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山域のチカラ

 歩きながらストラボは思いを巡らせる……


 自分の体が自分のもんだなんて幻想であろうよ。

 実際は馬に乗ってるのと同じようなもんだ、山を歩く度に違う。

 今日はどうや? 調子はどうや? 伺いながら歩くんだ。

 何年も何十年も歩いてると分かってくる感覚をあいつは初めて、いや二回目の山で掴んでた。

 頭が良いのと勘が鋭いのは違う。

 実のところ両方備えてる奴はそうはいない。

 だがレイースは両方を持ち合わせている。


「海……ラパだったか? そこには何年住んでいた?」


「はぁはぁ、6歳までです」


 会話……ここらの山での会話は声という音のやり取りで意味を理解し合う平地のソレとは違う。


 デスリエが魔眼で心を読むのと似ているが少し違う。

 会話に含まれる色々なモノを山の何者かが変換し教えてくれる。

 この山域独自のチカラだ。


(それが山の会話であろうよ)


「好きな海から離れてまで果たすべき使命とは何なのだ?」


「ハハッ、面白いですね山も」


 答えになっていない……いや、むしろ山の会話を理解していればこその答え……か?

 儂とてレイースに使命があるとは一言も聞いた事は、ないのだから。

 この海から来た少年レイースは以心伝心のような山の会話を理解して面白いと言っているのだ。

 儂とて山長候補となってから何年も経ってから身につけた技であるのに……


「レイースも面白いであろうよハハハ」


「ハハハ、はぁはぁ」


 山の民でも、こんな会話が可能な者は、もう居ない。

 かつては俺を山長に育ててくれた年寄り達が同じ様な会話を交わせた。


「懐かしい感覚であろうよ」


「……」




 歩きながらレイースは思いを巡らせる……


 海沿いを歩いている時に初めて感じた感覚。

 海鳥や小魚の群れと繋がるような……考えを共有するような感覚。

 その何倍も強い感覚を、この山長との会話から感じている。


(一言話せば、その一言が種になり根や蔦が伸びて繋がり十も百も伝わるようだ)


 山の民は皆が、こんな風に話せるのだろうか?

 だとしたら凄い事だ。

 ラパでも、ここまで強くはないものの同じような感覚を共有している場面を何度も見た事があった。

 それは工房街にいる職人達の作業を見ている時だった。

 ただし作業の間だけで普段の会話中は誰も共有出来はしなかったし誰も意識していなかった。


(作業の時だけ自然にやっているだけだったな)


 この山長は、この感覚を意識し使いこなしている。



 ストラボとレイースが意気投合するのは必然であった。

 それ故に普段は寄せ付けぬ外部の人間を山の民の生活圏内へ受け入れたのだが……

 結果レイースが囚われの身になる事となったのであった。






「は、入ります」


「どうぞ、こちらへ」


 天幕の中へ入るとデスリエ王女は十代のような見た目の丘の民モードに変貌していた。

 親切な性格の魔法民族だ。

 促されるままデスリエ王女の前に座ると……


「先ほどは、ありがとうございました」


「いえ、ついキツい言い方をしてしまって何か申し訳ないです」


 下手に出られると、こちらとしても、さっきみたいな言い方は出来なくなる。


(しかし、お礼を言うって事はデスリエ王女も言い過ぎたと思ってるんだろうか?)


「山の民モードになるとルールが全ての判断基準になるんです」


 だからルールを外れた言動も行動も許せなくなる。

 それは自分にも他人にも同様であるのだとデスリエ王女は話してくれた。


「では俺を即座に許せなくならなかったのは何故ですか?」


「正直よく分からないのです」


 あの時の自分は間違いなく山の民モードだった。

 それなのにルール破りを許すというのは別の場所ならまだしも山では、有り得ない出来事なのだと……


「山が関係していると言う事ですか?」


「この山域には何かしらのチカラが働いていて、それが山の民の掟厳守つまりルールに拘る性格に関与していると古くから言われています」


 ただ、それは今は置いておいて……お願いがあるのだとデスリエ王女は言う。





「君の魔眼でストラボの心を読ん欲しい」


「は?」


「私の魔眼は読眼です。知ってますよね?」


「はい、知ってますが俺の魔眼の能力も知ってますよね?」


 知っている、そして、その力を変則的な方法で使ってみて欲しい。

 そう言う話だった。

 そして、その方法は今まで試した事のない可能かどうかも分からない方法だった。





 ザワザワ


 俺とデスリエ王女が揃って天幕から出ていくと皆揃ってざわついた。


「ストラボさん、質問があります」


「初めて会った時を思い出すな……質問、了解した」


 ストラボとデスリエ王女が初めて会った時にデスリエ王女は丘の民モードだったそうだ。

 まるで初めて見る性格に変化しなかったのはデスリエ王女の素の優しさなのだろう。


「では私は後ろを向いて質問するので答えて下さい」


「後ろ? ああ、そう言う事か分かった」


 その後デスリエ王女からストラボへいくつかの質問がなされた。

 その間、俺は金環を発動させて俺とデスリエ王女にだけ波及するように調整した。





 そして再び天幕の中である。


「ありがとうございました」


「いや、良いんですが自分で心を読むのと何が違うんですか?」


「これは約束なんです」


 ストラボの前では山の民モードでいる。

 それは2人の間で決めたルールだ。

 しかしストラボの心を魔眼で読まない。

 それは2人で交わした約束なのだと……


「それで読眼を発動したけど直接はストラボさんの心を読まなかったと?」


「はい、山域内でのルールを守る守らないは突き動かれる感じでどうしょうもないのですが約束は少し違ってて……」


「分かりました。いいっす! 2人の問題みたいなんで、これ以上は聞きません」





 山の民はルールに厳しい。

 それは、ただの民族性とかではなく山の、この山域特有のチカラ的なものが働いていると言う事らしい。

 そして……


(そのチカラが弱まっているのか? 解け始めているのか? それをデスリエ王女もストラボさんも感じ始めているのだろうな)


 その夜は綿密な打ち合わせが行われ翌朝出発前にはイシドールから旅団へ激が飛ばされた。


「これより山の民に捕らわれているレイースを奪還する! ただし、山の民も多民族国家ハリラタの民である。犠牲は最小限……いやゼロで成し遂げる油断するな!」














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