1-13 突然始まる、異世界の旅
「おーい。生きてるかー」
洞窟の中を進むと壊れた扉が姿を見せる。
何せ俺が壊したばかりだからな。
中は薄暗く、備え付けられた松明の光が届かない場所は暗くて見えない。
あいつはそこに隠れているのだ。
扉を開いて中に入ると、見えない場所まで向かう。
「だ、誰ですか?」
「お、聞こえるか。さすがは俺の作ったマスクだな。って、なんだそれ、着ぐるみか?」
目の前に毛皮を身に付けたやつが寝転がっている。
やっぱり手足を縛られているようだ。
洞窟のなかでかなり涼しいといっても、全身着ぐるみでは熱くて仕方がないだろう。
「キグル実? なんでしょうか?」
「あ? いいからじっとしてろよ」
着ぐるみ野郎の手足の拘束をカッターで切っていく。
……この毛皮、なかなかさわり心地はいいな。
「あ、ありがとうございます」
着ぐるみは立ち上がると、俺にお辞儀をする。
真っ白な毛皮で、ウサギみたいな垂れた耳と顔。無駄にまばたきする機能までついているし、しゃべる度に口もモソモソ動いている。
「へー、よくできてるなそれ。本当に生きてるみたいだぞ」
「何の話でしょうか?」
「まあ、よかったな解放されて。じゃあな」
長い間ここにいてやつらが戻ってきても面倒なので足早に洞窟を出た。
さて……。
俺はやつらの荷物を抱えると洞窟のある岩を登り始める。
何の岩かはわからないが、ゴツゴツしていて結構登りやすい。
「待ってくださーい!」
大きな声に体がビクッとなってしまった。
「やめろ! やつらが来るだろうがバカ!」
「あ、すみません……」
あまり高い岩ではないので直ぐに登り終えて振り向いた。
すると、さっきの着ぐるみがジャンプしてきた。
そして、俺の隣に着地する。
おい……4メートルは少なくともあるぞ。
いや、そんなことより、俺はこいつに言わなきゃならないことがある。
「大きな声を出してやつらにもう一度捕まりたいのか?」
「ほ、本当にすみません。でも、あなたがスタスタ言ってしまうから……」
「用がないんだからこんなとこさっさと離れるに越したことはないだろう? お前もどこへでも行ったらいいだろ」
「助けてもらったのに、そういう訳にも……」
なんでついてく……ああ!
「わかった! 荷物だな? お前の持ち物はどれだ?」
俺は盗賊から奪った荷物を岩の上に広げる。
盗賊たちはまだ俺を探してるだろうから少しの間は戻ってこないだろう。
「あ、これボクのです」
一つの皮のベルトみたいなのを取った。
飾りのないベルト。長い間使っているのか白く剥がれている部分が目立つ。
「他は?」
「ボクの持ち物はこれだけです」
「荷物が見つかってよかったな。じゃあな」
俺は手早く荷物をしまうと岩の逆側へ行くために歩きだす。
早くこの場から離れよう。この辺りにはポーンがいない。この辺りはやつらが駆除してるのだろうな。
それはまだやつらのテリトリーにいるということに他ならない。
「どこに行くんですか?」
「どわ! なについてきてんだお前!」
着ぐるみが後ろをついてきている。
変なやつになつかれたようだ。
「こっちの方には村も何もないので気になって……」
「あ? こっち何にもねぇの?」
「はい。ずっと山岳地帯が続きます」
「サンガク? なんかわからねぇがわかった。じゃあ、こっちに行くか」
俺は向きを右に変えた。
盗賊が一人こっち側に行きはしたが、隠れながら行けばなんとかなるだろう。
仲間とかと合流していれば厄介だが……なるようにしかならんか。
「国から出るんですか?」
「……何なんだお前は! もうどこへでも行っていいんだぞ?」
「いえ、そのこっちは国境しかないので気になって……」
「国境しかないのか?」
「え、ええ」
「じゃあこっちにいくか」
俺は後ろを振り返って歩き始める。
こっちにも盗賊が一人向かったのは知っているが、まあなんとかなるだろう。
そして……当然のように着ぐるみが後ろをついてくる。
「なあ」
「はい?」
「なんでついてくるんだ?」
「ボクって、どう思います?」
「あ?」
どう思うだ?
よくわからんが、さっさと答えて別れよう。
「さあ、着ぐるみずっと着てるし、変なやつだな、と思うぞ」
「ほら、だからです」
「あ? 意味がわからん。さっさと自分の家に帰れ」
「ボクって、刈ればお金になるんです」
「へー」
着ぐるみを?
ちょっとおかしなやつかもしれん。
関わり合いにならないほうがいいか。適当に話を合わせて逃げるか?
「人間はボクたちを見ると捕まえるんですよ」
「俺は捕まえないから? よく意味がわからんが、そうなのか。もうなんでもいいけど暑くないのかその着ぐるみ」
「キグル実……はちょっとわからないですが、お礼をさせて下さい!」
「お礼って?」
なんかくれるのか? ならもらうんだが、こいつ、右手につけてるベルト以外に何も持ってなさそうだしな。
「見たところ、あまりこの辺に詳しくないようですし、道案内ぐらいはできますよ」
「おお! それは助かるな! とりあえず大きな都市にいこうと思ってたんだよ」
これからどうするか考えていたが、道案内は助かる。
変なやつではあるが、敵ではないのは間違いなさそうだ。
しばらくは一緒に歩くか。