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魔眼の子 〜金環のアーモン〜  作者: きょうけんたま
蜂の巣ダンジョン編
100/206

スランバーコール

 『スランバーコール』


 それが、このシャシャシャ集落の正式な名前らしい。

 いや、正式には名前などない普通の集落だったが、とある出来事をキッカケに付いた呼び名だ。


「……雪……降って……来た」


 外を眺めていたクコの言葉を受けて俺がラッカへと話し始める。


「あの時も、こんな雪の降り始めた夜だった……」


「キャー! 止めてアーモン、本当にムリ許して」


 現在、何かにつけてスランバーコールのネタでラッカを、からかってる。

 怖がりラッカは確実に怖がるので楽しくて仕方がないのだ。


「眠ったまま歩く女幽霊の声が……聞こえるでしたか?」


「信じられないよー、本当かなです」


「確かに胡散臭いけど、そのスランバーコールのせいで、この集落から誰もいなくなって宿になってるのは事実たぜ」


 分析となると冷静なピスタが言うと真実味が上がる。

 この手の話は普段スルーする大人イドリーですら今回は少し信じてる様子だ。




 事件が起きたのは、その夜だった。




「グァグラァグラァ」


「ねっ! アーモン起きて、変な声が聞こえるよぉおぉ」


 ラッカに起こされた俺は扉の隙間から、そ~っと外を覗いてみた。

 すると、そこには身の毛のよだつ化け物がいた。

 半分より少し大きな月を背に降りしきる雪の中に立つのは……


 頭が2つの背が盛り上がった女の化け物だ。

 片側の頭には二本の角、もう片方の頭は長い髪の毛を振り乱している。


「グァギナイガゴォ」


「ひっ! 無理ぃいぃ」


 見てはいけないものを見てしまった!


「払いたまえ~清めたまえ~」


 こういう時は、ついつい神社時代の癖が出てしまう。

 必死にお(はら)いを繰り返していると……


「い、行ったかな?」


「声は聞こえなくなったな……」


 隙間から、そっと見てみると化け物の姿は消えていた。






「本当なんだって! 出たんだよ」


「どうして起こさなかったぜ」


「……見た……かった」


 まだ深くはないものの外は、すっかり雪景色だ。

 お隣のプトレマさん達にも朝から見てないか聞きに行ったが寝てて知らないと言われた。

 その後は本格的な冬の準備の為に街へ買い物に出掛けて忙しい1日を過ごしたが頭の中から昨夜見た光景が離れなかった。


「きっと今夜も来る」


「起きてるよー、待つです」


 現在、寝ずに起きてスランバーコールの出現に備えている状態だ。

 だが昨夜も、あまり寝てない俺とラッカは眠くて眠くて仕方がない。


「困ったら起こして下さい」


「僕も起こしてだぜ、ふぁ」


 イドリーとピスタは寝てしまった。

 俺、ラッカ、クコ、ペカンは毛布に、くるまり扉の前に陣取っている。


「も、もう眠くて……限……界」


「俺も……」


 寝落ちした。

 どれくらい寝てたのだろうか?

 その時は来た。


「……聞こえた……起きて」


 ピュー


 クコの声とペカンが開けた扉の隙間から入って来た冷たい風が顔に当たり目が覚めた。


「いるよー、怖いです」


「やだ、無理」


 クコの茶色の瞳、ペカンの青色の瞳が輝いている。

 魔眼を発動しているのだ、では俺も……

 金環を発動し隙間を覗く。


「ちょっと待て、落ち着けって」


 確かにいる、昨夜の化け物だ!

 ただクコの『俯眼』とペカンの『千里眼』が恐怖からか安定しない。

 超上空になったかと思えば化け物の髪の毛のアップになったり、見開いた目のアップになったりバタバタと場面が切り替わる。

 まるでホラー映画のサブスクリプトのような映像になってしまっていた。


「きゃー無理ぃいぃ」


 もう恐怖倍増。


「グァギガガゴォカゴ」


 金環の発動を停止。

 クコとペカンの魔眼も何とか止めさせて、もう一度隙間から覗くと……


「来たー!」


 こちらへ一直線に向かって来てる。

 やばい、やばい、やばい!


 ゴッ! ゴッ!、ゴッ!


「グァガアゴンガゲグガゴォ」


 必死に扉を押さえて唱える。



「払いたまえ~清めたまえ~」


「無理ぃいぃ」


 もう、やるしかないのか?

 幽霊にウロボロスの攻撃は効果があるのだろうか?

 そんな事をグルグルと考えながら腹に巻いているウロボロスに魔力を注ごうとした、その時!


「何してるぜ? 早く開けてやれだぜ」


「何バカな事言ってんのよピスタ!」


 起き出してきたピスタが扉を開けろと言い出し自ら扉を開けようとし始めた。

 もしかして操られているのか?


「ダメだ、ピスタは操られているぞ、止めろ!」


「……ピスタ……目を……覚まして」


 必死にクコとペカンがピスタを止める。


 ガチャ! 


 いつの間に起きたのか? イドリーが扉を開けてしまった。

 そんなイドリーまで操られているのか?


 ピュー!


 吹き込む風と雪……

 昨夜よりも少し大きくなった月を背に双頭の化け物、いや幽霊か? スランバーコールが遂に姿を現した!


「グァガアゴン」


「グラァ、グラァ」


「その首巻きを外したらどうですか?」


 操られているイドリーが普通に話し掛けるとスランバーコールは首巻きを外しながら家へと入って来たのだった……

 もうダメだ、そう思った、その時!




「んぁ、アーモン酷いなの!」


「あらあら、やっと入れてくれたのね」


「へ?」


 スランバーコールの正体はカシューを、おんぶしたメルカだった。











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