ラパの謎マーク
かつてアーモン達も訪れたラパ湾を見渡せる丘に2人のヒューマンが立っていた。
海から吹き上げて来る風が心地良い。
「アレですね有名な天気塔の街は」
「そうですねフラマウは初めてですか?」
「ええ、エラトスは来た事があるみたいですね」
「ええ子供の頃に一度」
一旦バビロニーチのテーベの小箱と鳥籠に、それぞれ戻ったフラマウとエラトスだったが共にテーベの方針に納得がいかず離脱していた。
もちろん、そんな簡単に離脱可能な組織ではない。
長期休暇という見え見えの理由をエラトス所属の小箱もフラマウ所属の鳥籠も許可した。
この時点で2人共が理解したのだ、正規の許可は出せないが行けと組織が心の中で言っていると……
正直もう少し人数が欲しかったが組織外の人間では信用出来ない。
かと言って状況から動ける組織内の仲間はいないだろう。
フラマウとエラトスが手を組むのは自然の成り行きであった。
そして2人は時間をかけて調査し、やっとラパの情報を掴み辿り着いたのだった……
最初に入ったのは、もちろんリザードキャメルの預かり所。
よく手入れのされたリザードキャメルが並んでいる以外は普通の預かり所だが一風変わった部分があった。
「このマークは何ですか?」
「ああ、詳しく話せんがラパの英雄でアニキだ」
リザードキャメルの預かり所なのに犬の横顔のマークが、あちこちに掲げてあったのだ。
「エラトス、これって?」
「まさかこんな目立つ事をするはずはないでしょう……」
「ですよね犬型獣人なんて、多いですし……」
情報収集の為に人の集まりそうな庶民的な食事の出来る店に入った。
魚貝と、それに合うパンが有名らしく賑わっていた。
問題は……
「エラトスこれって?」
「いやいや、まさかね……兎型獣人なんて多い……」
「ん、メルカだぁ!」
店の看板に兎のマークがあった。
そこまでは良い、兎型獣人なんて多いのだ。
ただ垂れ耳、ロップイヤーの兎型獣人は多くない。
「おんや、旅の人かい? 遠慮しないで入んなよ」
「あ、あの……あのマークは何ですか?」
「ああ、詳しくは話せないんだけどラパの英雄で姉さんさ」
何をしてるんだ?
フラマウもエラトスも困惑していた。
イドリーもメルカも、それぞれテーベの優秀な一員だ。
その2人が最重要人物を匿いながら逃亡してるのに何故こんな目立つ事になっているのか?
「意味が分からないわ」
「ああ、まったくだ! ただ、この魚貝とパンは本当に旨いな」
「確かに! パンが魚貝のスープを吸った時が最高だわ」
「おんや気に入ってくれたかい? エブストーんとこのパンは最高だろ?」
ここまでの道中、追っ手の心配や慣れない砂漠の旅でピリピリと過ごして来た2人には、こんなに美味しく和やかな雰囲気は久々であった。
その和やかな雰囲気に気を許し軽くラパの英雄の事を聞こうと他の客に話かけた途端に店中が冷たい態度に変貌した。
「ご、ご馳走です……」
おかしな事になる前に早々に店を後にしたフラマウとエラトスであった。
宿を探して歩いているうちに2人は工房街へと迷い込んでいた。
「迷ってしまったけど、面白いわ」
「ドワーフの楽園ですからね名工も多いそうですよ」
その時に、ある工房の看板に目が止まった。
目の様にも見えるマークは瞳の中にリングがあった。
もう2人は溜息をつくばかりである。
「はぁ、何の為に頑張って石化までされたのでしょうか私は?」
「はぁ、修道院に残らず私が着いて行っていれば……」
そこで気配に気がついた。
尾行されてる?
エラトスはフラマウへ目配せをしたが既にフラマウも気付いていたようだ。
そのまま街を見学する素振りで話を続ける。
「あ、あれは鎖でしょうか?」
「ええ、鎖かも知れませんねラパが有力だって噂も鎖由来かも知れないとの事でしたから」
ラパにアーモン達が立ち寄った情報の出所が『テーベの鎖』かも知れないとエラトスは聞かされていた。
それを街並みの中に見える鎖について話しているようにフラマウは話を続ける。
「ただ、数が多すぎる気がしますね」
「た、確かに鎖にしては多過ぎますね、何か別の……」
走った!
門を曲がると同時に2人は走り出した。
土地勘のない場所で走って逃げる事の難しさくらいは理解している2人だ。
しかし尾行して来ている人数が相手を出来ないほどの多さだとも理解している2人なのだ。
「な、何で?」
「と、とにかく今は逃げましょう」
その時!
ヴァアァァァ!
自分たちのすぐ横を黒色の何かが通り過ぎたかと思ったら目の前の壁が吹き飛んだのだ!
「動くな! 次は当てるぞ!」
当たれば命はない。
一瞬で2人は理解した。
そして両手を挙げて、ゆっくりと振り向いた。
「あっ!」
「あっ! シ、シスター」
「マルテル!」
そこには修道院からアーモン達と共に脱出したはずのマルテルが立っていた。
まさに今、魔眼『炎眼』を発動せんかの如く目を真っ赤にたぎらせて……
「マルテル知り合いか?」
そう訪ねたのは黒色魔力を放った張本人ピーリーであった。
スカルホーンソードを初めて振った時には発生しなかった黒色魔力を操れるまでに成長したピスタの兄である。
「この人達は大丈夫だよ。アーモンが大切に思ってる人達なんだ」
多くのドワーフに囲まれて元々この街に住んでいたかのようなマルテル。
その姿に、かつてシスターであったフラマウは驚きと安堵、そして嬉しさを噛み締めていた。
両手を挙げたまま……
「そうでしたか……そんな事が起きてたとは……」
「じゃ、あの美味しいパンってマルテルが焼いてるの?」
「うん、まだ手伝いだけどね、それでねツノシャチの時にアーモン凄かったんだ」
マルテルとの話は尽きない。
現在、ピーリーから謝罪を受け城へと招かれているフラマウとエラトス。
先程はチオ家の当主であり実質ラパの王であるカタロニから挨拶もされた。
ラパの英雄であるアーモン達に追っ手がつかぬよう怪しい者は許さない。
その為に攻撃をしてしまい、すまなかったと……
「もしハリラタへ渡るのなら便宜を図ります。今は検査が厳しくなっていますので」
「ありがとうございます。カシュー達を追いたいと思っていますので助かります」
「ところで、さっきの黒い魔力のようなモノが出た武器は何なんですか?」
武器の事を興味深げに聞かれたら嬉しくてたまらなくなるのがラパのドワーフってもんだ。
そこからはラパの英雄の友人が来たぞ酒盛りだ!
と、いつもの展開になった。
「フ、フラマウは酒強いですか?」
「ええ、まあ普通には飲めますが?」
「実は私、飲めないんですよ」
こうして1人フラマウが注がれる酒を飲み続けるラパの夜は更けていった。
翌日の出航時にフラマウの顔色が変だと検査官に止められたがチオ家の証明手形のお陰で事なきを得た。
「何よ飲ませ過ぎなきゃ証明手形なんて必要なかったじゃない」
「はは、まあまあ無事に乗れたから……」
「どうしてエラトス飲めないのよ」
「いや、だって……」
旅の出始めと力関係が逆転しつつ2人の旅は続いて行く。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




