鱗
ドラゴンブレスの飛沫を払いながら次の攻撃へも準備をする。
「俯眼を発動」
「解析眼を発動」
「私のは他の人のを邪魔するから止めておくわ」
アナクシも何らかの魔眼なのだろうが他の魔眼とは共存出来ない能力なのだろうか? 気になるが今は、そんな説明を聞いている暇はない。
デスリエ王女は極大魔法の詠唱途中なので『読眼』を発動する余裕はないだろう。
「金環を発動……調整可能発動にしたから、それぞれで切り替えてくれ! 邪魔だって人は封印する事も可能なはずだ」
デスリエ王女の頼みで昨日、初めてやったばかりの『能力発動』だ。
全員が同じ景色を見ていて防げる相手ではないのだ、慣れない発動方式だが、やるしかない。
ここにいる味方全員の魔眼を味方全員に波及させた。
俺達の仲間の他にも魔眼持ちがいたようだが弱めの雷眼や氷眼などの攻撃系魔眼だったのでドラゴン相手には役に立ちそうになかった。
俺は個人的に誤射しないよう最初に封印しておいた。
「……来た」
ドラゴンブレスか!
いや、直接向かって来た。
やはり何度も連発するのはドラゴンと言えども難しいのか?
(ホッとした……してる場合じゃねぇ!)
大型のドラゴンが巨体を揺らしながら向かって来る様は身の毛のよだつ恐怖を感じさせるには充分過ぎる光景だった。
「スカルホーンハンマー!」
ピスタが最大力で慟哭を放ったのを見たのは初めてかもしれない。
今まで見た慟哭とは桁違いの威力だった。
黒色魔力が一直線に向かって来るドラゴンへ、もろにぶつかった。
その衝撃だけでも足元がふらつく程の衝撃波が生じていた。
ぶつかった慟哭は、せき止められた濁流のように黒色魔力が膨らんで、そして弾けた。
「……リバーシールド」
「嘘だろ……」
防がれたのか?
効いた様子がない。
クコの防御魔法がなければ、逆に弾けた慟哭でダメージを喰らうところだった。
「鱗で何かしたわ」
メルカの言う通りだ。
解析眼で見る限り、あの一瞬、鱗に変化が見られた。
一瞬だったが波を打つように色が変化し光彩を放ったように見えた。
(くそっ、ラッカの魔力視があれば!)
いや、見なくても魔力に違いない。
鱗に魔力を流して防御したんだ。
「きっと防御魔法みたいな効果を鱗が担ってるんだ!」
「……リフレクト……似てる」
高位の防御系魔法であるリフレクト……
その効果を鱗が担っている、それがクコの見立てだ。
もしリフレクトなのであればヘタな魔法攻撃は跳ね返され、こちらへの攻撃となってしまう。
「それでも動きは止まりました」
確かにアナクシの言う通り一旦ドラゴンは足を止めた。
だが足止めだけでは意味がない。
ある程度は攻撃が効かない予想はしていたがピスタの慟哭で傷ひとつ付かないとは思ってなかった。
だが諦めれば全滅必至だ。
出来る事は何でもやるしかないんだ。
その時、態勢を低くしたドラゴンが頭から突進して来た。
ドワーフの種族スキル、ガードを発動。
金剛の種族スキル、風車を発動。
エルフの種族スキル、加護を発動。
「リバーシールド!」
「慟哭銃!」
瞬時に皆が出来うる限りの事をした!
……が見事に全員が吹き飛ばされた。
(何だ? この違和感は……)
ドラゴンの頭がぶつかる瞬間、ドラゴンの目が見えた。
あの瞳孔が開いた山の民達と同じような光のない瞳だ。
迫り来る時は、あれほど恐怖を感じさせたドラゴンだったが間近で見る、その瞳は恐怖など微塵も感じさせず、むしろ美しいとさえ思えた。
だが、そんな事を考えている余裕はない。
次の攻撃に備えて態勢を立て直さければ!
「止まるであろうよ!」
ストラボが何か長い物を投げた。
ロープのようなそれは、魔力を帯びておりドラゴンの左足へと絡みついた。
「山の民が誇る魔蒸ザイルです」
山に出没する大型の魔獣を確保する魔道具の一種だ。
本来は山の民が連携し何本もの魔蒸ザイルをかける事で大型魔獣を押さえ込むものだそうだ。
さすがに一人の魔蒸ザイルではドラゴンを止める事は出来なかった。
「うおっ!」
あっと言う間に薙ぎ払われた。
それに……
「魔蒸が吸われた……だと!」
ホールマウンテン特有のチカラである魔蒸が一瞬でドラゴンに吸われたのだ。
その時アナクシの声が響いた。
「皆さん離れて下さい母上がメギドを放ちます!」




