白眼の老人と片翼の獣人
珍妙な出で立ちだ。
仕立ての良さそうな濃い緑色の隊服のような物を着た老人。
日本の明治か大正の軍人のようだ
そこまでは別に良しとしよう。
「なんでアフロヘアなんだよ」
「アーモン! 気を付けろ、そいつの頭は蜂だぜ」
解析眼を発動したのだろうピスタによると……
アフロヘアに見えたのは大量の蜂の群れだった。
無数の黒い蜂が頭の上で蠢いていた。
ニヤリ。
ピスタの言葉を聞いて老人はニヤリと笑みを浮かべた。
それまで目を閉じていた老人の瞳が見えたが、その瞳は、真っ白だった。
(ここへ来て本当に白眼と戦う事になるなんて笑えねぇ)
パンッ!
白眼の老人が手を叩いた瞬間。
ヴァワン!
頭の蜂の群れが一斉に、そして一瞬のうちに老人から離れた。
蜂の群れが去った老人の頭はアフロヘアなんかではなくターバンのような布が巻かれていた。
それよりも気になったのは耳だ、少し尖り気味……
エルフとドワーフのハーフ集落にいた彼らと同じくらいの耳であった。
ヴゥゥゥン
耳に触る嫌な音を立てながら老人の少し上の上空で蜂達はホバリング状態になった。
明らかに、こちらを威嚇している動きだ。
下手に動けば蜂の餌食になるのだろうか?
カシューの元へ急ぎたいが行き先を塞いだ老人を前に動けずにいた。
山の民の殆どを行動不能にした旅団も同じように次の行動に移れずにいた。
パチン!
老人が指を弾いた瞬間……
無数の蜂達はバラバラに攻撃を開始した。
「くそっ!」
俺は自分に向かって来る蜂を落とすので精一杯だ。
すぐ横でクコが攻防一体式の武具で応戦している様子が何とか見える。
「つうっ!」
刺された!
激痛に一瞬、体が強張ると隙を逃さんとばかりに次の蜂が刺して来る。
(止まったら負けだ)
その時……
「スカルホーンハンマー!」
ヴゥヴァン!
ピスタがスカルホーンハンマーで慟哭を炸裂させた。
老人のすぐ横まで道が出来たかのように蜂の群れの裂け目が出来た。
「うおぉぉぉ!」
出来た裂け目へ一直線に突っ込んで行く。
ピスタのスカルホーンハンマーの放った慟哭の幅と同じだけ開いていた裂け目は、みるみる狭くなっていく。
もう少しで白眼の老人の側まで辿り着くが……
「痛っ!」
狭まった裂け目が体に触れたと同時に蜂の一撃を喰らってしまった。
(そうだ!)
ヒューマンの種族スキル、クイックを発動。
ドワーフの種族スキル、ガードを発動。
金剛の種族スキル、風車を発動。
刺され続けているがガードのお陰で立ち止まるほどの痛みではなくなった。
それにダメージが溜まれば風車で攻撃力に変換してぶつけてやる。
そして……
とうとう白眼の老人の前まで辿り着いた。
「ほうほう、面白い小僧がおるのう」
白眼の老人の周りには常に蜂が飛び意のままに攻撃を繰り出す道具のようだった。
(くそっ、これじゃファンネルじゃねぇか! つかハリラタに来てから蜂ばっかだな)
日本の某ロボットアニメの事を思いだしつつ応戦する。
「どうしてカシューが、ここに居る? お前達は何者だ!」
「ほうほう」
まるで遊んでるかのように老人は笑うばかりで何も答えはしなかった。
「風よ砂を撒き散らし舞わせたまえサンドスネーク」
久々に使う混成魔法で蜂を攻撃する。
まだまだ威力の弱い魔法だが今回は蜂の足止めが出来ればそれで良い。
「ほうほう」
(いける!)
この距離なら戦える。
サンドスネークで蜂を抑えつつウロボロスでも蜂を凪払いつつ白眼の老人へ迫る。
その時、老人は再び指を鳴らした。
ヴゥゥゥン
こちらへ突進を繰り返していた蜂達が再びホバリング状態となった。
ただ姿勢が先ほどとは違っている。
お尻をこちらへ向けているのだ!
パシュ! パシュパシュパシュ!
針を飛ばして来たのだ。
小さい針だが、これだけの数を飛ばされては堪らない。
「くそっ!」
このままじゃカシューのとこまでたどり着けない。
もう、どこかへ連れて行かれそうになっているのが見えていた。
「助太刀いたそう少年よ」
黒湯気の掌で次々に蜂達を握りつぶしてイシドールがたどり着いた。
一気に形勢逆転だ。
イシドールが蜂と飛んで来る針を黒湯気の掌で吸収している隙に距離を詰める。
「貰った!」
もう少しで白眼の老人にウロボロスの剣が届くと思った、その時!
ファッサァ!
2人の獣人が降り立ち邪魔をされた。
元々ここへ老人を連れて来たそれぞれが片翼の女獣人だ。
右の翼だけしかない獣人は白髪で黒翼、左の翼だけしかない獣人は黒髪で白翼。
その2人が降り立った瞬間はチエッカーフラッグのような色合いに見えた。
「ティワナク時間だ」
「そうそう」
老人はティワナクと言う名らしい。
「ほうほうスカラ、カラルよ優しく運んでおくれ」
どちらがスカラで、どちらがカラルかは分からなかったが……
「待て! まだ聞きたい事があるんだ」
俺の言葉など無視して、あっと言う間にティワナクと呼ばれた白眼の老人を掴み飛んで行ってしまった。
この獣人は白黒2人揃わねば飛べぬのだろうが息ぴったりに飛んでいく様は少し美しくもあった。
ただ、その美しさと裏腹に恐ろしい言葉を残して行った……
「何を聞いたとて、この後すぐに死ぬぞ少年」
「そうそう」




