窟僧ポイティンガー
重い水瓶を担いで砂漠の中を歩かなければならないのだ人気がなくて当然だ。
水瓶係を希望すると、あっさり採用された。
ただ今までは一般修道士が担当しており魔眼修道士が担当するのは初めての事で、どうするかの議論はされた様だが……
「壁の外だぜ、ヒャッホー」
初めての壁の外に浮かれていたのは最初だけだった。
「マジかぁ、死ぬぅ、キツい重い歩き辛い」
そもそも大人の仕事だ。
キツくて当たり前だ。
「しっかし、こんな簡単に解毒薬と武器くれるなんて、あの苦労は何だったんだ?」
そう、砂漠である以上ダブルスコーピオ等の魔物が出現する可能性がある為、解毒薬と短剣が配布された。
しかも簡単な訓練まで実施されたのだ。
(魔物に慣れてる様な動きだと、まるで戦った事がありそうだと言われた時は焦ったな)
「いい? 絶対にスキル使っちゃダメよ。しばらくは安全確認も含めて塔から見張られるはずだから」
ラッカの助言がなければ種族スキルを各種発動していたところだ……
一時間半程かけて、ようやく辿り着いた僧窟[そうくつ]と呼ばれる終の住処には、申し訳程度の木のドアの様な物があった。
ノックをして声を掛けた。
「こんにちはー水を持って来ましたー」
「うるせぇデケェ声出すんじゃねぇ入れ! それに木戸を叩くんじゃねぇ」
ついノックしてしまった。
油断すると日本の習慣が出てしまう事がある。
それにしても、ずいぶん乱暴な喋り方をする窟僧だ。
宗教的に死を迎える修行僧と聞いて、もっと静かな人を想像していた。
「お邪魔しまーす」
「ん? 何だ魔眼か? 珍しいじゃねぇか? じゃが何だ、その、オジャマシ……ってのは?」
(しまった、どうしたことか今日は日本モードだな)
この窟僧は名をポイティンガーと言う。
本来窟僧とは最低限の水だけで祈り続け砂漠に命そのものを供物とする死の修行僧だが、このポイティンガーは、どうやら違う様だ。
「死ぬ訳ねぇだろバカか? 窟僧なんて俺には意味解んねぇな」
何かしらの肉をかじりながら陽気に話すポイティンガー。
ガタイも随分良い。
(いや、あんたが、その窟僧なんだろうが。そもそも肉食っちゃダメだろ)
久しぶりに見た肉に目が離せずにいると食いたきゃ自分で狩るこったな。
なんて言ってくる始末。
相当困った人なのは間違いないが……
「よし、お前気に入ったぞ」
「はあ」
「頼みを聞けば次は狩りを教えてやろう」
(頼み聞いても食わせてくれないとか……)
ポイティンガーの頼みは解毒薬をくすねて来いって事だった。
何でもダブルスコーピオの群れを倒したいが流石に解毒薬なしでは無謀だからな、との事だ。
そもそも死を迎える為に僧窟に住んでいるはずの人間に解毒薬は必要ない。
希望しても不信がられるだけだ。
くすねて来るしかないだろう普通なら、でも俺は持っている大量にだ。
こうして俺は水瓶係としてポイティンガーの僧窟へ通っては、変な頼みを聞き、狩りや罠の作り方、果ては魔物との戦い方まで教わる様になっていった。




