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サンコロ

 谷の民の子供達は生意気だ。

 清々(すがすが)しい朝の空気を楽しみに外へ出た俺に対して何だ、この挨拶は!


「おいアーモ遊んでやる」


「やい泣きっ子遊んでやる」


「クハハ、アーモン完全に舐められたぜ」


 泣きながらメルカにヨシヨシされてるのを子供らに見られたのが失敗だった。

 こうなりゃ遊んで兄さん感を叩き込むしかないだろう。







「く、くそぉおぉぉ」


「弱ぇなアーモ」


「泣きっ子だから、しかたないぞ」


 てっきり隠れんぼでもするのかと思ってたらサンコロと言う三角形のサイコロを使った賭事(かけごと)が遊びだった。


「ほら早く寄越(よこ)せよ、その目隠し」


「次は、その銀色の賭けろな」


「だ、だめだウロボロスは賭けないぞ」


 砂漠のラマーニ修道院から持って来ていた魔眼帯を賭けに負けて取られてしまった。

 まあ一旦は捨てようとしたんだから問題ないんだけど、ここまで旅を共にして来たアイテムだから少し寂しい……


「バカだなぁアーモここで辞めたら取られ損だぞ何か賭けて取り返すのが男ってもんだぞ」


「そうだぞ、だから泣きっ子なんだぞ」


 子供のくせに賭事から足を洗う仲間を抜けさせない話術まで駆使するなんてタチが悪過ぎる。


「う、うるさい! それに俺はアーモじゃなくてアーモンだ!」


 何とか子供達を振り切って集会所に戻ってみると、そこはまるで賭博場のような有様だった。





 コンコラコロン



 三角のサイコロ、サンコロの転がる音が響く集会所……


「おや旦那もしかして子供らに何か取られましたね?」


「そうなんですよ聞いて下さいよ」


 大人の谷の民が話を聞いてくれた。

 ほら、ちゃんとした大人だっているんだよ、さっきの子供達が特別タチが悪かっただけだったんだ。


「だったら取り返して来ましょうか?」


「えっ、本当ですか! 助かります」


 やっぱり良い人もいるじゃないか!


「その代わりに後で銀色の賭けて俺とサンコロしましょうや」


 ダメだ……ここの民は賭け狂いだ。


「いいです、やりません! 俺は賭事は苦手なんです」


 やばい早く出発しなければ俺だけじゃない、みんなも丸裸にされてしまう。

 早く、みんなを探さなければ……




 最初に見つけたのはデスことデスリエ王女だ。


「も、もう勘弁してくれ賭けるもんがねぇ」


「ほう昔の族長だったら、そんな情けない事は言わなかったぞ」


 メルカに()ってもらった蜘蛛(くも)の巣の刺繍(ししゅう)のローブを(まと)ってるせいもあって、もう見た目は完全にヤバイ人である。

 しかも瞳が輝いている……

 心を読む的な魔眼使うとかイカサマじゃないか。


「もう何人目が分かりません……一晩中賭っぱなしですよ」


 イノウタだ。

 ほっておけず王女を見守っていたのだろう目の下のクマが酷い。

 こちらも、ある意味ヤバイ人に見える。


「イノウタ代わるから少し休めば」


「うぅ、アーモン優しい」


 そう言うとイノウタは、そのまま俺にもたれて寝てしまった。




 しばらくするとピスタが大荷物を抱えて近付いて来た。


「イノウタずるいぜ」


「ピスタ少し寝かせてあげな、それより何の荷物?」


「賭けに勝ったんだぜ」


 そう言うとピスタは赤眼を輝かせた。


(解析眼でサンコロ見たな……)


 そりゃ勝って当たり前である、裏どころか中や相手の手の内まで透け透けなのだから。


(このイカサマ親子は、まったく……)


「昨夜、寝てしまわなけりゃ、もっと稼げたんだけどな」


「ちゃんと寝て、それだけ稼げば充分だろ」


 ずっとピスタを見て来て気付いたのは夜に弱い事だ。

 魔法が使えない事が自分の弱点だとピスタは思ってるようだが膨大な魔力量と慟哭銃やスカルホーンハンマーがあれば魔法などなくても問題なく夜に弱い事が唯一の弱点ではないかと思う。




「母上、私が相手になりましょう」


「くっく、面白い何を賭ける?」


 ピスタでもイノウタでもない別の女性がデスリエ王女を母上と呼んだ。


「あれ誰なの?」


「母ちゃんの娘だぜ、でも何番目だったか覚えてないぜ」


「あの人が実質、谷の民の長ですよ」


 いつの間にかいたマテオが説明を始めた……

 ちと気になる点があるが……まぁ、まずは聞こう。


 彼女の名はアナクシ。

 デスリエ王女が山の民との間に作った子供である。

 なるほど美人なのはデスリエ王女の遺伝であろう。

 グレーの髪色は山の民の遺伝だろうか?

 彼女は花の民エリア、つまりハリラタで育てられた後に谷の民エリアつまりミヤァへ嫁いだのだと……


「谷の民の族長制度を無くしたのは彼女です」


 すべてのルールは賭事で決める。

 その唯一無二のルールを賭事で勝って決めたのが彼女アナクシなのである。

 これは掟やルールに厳しい山の民の遺伝子なのだろう。


「母ちゃんの事だ、何か意味か目的があって、ここへ嫁がせたんだぜ、きっと」


「そうだろけど、それが何なのか見えてこないな」


 するとマテオが……


「夕べ話し込んだ谷の民のポーターの話では……」


 賭事で族長がコロコロ変わるミヤァでは作物の種付けの時期や数、収穫の時期、収穫量が毎年バラバラだったそうだ。

 それが族長制を廃止した事で安定したとの事だった。

 とは言え、その種付け数も収穫時期も賭事で決めているのだが賭ける前に日取りの候補を話す必要があり実際のところ話し合いで決めてるようなものなんだと……


「……凄い……巧妙」


「賭事なら飛びつく谷の民の心理を利用しつつ多数決を無意識の内に取らせている……確かに巧妙だぜ」


「あらあら、バラバラだった民の足並みを揃えるのがデスの目的かしら」


「ところでマテオほぼ裸だな」


「ええ、取り返そうと賭ける度に取られてしまって……」


 リャマは高地に強い動物だったはず……

 この先の雪山が見ものである。






 デスリエ王女とアナクシの勝負が終わったようだ。


「やだぁ、アナクシ強くなってるぅ、キャッ!」


「母上、負けた途端に花の民モードになるのは止めて下さい」


 一晩かけて谷の民から取り上げた大量の物が賭けてあったらしくアナクシが取り戻したようだが谷の民は喜びもしないのはなぜか?

 決まっている……


「では、谷の雪かきを賭けて私と勝負する者には勝っても負けても返却してやろう」


 そう言うとアナクシは谷の民らしくニヤリと笑った。


 コンコラコロン











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