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 先程のドラゴンの突進で吹き飛ばされた弾みで半数の山の民が意識を取り戻していた。

 その半数と花の民や丘の民が協力し、動けない山の民をドラゴンから離れた場所まで運んでいた。

 その時を待っていたかのようにデスリエ王女はかつて船上で見せてくれた(いにしえ)の丘級と言われる混成魔法を放った。


「メギドボルケーノ」


 火山が噴火したかのような威力。

 その常軌を逸した攻撃力は翼だけが骨のドラゴンへと降り注いだ。

 俺は近くにいたピスタを掴みクイックで出来るだけ離れていたが、それでも背中を押されるような風圧を感じたほどの威力だった。



 モウモウと上がる噴煙(ふんえん)のような爆煙。


(頼む、効いていてくれ!)


 祈るような気持ちで煙の晴れていく様を眺めていたが……


「冗談……だ……ろ」


 そこには先程と寸分(たが)わぬ姿のドラゴンがいた。

 絶望……そんな言葉が頭に浮かびかけた。

 メギドボルケーノが跳ね返されなかった事から鱗のリフレクトは間に合わなかったはず、それでも傷ひとつ付かないなんて……


(駄目だ、諦めるな! ピスタにも自分が言ったんじゃないか! それにラッカのメンタルなら絶対に諦めない)


 そうだ『離れていても心は一つだぞ』だ。

 あの時に、つい口から出ただけの言葉だったが、それでも誓いを立てたのと一緒だ。

 ラッカとの誓い、約束なんだ。

 きっとラッカもカシューが捕らわれた事で辛い思いをしてるはずだ……

 会いに行く。

 絶対にラッカの元へ戻るんだ。


「こんなところで終われねぇんだよ!」


 魔法が効かないなら直接攻撃だ。

 剣形態のウロボロスを構え直して突っ込んだ。


「ア、アーモンだめだぜ!」


 誰も動けない……

 当然だ、あんな極大魔法が効かない相手に何が出来るというのだろう。

 それでも動くんだ、何とかするんだ!




「うるぁあぁぁ!」




 デスリエ王女のメギドボルケーノの威力のせいかドラゴンは動こうとしない。


「撤退! 山の民が動ける今、ここに残る必要はない! 総員即座に撤退! それだけが今のルールだ」


 俺が飛び出したのに動かないドラゴンを見てデスリエ王女は即座に撤退指示を出した。

 ……が、俺は今更止まれない勢いだった。

 あと少しでドラゴンへ剣が届く……

 その瞬間に、それは起きた。



 ヴァッサァ



 骨だけだったドラゴンの翼……

 その翼が骨ではなくなったのだ。


「こ、これは!」


 蝙蝠のような翼が俺の持っているドラゴンの翼のイメージだ。

 だが目の前に現れたそれは全くの別物だった。



「ホーリードラゴンだ!」



 遠くで聞こえる誰かの声……

 白く光を帯びたかのような羽根で包まれた翼。

 それはまるで天使の翼のようだった。

 ドラゴンの体に天使のような翼……

 その全てが神々しく見える。

 先程まで光を失っていた目も若干ではあるが色を取り戻したように感じた。


(どこかで見たような……)






「アーモン! 逃げるんだぜ」


 ピスタの言葉で我に帰った。

 見とれていた……

 この命の危険をひしひしと感じている状況で見とれるなんて!


(……意識ハ戻ッタ……チカラサエ戻レバ、コンナ呪リョクナド……タヤスイモノヲ)


「何だ?」


 何かが聞こえた気がした。

 いや聞こえた。

 頭の中に直接、話しかけられたような感覚だ。


「読眼を発動した。こやつ操られておるようだ」


 いつの間にかデスリエ王女が横に立っていた。

 言葉通り黄緑色の瞳が魔眼発動時特有の輝き方で光っていた。


「ドラゴンの心……」


 発動しっぱなしだった金環に後から発動されたデスリエ王女の読眼が波及し俺までホーリードラゴンの心が読めたと言う事なのだろう。


「……アーモン……カシュー来る」


 クコが指差す上空にカシューを連れた男が現れた。

 片翼の獣人4人が運ぶ籠に乗って……

 飛来した外敵を、いち早く発見したクコ、同じように俯眼の能力を使っていても持ち主であるクコは当然の如く使いこなし方が違う。



 現れた男はドラゴンへ向かって言葉をかけた。


「遂に完全再生せしホーリードラゴンよ! 我こそがお前の主人であるぞ」


「なっ!」


 その男は(にご)った目をして司教のような装束を(まと)っていた。

 見るからに仕立てのよい生地で出来ており位の高さを感じさせる風貌である。


「カシュー!」


「……」


「アーモンよ、読眼でも何も聞こえぬだろう? カシューも操られておるのだ」


 カシューの目は先程までの山の民達と同じく瞳孔の開いたような光のない目だった。

 そのカシューをも手下のように従えた司教風の男は、その濁り目で俺たちを見下すように見て最悪の言葉を吐き捨てた。


「主人である我、大司教モヘンジョが命ず、我が(しもべ)となったホーリードラゴンよ、手始めに、このゴミ共を殲滅(せんめつ)せい」


 光と色が戻りつつあったホーリードラゴンの瞳は再び光を失った。

 そして前傾姿勢になると大きく口を開いたかと思えば、その口の中には魔力の渦がみるみるうちに膨らんでいった。



 俺とデスリエ王女の目の前で……









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