少年と魔蜜の飴玉
何とも言えない雰囲気だ。
もちろん出迎えとか挨拶なんてなくても当たり前では、ある。
別に古道の入口はエルフとドワーフのハーフ達が管理してる訳でもないのだから……
「遠巻きに見てるだけで何の接触もなしって……」
こんな時ラッカが居れば魔力視で相手が攻撃姿勢かどうが分かるのに……
(そんな考え方を改める為にも離れたんだった! これは癖になってるな、直さねば)
「彼らは一応ハルティスの民となってはいますが実質は孤高の存在なんですよ」
「その情報を得る為に、また俺達の噂を流したんじゃないだろうなマテオ!」
「ち、違いますよ。昔からハルティス民なら知ってる事です」
エルフとドワーフのハーフ達は流れ者の末裔でハルティスのエルフと血の繋がりはないのだそうだ。
しかも正式にハルティス民として登録もしていない為、勝手に他国の傭兵業を請け負ってみたりと煙たがられているのだそうだ。
「何で追い出されたりとかしない訳?」
「技術が特殊で高等過ぎるので見逃さざるを得ないんですよ」
と、ここでデスリエ王女側の従者が彼らへ接触した様子で広い場所を借りて一旦休憩となった。
「ぼくは、ちょっと例の魔道具の事を聞いて来るぜ」
この重苦しい雰囲気の中、彼らに接触する気になるピスタには感心する。
チラチラと雪が舞い散るのを東屋のような休憩場所から眺めていると1人の少年が近づいて来た。
俺達よりかなり下……カシューの少し下くらいの年齢だろう。
「その腕に巻いてるのは何だ?」
「これはウロボロス、宝具らしいよ」
「どうやって作ったんだ?」
生意気な話し方だが腹は立たなかった。
「作ったんじゃないんだ闘って認められた感じなんだよ」
「……」
難しかったかな?
だが、そうしか言いようがなかった。
「あらあら、可愛いわ、これ食べる?」
少年はメルカが差し出した魔蜜の飴玉を、むんずと掴むと口へ放り込んだ。
するとニカッと笑った。
何のことはない同じ人間だ。
そもそもエルフもドワーフも仲間にいるしクコだってエルフと金剛のハーフだ。
ハーフだミックスだのは俺達には関係ない。
「名前は何て……あっ!」
走って行ってしまった。
「ふふ、多分返しに来ますよ」
「うおっ!」
いつの間にか背後にデスリエ王女現る。
この若々しく親切な雰囲気は丘の民モードだな。
「あらあら、デスどうして返しに来るの?」
「彼らは、わざと接触を避けてます。理由があるみたいですよ。それに何々族とか名前がないのも、わざと付かないように努めてるようです」
デスリエ王女は魔眼で彼らエルフとドワーフのハーフ達の心を読んだのだろう。
そして彼らに配慮して内容を言わないのだろう。
いや言わない為に親切な丘の民モードでいるのだ、きっと。
「全然ダメだぜ、何にも教えてくれないぜ」
どこに行っても、すぐに仲良くなるピスタが珍しく相手にされず戻って来た。
その時……
「ぐすっ、ひっく、ひっく、返しゅ!」
デスリエ王女……デスの言う通り少年は半分舐めた飴玉を返しに来た。
「そうですか偉かったですね。お母さんと、お父さんを大切にするんですよ」
そう言うとデスは少年が半分舐めた飴玉を口の中へ放り込んだ。
たぶん親が見ているだろう方を向いて……
「うん! ありがとう」
少年は、さっきと同じくニカッと笑って走って行った。
(人としての大きさかな? この人には敵わないな)
そう思う出来事だった。
「やだぁ、アーモン照れるぅ」
(これさえなければ……)




