突然始まる、異世界転移②
「で、出れたか……」
どれだけ歩いたか分からねぇ。
森の外に出れた。
辺りを見渡す。
遠くに山が見えた。
それ以外にはなにもない。ただただ草原が広がっている。
いや? 遠くの丘の向こうに煙が見えた。
……行くか。
丘の向こうには集落があった。
……草木で作られたショボい家だ。
日本にこんなところまだあったんだな。
集落に近づくと手に棒を持った変な格好をした野郎が近づいてきた。
なんだこいつ。やんのか?
「*§♭#△○」
「あ? なに言ってんのかわかんねぇよ」
外国人か? よく見ると日本人の顔じゃねぇ。
俺、記憶がない間に外国にきてんのか?
「ここどこだ? 日本語話せるやついねぇのか?」
「〒¶□◇**」
「だめだこりゃ」
その時、突然男が棒を俺に向かって構える。
やる気かよ!
棒切れ程度でビビると思うなよ外国人が!
足に激痛が走った時には地面に転がっていた。
「いって――」
「〒¶○!!」
地面に倒れた俺の胸に棒を突きつけて怒鳴っているが、何を言ってるのか全然わからない。
頭に棒が振り下ろされ、俺は意識を失った。
見知らぬ天井、カサカサと痛い床。
頭も痛む。
よく分からないが、とりあえず体を起こした。
頭に固まった血が付いている。
そうか、あのクソ外国人に棒切れで殴られたんだ。
辺りには人がいない。
声を出しても言葉が通じないんじゃ意味がない。
考えていると、腹が鳴って腹が減っていた事を思い出した。
どれぐらい寝ていたのかもわからない。
「ガムでもいいんだが、何か持ってなかったかな……」
胸に入れてたハズのガムを取ろうとしたら、また紙がくしゃくしゃになる感覚があった。
取り出して確認する。
【歩き方】
またか。シワを伸ばしてよく見てみる。
【あなたの力はステータスという形で確認できます。目を閉じて見たいと念じて下さい】
「なんだこれ」
俺は紙を裏返した。
【MPの使い方 : 念じるのです】
だいたい、……じるのです? 読めねぇ漢字つかいやがってクソが!
力が確認できるらしいな。
おもしれぇじゃねぇか。
やることもねぇし、腹は減るし気が紛れるかもな。
俺は目を閉じた。
結局、念じての〝念〟がなにかわからないが見たいと思えばいいんだろ?
(俺の力を見せろ!)
暗いだけのハズの頭の中に文字が出て来て、あわてて目を開いた。
「な、なんだ今の! ビックリしたー……」
目を開いたら消えるのか。
書かれてる通りにやっただけなので、できるとかできないとか何も考えていなかった。
実際、頭の中なのか目の前に文字が浮かぶと気持ちが悪いな。
もう一度。
レベル 5
HP 10/25
MP 30/30
力 5
防 5
速 5
スキル クリエイター
全然わからん。
強いとか、弱いとか書いてくれるのかと思っていたら、数字が書かれている。
これでは強いか弱いかわからないじゃねぇか。
HPとかMPってなんだ?
よくわからんな。
そういえばクリエイターってなんだったっけ?
MPを使って何かが作れるとか紙に書いてあったか? 捨てたけど。
そして、このMPとかいうやつが〝念〟じると使えるらしい。
漢字は読めないが、さっき思ったら力が見えたんだから思えば使えるのだろう。多分。
使ったらなんなんだって話だが。
それより飯だ。
飯がほしい。
思ってみるか。
(飯をくれ!)
………………………………何も起きないな。
そりゃそうだ。
外に飯を探しに行くべきか。
俺は服に付いた土を払いながら立ち上がった。
ひどく足が痛んで再び横に倒れた。
「いってぇ!! これ、折れてねぇか!? あの腐れ外国人が!」
足を持って床でイモムシのように苦しむ。
ヤバい。何度か骨折したことがあるが、その痛みだ。
とにかく、這いつくばってでも飯をくわなきゃいけねぇ。
このまま逃げるにしても、飯ぐらいは確保しなくては。
くっそ。胃にたまるものが食いてぇ。
ラーメンとかねぇのか? とんこつの。
……あるわけないわな。
野菜しかなさそうな村だし。
ようやく痛みが収まってきた。
とにかく医者にいかねぇと。その前に飯か。
床を這いながら出入口へ向かう。
ワラか何かわからない硬めの草が地面に大量にあって痛い。
痛みをごまかすように別の事を考える。
ラーメン食いてぇラーメン食いてぇラーメン食いてぇラーメン食いてぇラーメン食いてぇ。
目の前によく通ったラーメン屋の器に、できたてのラーメンが出てきた。
「……あ? なんだ?」
めちゃくちゃうまそうなとんこつの香り。
チャーシューが5枚も乗ったもやしたっぷりの俺のお気に入りチャーシューラーメンだ。
食わずにはいられない。
ありがたいことに、ハシも一緒に刺さっている。
味わうことなく一気に全部食う。
チャーシューとかスープとか、本来なら味わいたかったが、とにかく腹が減っていた。
喉に詰まる。
あ、ヤバい。死ぬ。
水……がない。
水……水……水をくれ!
手にプラスチックでできたコップに入った水が現れたので一気に全部飲み干した。
「ぜぇ……ぜぇ……死ぬかと思った」
飯は一気に食うもんじゃない。こんなことで死んでしまうところだった。
まさかチャーシュー5枚一気に食ったら喉に詰まるとは思わなかった。
だいぶ落ち着いてきた。
腹も減ってなければ喉も乾いてない。
今のはなんだ。
冷静になって考えてみると不思議なことが起こった気がする。
よく通ったラーメン屋のラーメンが出てきたし、このコップとハシ。
これもラーメン屋のだ。
まさか、思ったから出てきたのか?
俺がラーメンを食いたいと思ったから?
クリエイターとかいうスキルがこれなのか?
さっきは飯をくれ! って思ったが何もでなかったはず。何が悪かったんだろう。
まあ、考えても仕方がない。
確かMPを使うらしいから確認しておこうか。
レベル 5
HP 10/25
MP 5/30
力 5
防 5
速 5
MPの数が変わったな。
右と左に数字があるのはなんなんだろうか。
……よくわからんが、確かにMPとやらを使っているのだろう。多分。
足が痛む。
飯を食ったら眠くなってきた。
寝るか。
どうするかは、明日考えよう。