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魔眼の子 〜金環のアーモン〜  作者: きょうけんたま
たなびく旗に想う編
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別世界

「アーモンは?」


「何か様子が変なんだぜ」


「……また……高台に……いる」


 ラッカは思い出していた。

 ラマーニ修道院にいた頃の(とう)の上で幾度となく話した事を……


「見えるよー、です」


 ペカンの千里眼で確認するとクコの言う通り林を見渡せる高台にアーモンはいた。


「私も行って来る」


 ラッカが言うと皆も着いて行くと言い出したが何とか言いくるめ今回はラッカひとりで行く事が出来た。





 高台に着くとアーモンの背中が見えた。

 砂漠の修道院で日課や週課をサボって塔の上にいたアーモンを見つけた時の景色がラッカの中に蘇って来る。


(何か、大きくなったんだねアーモン……でも)


 確かに体は大きくなっていた、(たくま)しくもなっている。でも、その背中は寂しげで(むし)ろ修道院にいた頃よりも縮こまって見えた。


「ラッカか?」


「うん、来ちゃった……」


 あの頃ならラッカが見つけ次第、サボっているアーモンを叱りつけて会話が始まっていたのだがアーモンの思い詰めたような雰囲気に話しかけられずに沈黙が続いた。

 隣に座ったラッカだったが座るスペースが狭過ぎて思ったよりも近くなってしまい腕が触れそうな距離なのも沈黙の要因だろう。


「皇都って、こっちだよな?」


 しばらく続いた沈黙を破ったのはアーモンだった。


「えっと、いつもペカンがラパを見るのが、あっちだから……そうね、これ位の方角かしら」


 やはり、そうかとラッカは思った。


「カシューの事?」


「うん、分かってるんだけどな……」


 分かってる……

 今、行っても助け出せはしない。

 アーモンが分かってると言ったのは、その事だとラッカは細かく聞かずとも理解した。


「でも割り切れないの?」


「ああ、助けるって言ったのにダメだったからさ……」


 そう言いながらアーモンは上を向いた。

 自然と体を支える為に腕を後ろへ伸ばしたのだが、その弾みでラッカの腕とアーモンの腕は触れ合った……


(暖かい……)


 上を向いていたアーモンの顔はラッカを斜めから見上げるように角度を変えた。

 ラッカの横顔が見えるはずだったが、すでにアーモンの方を向いていたラッカと目が合った。

 触れ合った腕。

 思ったよりも近い距離。

 不意に合ってしまった目と目。

 2人は見つめ合ったまま動けなくなっていた……


「アーモン……」


「ラッカ……」


 2人の顔が近づいていく……





 その時!


「だったら行くのじゃ!」


「うわっ!」


「な、何?」


 突如、現れたのはイーズだった。


「皇都へ行けば良いのじゃろう? だったら行くのじゃ、(わらわ)が連れて行ってしんぜよう」


 戸惑うラッカとアーモンはイーズの勢いに当てられたのか? いや妙な後ろめたさに、あたふたしているのだろう。


「ほれ赤い顔をしとらんで、行くのじゃ! ダーリン」


 そう言うとイーズは、蜂の巣ダンジョンの手前で魔王に会いに行くと言った、あの時と同じように黒湯気を纏い始めた。


「あ、赤くねぇし」


「そ、そうよ赤くないわ」


 ますます戸惑うアーモンとラッカの顔は2人とも真っ赤であった。

 そして、その真っ赤な顔はスランバー集落から千里眼でペカンにも見られており後々、ラッカが責められる事になろうとは、この時は知る由もなかった。


「ほれ、乗るのじゃ、ダーリン」


 あっと言う間にホーリードラゴンへと姿を変えたイーズは自らの上に乗れとアーモンへ言う。


「え、でも皇都に行くって今から?」


「そうなのじゃ、妾なら、ひとっ飛びなのじゃ」


「行くわ、私」


 アーモンが戸惑っている内にラッカは行くと決断した。

 だが……


「ダメなのじゃ、妾は一人乗りゆえ」


「そうなの?」


「そ、そうなの……じゃ」


 何なら『白銀のスランバー』全員が乗れそうな大きさの嘘つきドラゴンが、ここにいます。


「わかったわ、アーモン行くだけ行ってみれば?」


「あ、ああ……そうだな行ってみる」


 イーズの勢いとラッカの即決。

 何一つ自分で判断せずにアーモンはバビロニーチの皇都バビロニへ向けて旅立つ事を決めたのだった。


 ハルティスでの二つ名『女使いのアーモン』

 今は、どう見ても『女任せのアーモン』である。





「しっかり妾を捕まえておくのじゃ」


 微妙に匂わせぶりなセリフを残しアーモンを乗せたイーズことホーリードラゴンは一気に上空へと舞い上がった。


「うっくぅ〜」


 捕まえておくどころか、しがみつくのがやっとのアーモンだったが雲を抜け水平飛行に移ってからは余裕が出来た。


「ちょ、ちょっとイーズ! 少し速度落としてくれ」


「何じゃ、ダーリンでもキツいかの?」


「シートベルトとかないからさ、落ちそうで怖ぇよ」


「落ちても妾が拾うのじゃ、ところでシートベとは何じゃ?」


「そう言う問題じゃねぇ、とにかく少し緩めてくれ」


 イーズは思う。

 初めて眼前で妾を見た時に微塵も恐怖感を抱かなかったのに、これくらいの高度で恐怖を感じるとは……


(ダーリン……うふぅ可愛いのじゃ)


 過ぎ行く眼下の景色に目を奪われる。

 雲が落とす影の濃さ。

 かと思えば雲一面に覆われて別世界を飛行しているかのような錯覚に陥る。

 すると、アーモンは一瞬、自らに失笑した。


「何を笑っておるのじゃ」


「ああ、雲の上がさ別世界だなって思ったんだけどさ、元々この世界自体が俺にとっちゃ別世界だったんだと思ってさ」


 隠していた訳ではないが今まで誰にも打ち明けずにいた転生の事実をアーモンは口にしていた。

 ラッカになら、まだしも、まだまだ得体の知れぬ感が(ぬぐ)えないイーズに対して話してしまったのは何故だろうと風圧に目を細めながら考えるアーモンであった。

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