ヒトニギリ
呪われた谷の民は命を取り留めた。
発動した黒湯気はヘラジカだったが彼が隠し持ったレアアイテムは翌日の夜に降り積もったアダマンタイトだった。
これはデスリエ王女に呼ばれたピスタの解析によって判明した事実からの推測だが……
「では顕現させる黒湯気とレアアイテムが噛み合ってないから老化がイシドールさん程ではなかったと?」
「そうじゃろう……でなければヒューマンベースの彼が保つはずは、なかろうて」
「結果的には良かったですね」
丘の民モードのデスリエ王女が締めたところで古道の出口が見えた。
ここを抜ければ谷の民エリアだ……
「こ、米だぁ! もうすぐ……白米が食えるぞぉ」
この為に古道旅に同行したんだ。
ヘンテコな黒湯気に振り回されたけど白米さえ食べれれば安いものだ。
「あんた白米が食べたいのかい?」
「はい! めっちゃ食べたいです」
黒湯気に囲まれて助けを求めた谷の民達だ。
黒湯気のコマちゃんとシーちゃんが助けた事が俺の功績だと、どこかで聞いて来たらしく白米が食べたいのなら、谷に着いた後で、お礼に用意すると言ってくれた。
もう感無量である。
「アーモンは封印して日隠とわとして食べる!」
「何ですか? そのヒガクって」
「ポーター君、深い事情があるようなので、ほっといてあげて下さい」
(とうとうデスリエ王女にまで日本ワードのフォローをさせてしまった)
マテオはデスリエ王女に言葉を掛けられた事で舞い上がっている。
本来は、それくらい尊く話すら出来ないはずの人なのである。
出口にも入口と同じようにビロード調の布がカーテン的に掛けられており、捲って出ると……
「そこは雪国だった」
「……冬な……だけ」
そうだ『呪われた古道』は雪も降らない適温の道だっただけでハリラタ全体は現在、冬真っ盛りなのである。
「あらあら、上着ないと寒いわ」
「スモークシルクがあれば余裕だぜ」
ピスタは、お気に入りのスモークシルクベストが着れて、御満悦なのだろう。
スモークシルクを欲しがる人に配っていた。
この行動が後にランタンラミーを斬る人が続出するキッカケになろうとは思いもせずに……
「やだぁピスタ! 私にも頂戴よ。だってクモ王女なのよ私」
「母ちゃん僕は、その呼び方、好きじゃないぜ」
「やだぁ、お気に入りのローブに蜘蛛の巣の刺繍するわ」
「あらあら、さすがデスね趣味が良いわ」
蜘蛛の巣の刺繍が趣味が良い?
姉さんて呼ばれて喜ぶし、見た目は、おっとりしているが、もしかしてメルカまさかのヤンキー趣味なのか?
「じゃあメルカが刺繍してやってくれだぜ」
「あらあら、腕がなるわアーモンの黒湯気も刺繍にしたら格好良さそうよね花なんかと合わせて……」
(メルカ、それはもう唐獅子牡丹というヤンキーどころか本職の人達の背中の墨的な絵柄ですがな)
凍った小川沿いの小路を抜けると……
谷の民エリア『ミヤァ』だ。
「な、何か懐かしいな」
「……田舎」
そうだクコの言う通り田舎だった。
谷の民と言うから渓谷のような場所を想像していたが……
「これは盆地だな」
「そうですね盆地です。何種類かの作物を短い期間育てては、お盆の上で賭博ばかりしてる地域です」
(どうやら日本の盆地とは意味が違うらしい……)
ここで谷の民ミヤァの住民が旅団の中にいる谷の民を見つけて駆け寄って来た。
ほんとんどが久々家族や親戚に会えた人達の笑顔で溢れていたが、老人となった谷の民を見て愕然とする家族だけが見ていて痛々しかった。
「同行して来た谷の民から話を通してもらったので集会所と何棟かの空き家を借りて宿泊する事になりました」
説明と交渉に連絡でイノウタは忙しそうだ。
ようやく、落ち着いたのは谷の民による歓迎の晩餐時、日暮前であった。
木造に瓦のような岩屋根の大きな集会所。
その集会所の中央に石で組んだ円形の囲炉裏が2つ……
昔の日本の住居と西洋の田舎の家を混ぜたような雰囲気の造りで懐かしさがあり和む。
「あ、ではサンコロで負けたので私が挨拶します……」
どう見ても子供が谷の民を代表して挨拶するようだ。
「何でも賭事で決めるのが谷の民の決まりらしいです」
マテオが小声で教えてくれた。
普通は村長とか族長とかが挨拶するところだろうに無茶苦茶である。
「昔は村長がいたらしいんですが村長の肩書きを賭事の担保にしてしまうので成り立たなくなって無くしてしまったんですって」
イノウタだ。
デスリエ王女のそばにイシドールがいるから安心して離れているみたいだ。
「ちょっとイノウタ寄ってくれだぜ」
ピスタが俺とイノウタの間に割り込んで来た。
「……ちょっと……マテオ……寄って」
クコが俺とマテオの間に割り込んで来た。
と、そこへ帰りに話していた谷の民がお盆を持ってやって来た。
「命の恩人へ約束の白米です」
キター!
「あ、ありがとうございます」
やっとだ……
超久々の白米……米だぁあぁぁ
「ん? これは……米?」
「はい白米で品種名はヒトニギリでございます」
米は確かに米……白米なんだけど大きさが違い過ぎる。
一粒が大きめの茄子くらいの米だった。
「あらあら、ハリラタで勉強した通りの見た目ね」
(お、思ってたのと違う……)
が、お礼だと心を込めて用意してくれた谷の民達にガッカリした様子を見せては申し訳ない。
猛烈に落胆したが顔に出さないように踏ん張った!
(ラッカ! 俺頑張ってるよ)
頑張るポイントがズレてる気もするが仕方ないのだ実際ここまでで一番頑張った瞬間なのだから……
気を取り直して白米ヒトニギリを両手で掴みトウモロコシでも食べるように、かぶりついた。
「米だ! 餅に近いけど味は確かに米だぁ!う、うぅグスッ」
また泣いてしまった……
日本の味、懐かしい味、この建物の雰囲気までが追い討ちを掛けて泣かされた。
「あらあら、アーモンどうしたのかしら」
ピスタもクコも押しのけてメルカがヨシヨシしてくれていた。
さすが姉さんである。
結局この日は谷の民達が泣きながらヒトニギリを食べる俺の事を面白がって何個も何個も持って来るもんだから満腹でグロッキーになって早々に寝てしまった。




