隷属眼
目の前で渦を巻き膨らんでいく黒、赤、紫の魔力渦。
この至近距離からのドラゴンブレス。
どんなに気を張っても本能が覚悟してしまった。
終わったと……
「解けてー!」
膨張も限界を迎え今まさに吐き出されんとしていたドラゴンブレス。
もうダメだと思われた、その時……
ガチン!
ヴゥワフ!
何とドラゴンが噛み潰したのだ。
その表情は怒気に満ちて燃え盛るようだった。
怒気に満ちているのは表情だけではなかった完全に色と光を取り戻した瞳も怒りで煮えたぎっているように見えた。
「はぁはぁ、間に合って良かった」
アナクシが息を切らしながら駆け寄って来た。
「遅いぞ! アナクシ」
「はぁはぁ、遠くへ追いやろうとしていたのは母上では、ないですか!」
「あ、あのぅ、どういう事ですか?」
事情を聞こうとした、その時だった。
「アーモン助けてなのー!」
カシューの意識が戻っていた。
「カシュー待ってろ絶対助ける!」
「どういう事だ! このモヘンジョの隷属眼が解かれたとでも言うのか!」
カシューを連れた男が叫んだ。
隷属眼……意志と自由を奪い従わせる魔眼なのか!
つまり、この大司教モヘンジョと名乗る男がカシューやホーリードラゴン、山の民達をも操っていた張本人なのだろう。
カシューを取り返す。
そう思い気持ちは逸るが未だ片翼の獣人達によって空中へ浮いているモヘンジョからカシューを取り返すのは容易ではない。
何か手はないか、そう見回している時に上空から声が聞こえた。
「ほう、キサマが妾を辱めてくれた張本人か? そうか、なれば覚悟いたせ」
カシューを助けようと気を取られていた時、カシューと同じく意識を覚醒させたと思われるホーリードラゴンが言葉を話したのだ。
「なっ、話せるのか!」
「ま、待てホーリードラゴンよ! そなたを蘇らせたのは我なるぞ」
「ほざけ、永年の封印が解ける条件が、あと少しで揃うところであったのじゃ! それを無理矢理ほじくり返しおって皆に骨を見られたではないか!」
(てっきり隷属された事を辱めと言ってるのだと思ってたけど骨を見られた事が辱めだったのか?)
「ええい、もう一度だ、隷属せよ!」
モヘンジョは濁り目を鈍く光らせながら再び魔眼を発動したようだった。
……が、それは即座に解除された。
アナクシによって……
「解けてね」
谷の民らしくニヤリと笑うアナクシの瞳は輝いていた。
皆の魔眼の邪魔になる……その言葉の意味が分かった。
アナクシの魔眼は他の魔眼の能力や効果を解除するチカラがあるようだ。
『ディスペルアイ』そんな言葉が頭に浮かんだ、その時にホーリードラゴンは嫌な言葉を吐いた。
「まぁ、もう良い散れ」
そう言うとホーリードラゴンはモヘンジョへ向かってドラゴンブレスを吐く態勢に入った。
「ダメだ、カシューに当たる! 待ってくれ」
俺の言葉でホーリードラゴンが止まるはずもなかった。
さっきは隷属眼で操られ自らの意思に反して吐かされそうになったドラゴンブレスだったから意識覚醒と共に封じたのだろう。
だとすれば自ら放とうとしている今回は、もう止める手段がない。
「……リバーシールド」
「スカルホーンハンマー」
「ボルケーノ」
皆が出来る精一杯の手を尽くした。
効かないと分かっているが、それでも自分の出来る最大の抵抗をした。
そして、とうとうドラゴンブレスは放たれた……




