掛かってしまっていたが立ち上がっても、そのまま歩き始めてしまった……


「あらあら大丈夫? カシューゆっくりで良いのよ」


 シスターメルカの落ち着いた様子を見るに、この子は日頃から、こんな感じなのかな?

 あ、また転けた。


(おいおい)


 俺が殴り続けた原因もティムガットの魔眼、恐眼の影響で恐慌状態だったという事になっていた。

 後から分かった事だが何かにつけて俺を贔屓(ひいき)してくれるシスターフラマウが、その様にしてくれたらしい。


「違うんだ! ヤツには掛からなかったんだ」


「黙りなさい! 修道院の中で故意に魔眼を発動するなんて許されません。砂掃除です」


「シスターフラマウ流石に、それは……」


「ダメです! しめしがつきません」


 これだけの事をしても強く言うのはシスターフラマウだけで上の立場のはずの神父達は苦い顔をするだけで黙っていたそうだ。


「今度ばかりは誰も味方をしませんね。日頃から相当恨みを買っていたんでしょう。彼は」


 それでも、貴族のティムガットを誰も(かば)わないのは異例の事だとエラトスさんは教えてくれた。






「ダーハッハ! そいつぁ面白れぇ」


「は、腹がよじれる」


 酒が飲めずにガッガリするかと思ったポイティンガーは意外にも怒る事なく、この調子だ。

 謝って損をした。


「今度そのパンの坊やも連れて来いや、カビがぁーって奴」


「はぁ」


「ヒーッ面白れぇ」


 てっきり水瓶係も首になると思ったが、そうはならなかった。

 どうしたことか修道院の守りの要、衛僧(えいそう)達が庇ってくれたそうだ。

 衛僧(えいそう)とは城でいう衛兵みたいな立場の人だ。


(どんだけ嫌われてんだティムガット)


 ただし初回のみ一般修道士の付き添いがあった。

 それ以外は、いつも通りの水瓶係の仕事だった。

 ポイティンガーのノリに一般修道士ドン引きだったけど……





 ラマーニ修道院は一番大きな聖堂、第一聖堂が修道院の中央より少し奥にあり右前に一回り小さくした第二聖堂、左前に第三聖堂がある。

 それらを回廊が繋ぎつつ更に小さな第四聖堂、第五聖堂が繋がり円となり大きな中庭を囲んでいる。

 その周辺に修道士達の学びの施設、神父やシスターの宿舎、修道士達の宿舎や生活を支える様々な施設が放射状に広がり、ほとんどの建物が回廊(かいろう)で繋がっている。


 第一聖堂の奥にある二つの塔の一つが、この巨大修道院をまとめる修道院長の執務室となっている。

 ちなみに、もう一つの塔には鐘がある。


 その修道院長室に神父長が報告に訪れていた。





「良いのですか? ティムガットが……ブラウ家の跡取りが1人悪者になっていますが?」


「ほっておけ! そもそも契約通り迎えに来ぬブラウ家が悪い、あの子とて捨てられた様な気分で育って、やっと帰れると思うておったら迎えが来ぬのでは荒れるのも無理はなかろうて、今更とやかく言わさんよ」


 ラマーニ修道院長のベアトゥスは小さな鼻眼鏡から時折上目遣いでチラリと神父長の方を見ては、また書類の束に羽ペンを走らせながら話していた。


「砂掃除までさせて後々ブラウ家と揉めたりしませんでしょうか?」


「構わんよ、貴族であれ罰は罰じゃ。今まで許されておったそうじゃが、その方が、どうかしとる」


「許さん、許さんと叫ぶらしく他の作業者が怖がっておりまして……」


「声封じの魔法を使えば良かろう」


「そ、そこまで……」


 修道院長の恩赦をもらおうと考えていた神父長は脂汗を流すしかなく話を変えるのだった。


「さすがに今回の事で迎えに来る気になった様子でして遂に良い隠れ蓑が、いなくなってしまいます。」


「そうじゃな、あの御方の立場に気付かれない為には貴族だ何だと偉そうに目立っていた存在は良い隠れ蓑であったな」


 ため息を漏らしながら書類以上に積み上がった難題の山に想いを巡らせては白髪の頭に手を当てるのだった……




 その頃、砂掃除の現場では


「許さん、許さんぞ、貴様ら皆に仕返ししてやる」


愚者(ぐしゃ)の言葉は精霊の耳に届かず(おのれ)の耳で恥を知れボイスリフレクト」


『許さん、許さん……何だこれはぁ、この忌々しい声は何だぁ、うるさい、うるさい』


 普通の者であれば、この時点で黙るのだがティムガットは、この後も叫び続けた。

 もちろん他の誰にも聞こえず自分の耳にだけダイレクトに響き続けた。

 ブラウ家の者が迎えに来た時には、げっそりとしていたと言う……








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― 新着の感想 ―
[気になる点] 修道院長の恩赦をもらおうと考えていた親父長 →修道院長の恩赦をもらおうと考えていた神父長 [一言] 気になって読み始めてるとこです。 まだ序盤だけど、おもしろい。
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