旗
「カシュー殿を守れなかった事、深くお詫びする」
ヴァルトゼとファンデラがギルド職員達と連れ立って謝りに来たのは俺達がスランバーコール集落へ戻ってすぐの事だった。
「いえ、むしろ迷惑を、お掛けしたのは、こちらの方です。それにも拘わらず国内への滞在を許可していただいている事、感謝いたします」
メルカが大人口調で、しっかり対応する様子を見たのは初めてだったかも知れない。
今までは、この手の対応はイドリーが当たり前のように担当してくれていたからだ。
イドリーも離れた今、保護者的な気持ちがあるのだろう。
俺達がバビロニーチから逃げてハリラタに来ているのは俺達の勝手であってハリラタの国やハルティスのギルドが守る義務なんてないのだ。
謝られる必要なんてない。
メルカの言う事はもっともだと思った。
「ですが正式な入国許可もなく侵入し人を攫った賊ですから守るのは当然だったのです」
それはヘカタ代表やデスリエ王女にも言われた事だ。
国として正式にバビロニーチへ抗議はするが皇女を隠していたと逆に抗議される流れは目に見えているだろう。
国同士の諍いにまではならないだろうが、いくらデスリエ王女の客人扱いとは言え、これ以上ハリラタ国としての助力は出来ないだろう。
(と言うより、こちらも迷惑を掛けたくはないな)
イドリー達から連絡が届いたのは一月半近く経ってからだった。
「半月に一度ラパの天気塔に旗を立てる?」
「あらあら、そう書いてあるわ」
旗の色によって状況を知らせるからペカンの千里眼で確認せよ。
赤色の旗が見えたらバビロニーチへ戻って手を貸して欲しい。
それまで、とにかく強くなれ。
送られて来たのはハルティスのギルドで使ってるタブレットみたいな魔道具だった。
その魔道具に、そう言う内容が書かれていた。
「ペカンの千里眼って海の向こうのラパまで見えるもんなの?」
「頑張れば見えるよー、ただ疲れて次の日は動けない、です」
「さすがイドリーだぜ、ラパのアニキだと天気塔に旗を立てる許可まで出るんだぜ」
「……ラパ……行ってみたい」
それに今のところカシューは大丈夫だとも書いてあった。
もちろん自らの意思とは関係なく過去視を使わされている事は何とかしたいが時を待てと……
過去に一度、『テーベの鳥籠』が救出した時とは違い敵も警戒しており充分な準備をしなければ失敗を重ねて結果的にカシューをより窮屈な環境へ追いやってしまう恐れがあるからと書いてあった。
当然と言えば当然の内容ではある。
「くそっ!」
「アーモン気持ちは分かるわ、でも今は強くなる事が先決よ」
ラッカはメンタルの強さを取り戻していた。
いや、むしろ更に強くなったかも知れないのだ。
ライバルの出現によって……
「ダーリンが困っておるなら妾が助けるのじゃ」
「お前が、また隷属されたら取り返しが付かないから黙っててくれ」
「チカラを取り戻した今、あの程度の呪力にやられはせんのじゃ」
「絶対か?」
「た、多分じゃ」
「ほら」
「いや、ほれ腹が減ってなければ大丈夫じゃ」
とりあえずイーズは俺を勝手に夫と呼ぶからには味方のようだ……
それは強力な味方を得た事になるはずだ。
だが、どうだろう?
今のところ何を考えてるのかも分からない得体の知れないヤツでしかない。
分かっているのはイーズの食い意地が猛烈に張ってると言う事ぐらいだった。
「ペカンよ、腹が減ったのじゃ! ご飯はまだかの?」
「さっき食べたばっかりよー、です」
(ボケ老人かよ!)
ペカンが千里眼でラパの旗を見た翌日は動けなくなるのなら、その時にイーズの空腹はどうなるのだろう?
考えるだけで今から頭が痛い。




