サバララ村の出来事 第0章完
30人を超える大人たちと子供たち、小さい子では5歳ぐらいの子供までが村の広場に集まっていた。
村人は何かの動物の皮を剥いで作ったのだろう固そうな服に身を包み、一部の男たちは自分の身長よりも少し長く整った丸い棒を手に持っている。
棒の先端は何か硬いものにぶつけたのかいくらかへこんでおり、それは力任せにふるっても折れる事のない硬い木材であることをうかがわせるものだった。
そんな中、その集まりに一番最後になるのだろう、片足を失っている、まだ50にはならないだろう白髪混じりの男が遅れて現れ、口を開く。
この集まりでは一番の年寄りなのが見てわかる。
「では、始める。例の村を訪れた人間についてだ。ギヴァ、サァツァ、クァマの意見を述べる。異邦人(外国人)との意志疎通ができない。身なりが特殊。武器などは持っていないが明らかに我々に対して敵意を持っている。ギヴァに殴られたことにより足が折れ、食もない。以上のことから苦しまぬように処刑するべきとのことだ」
男は一度口を閉じて全員が今の話を理解するのを待っている。
両手に持つ丈夫そうな杖を失った片足変わりにして数歩進んだ。
「この村をまとめる長として、私も彼らの意見には賛成だ。得たいがしれない。どこかの国の偵察兵なのかもしれない。厄介事を村に持ち込むわけにはいかない。それに……これを見てくれ」
男の後ろから黒木の食べていたラーメンの器とコップを男達が大事そうに抱えて持ってきた。
器は真っ白なベースに赤色の雷紋(四角い渦巻きであったりする幾何学模様のこと)が縁に書かれてある一般的なラーメンの器だ。
コップはプラスチック製の物で持ちやすいように下半分は六角形に均一に揃えられた量産品で、上部は飲みやすいように丸い形になっている。新品であるため、透明度のかなり高いものになる。
その器とコップを見た者は全員息を飲んだ。
「これを、持っていた。言葉が通じないところをみると、どこかの王族か、それに近い者、あるいはその性格を見て王家の秘宝を盗んだ盗人の類いかもしれん。いずれにせよ、異邦人に食わせる飯もない。……では、採決をとる。異邦人を処刑することに異論のあるものは意見を述べよ」
この場にいる全員、いまだに器とコップから目が離せないのか男の顔を見ているものは一人もいない。話も聞いていなかったのかもしれない。
聞いていようが聞いてなかろうが、男はあらかじめ用意していたであろう言葉を口にした。
「意見なしとみなして、異邦人は処刑する! そして、これらの秘宝は我が村の宝にする!」
村の全員、村の宝になる器とコップを見て雄叫びをあげて黒木の処刑を歓迎することになった。
こうして、ラーメンの器と量産品のプラスチックのコップが村秘蔵のお宝ということになったのだった。