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大穴から現れた絶望

 あっという間に飛び去ったティワナクと呼ばれた白眼の老人と、それを運ぶ片翼の獣人スカラとカラル。

 その3人をただ見ているしかなかった。


「カシュー!」


 そうだ敵なんて、どうでも良いんだ。

 カシューは?


「……同じ……飛んで行く」


 カシューもティワナク達と同じく片翼の獣人に連れられ既に飛び立っていた。

 少し違うのはカシューは(かご)のような物に乗りその横に男が立っている事だ。

 何とかしなきゃ!

 ただただ焦っている、その時にカシューを追う余裕など、とてもない驚愕(きょうがく)の出来事が起きたのだった。




 ドーン!

 ドドドーン!


「何だ!」


 強烈な地響きに立っているのすら、やっとだ。

 それなのに追い討ちをかけるように更に驚愕する事態が起こる。


 ヴァアァァァァァ!


 大穴から膨大な魔力の渦が吹き上がった。

 スカルフェイスツノシャチの慟哭と似ているが黒一色でもない。

 黒、赤、紫が螺旋(らせん)となり中心には金色の芯でもあるかのように(きら)めいていた。

 それに慟哭の規模など話にならないほどの威力だった……


「皆、出来るだけ離れろ! 逃げるんだ命を守れ! それだけが今のルールだ!」


 山の民モードらしきデスリエ王女の声が響く。

 その声に(うなが)され皆が()うようにして大穴から少しでも離れようとする。

 魔力渦が収まると同時に地響きも収まった……

 そして圧倒的な気配が大穴から迫って来た。


「何かが来る」


 煙が(ただよ)う大穴から何かが、ゆっくりと現れ始めた……

 灰色?

 いや白い何かだ。


「嘘だろ………」


「アーモン逃げなきゃだぜ」


 動けずにいた俺をピスタが引っ張って行く。

 大穴から出て来たのは骨の顔だ……


「くそっ、スカルフェイスか!」


「癒やし抱きたまえヒーリング」


 ここまでに負ったダメージをメルカが癒やす。

 スカルフェイスが見えた事で、これからのダメージを想定しての事だろう。

 ゆっくりと現れるスカルフェイス……その現れた骸骨の顔は……




「ド、ドラゴンだぁ!」




 よりによって現れたのはドラゴンの骸骨……


「スカルフェイスのドラゴンなのか?」


 ツノシャチでさえ、あれだけ手こずったスカルフェイスがドラゴンだなんて対応しようがあるのだろうか?


「……顔……だけじゃない」


 スカルフェイスではない、どんどん現れる姿は、すべてが骸骨のドラゴンだった。

 これはスカルフェイスではないのか?

 だからといって対応出来るのか?

 そもそも普通のドラゴンですら人の手で倒せるのかどうかも知らないのだ。


「とにかく逃げましょう」


 マテオに(うなが)され逃げながら時々、振り返っては大穴から姿を現す骸骨のドラゴンを見る。

 腹まで現れたところで肋骨の中に燃えるような光の玉が見えた。


「あれが核かも知れぬな」


 すくそばを走るイシドールが叫ぶ。

 その時、再び先ほど大穴から吹き上がった螺旋(らせん)の魔力渦がドラゴンの口から放たれた。


「ド、ドラゴンブレスって事でしょうか?」


 マテオの言う通りだろう。

 空へ放たれたから良いものの、あんな威力の魔力渦、ドラゴンブレスを直接撃たれれば防ぎようはないだろう。

 降って来るドラゴンブレスらしき魔力渦の飛沫(ひまつ)でさえも避けなければ危ない威力であった。


 とうとう骸骨のドラゴンが全身を現し、それと同時に肋骨の中心の核から肉が再生を始めた。






「デスだわ」


「……逃げれて……ない」


 丘の民の睡眠魔法や花の民の吹き矢で行動不能となった山の民が動けない為に逃げれずにいる集団がいた。

 その動けない集団を守るようにデスリエ王女がドラゴンブレスの飛沫を払っていた。


「母ちゃん!」


「ピスタは行け。それが今のルールだ」


 ピスタに行けと命令するが……


「僕イヤだぜ」


「逆らうな行け。イノウタ、アナクシもだ」


「母上、私も残ります」


 その場にいたアナクシも逆らった。

 今回ばかりはピスタもアナクシもデスリエ王女の命令を聞こうとは、しなかった。


「……」


 イノウタは何も言わずに残っている。


「イシドール殿! 次の指導者を絶やさない為だ、誰か1人でも私の娘を連れて行ってくれ頼む」


(うけたまわ)った」


 そう言うとイシドールは黒湯気の掌を消し一瞬でイノウタを抱えて走り去った。


「やめて下さいイシドール殿〜」


 イノウタの叫び声が、どんどん遠ざかっていった。


「悪い、アーモン、メルカ、クコ行ってくれだぜ」


「ふぅ」


 俺は大きな深呼吸をした。

 この、敵は無理かもしれないと思った。

 だがピスタやデスリエ王女達を置いて行くのはもっと無理だ。


「何でだ?」


「レイースを探しに来て、こうなったんだぜ」


「だから? 家族の問題だとでも?」


「僕、巻き込みたくないぜ」


「この国に連れて来たのは俺だ!」


 そうだ、そんな事を言うのであれば、そもそも俺達がラパに行かなければピスタがハリラタに来る事なんてなかったんだ。

 ただ、そんな事じゃないんだ。


「それにな、そんな事じゃないだろ無理だって、終わったって思ってんだろ?」


「だってアーモン……僕」


「ぜってー! 止める! ここに残るつもりの奴は全員全力で手伝え! 今のルールは、それだけだ!」


 無理だと思ってたのは俺の方だ。

 でも、諦めかけた女の子を目の前にした時に見栄や意地を張れないで何が男だ!

 口から出まかせを本当にしてやる。


「よく言ったアーモン、ならばしばらくドラゴンブレスの飛沫を頼む」


 そう言うとデスリエ王女は混成魔法の詠唱を始めた。

 海上の王船で見せてくれた極大魔法だろう。

 もしかしたら更に上級魔法かも知れない。


「分かったぜ……」


 ピスタは涙を隠す為かゴーグルを()めスカルホーンハンマーと慟哭銃を両手に構えた。


「あらあら、クコと私は全力で防御魔法ね」


「……防御魔法……得意」


 緊急時に出なくなるメルカの「あらあら」が聞けて少し安心した。

 大丈夫だ、何とかなる、何とかするんだ。

 何とかして、カシューを助ける。

 何とかして、ラッカに会う。


「使えそうな魔眼は全部発動してくれ!」




 肉や鱗の再生が進むドラゴンは大穴から出て、しばらく()いつくばっていたが……

 残すは骨状態の翼だけとなったところで立ち上がった。

 再生した鱗は艶があり光の加減で黒にも赤にも紫にも見えて美しかった。

 その立ち姿は威風堂々とし神々しくもあった。


「来るぞ!」






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