水瓶係
「どうして、こんな事をしたのですか!」
魔眼修道士担当のシスターフラマウはカンカンだ
「ぶ、武器が造りたかったんです……」
俺より問題児になりつつあるドワーフのマルテルは鍛冶場に忍び込んで武器を造っているところを大人の鍛冶班修道士に捕まったのだ。
「どうして武器が必要なんですか! あなたは修道士なのですよ。自覚なさい」
「ド、ドワーフだから……」
今回マルテルは俺のせいにしなかったし横穴の事も、ラッカの事も話さなかった。
しかし、シスターや神父の監視の目が厳しくなったせいで、しばらく横穴へは行けなくなってしまった。
ただ、マルテルの罰は5日から2日に軽減された。
鍛冶班からスカウトが来た為だ。
マルテルの作った剣は独創的だったらしい。
もちろん初めての作で性能は良いとは言えないが少ない知識から工夫して造られた跡が感心されたようだ。
凡庸な包丁や農具しか造って来なかった鍛冶班修道士達の職人魂を揺さぶったようだった。
「私のせいかな?」
塔の上で砂漠の風に暴れる髪、肩までで切りそろえられた紺色の髪を押さえつつ、ラッカは横穴でマルテルを煽った事を後悔していた。
「そうかも知れねーけど、いずれ武器は必要になったと思うぞ、どの道いつか、こうなったさ」
久々登った塔の上で遂に解除出来た上位魔眼帯のロックを外した俺は、どこまでも続く砂の丘陵を眺めていた。
(紺色の髪ってのは日本にゃいなかったよな……いい感じだ)
チラチラとラッカの方も眺めてたのは内緒だ。
その時、砂漠の丘陵に黒い人影が見えた。
「ん? 何かいるな」
「どうしたの? あ、また外してるんでしょ、もう」
呆れながらラッカは言う。
「どうして魔眼暴走しないの? あれだけの経験値を稼いでるんだよ、外した途端に暴走するでしょ普通」
前回の魔眼訓練の時にラッカには魔眼暴走が起きていた。
深夜の横穴で稼いだ経験値が原因だ。
大人になる過程で、ほっといても何度か起こる魔眼暴走、少し規模は大きいものの、それだろうとシスター達は判断した様だった。
(だって俺、魔眼じゃねーし金環なだけだし)
勉強熱心なラッカによると俺が見た人影は窟僧[くつそう]と呼ばれる修行僧で砂漠の中の小さな洞窟で一人きりで過ごす修行僧なのだとか……
そこで朽ち果て、その骸を葬った僧が次の修行僧として僧窟[そうくつ]と呼ばれる、その小さな洞窟の住人になるという死の修行なのだそうだ。
「水瓶係になれば行けるわよ私は嫌だけど」
(ほほぉう)




