1-12 突然始まる、異世界の旅
しばらくギコギコと扉のセンを切る作業だ。
カッターだから刃が割れないようにあまり力を入れずに切っているが、本当に時間がかかる。
ノコギリじゃないのであまり音は出てないが人がこないか心配になる。
「何をされてるんですか?」
「あ? 気になるならこっちにきて見りゃ一発でわかるだろうが。脱出するんだよここからな」
「まさか……脱獄ですか!?」
言葉は通じないが、話しは通じたみたいだな。
だいたい、扉のところでゴソゴソしてたらそれしかないか。
それに……あと少しだな。
ちょっと力を入れて刃を入れると、センは真っ二つになって地面に落ちた。
よしよし、ちゃんと扉が開くようになった。
金属が使われていないのでこりごりと変な音を立てながら扉は開いた。
後ろを振り返っていまだ姿を見せないやつを振り返ったが、言葉が通じないことにはどうしようもない。
自分で扉が開いてる事に気付いたら勝手に出るか。
裸足だし、地面は岩だから音の立つものはないが、なんとなく忍び足で出口に向かう。
話し声もなにも聞こえない。
それほど歩くことなく洞窟だろう場所の終わりが見えてきた。
やっぱり室内ではなく外だ。
辺りは昼頃だろうか。多分ほぼ1日ほど気を失っていたようだ。クソ野郎が!
外に出れた解放感から背伸びをして、辺りを見渡す。
……どこにいるのかさっぱりわからん。
辺りには俺の荷物らしき物もないし、当分は全裸だな。……いや、今のMPでパンツぐらいはどうにかなるかもしれない。
俺はすぐさまMPを確認する。
……25。
いけるか?
(俺にパンツをくれ!)
俺の切実な願いが届いたからかどうかはわからないが、いつも通り手にはパンツが握られていた。
しかも新品だ。
あー、洗濯できてなかったから、汚れたのはあいつらにあげよう。
残りMPは10。パンツは15のようだ。ズボンが手にはいるのは当分先になりそうか……。
「くそが! 収穫0だぜ!」
うお! ぼーっと突っ立ってたら帰ってきやがった!
とりあえず隠れよう。
木の裏へ回って姿を隠す。
「いやいや、今日は二人も手に入ったんだからしばらく飯には困らねぇだろ」
「まあ、そうだな。死なれちゃ困るし、やつらにも飯をもっていってやるか」
男達二人の足音は洞窟のほうへ消えていった。
洞窟の中にはまだ一人残ってるんだが、まあ逃げなかったんだから仕方がないだろう。
少しだけ気になって洞窟の方を見ると、男達が持っていた荷物を全て洞窟前に置いていったようだ。
……もらおう。
俺の服があるかもしれないしな。
サササッと足早に近づいて荷物を奪った。
大きな動物の皮に色々な物を詰め込んでいるだけの荷物だが、結構重い。
これを持って走るのは難しいぞ。
洞窟の入り口に立て掛けてある二本の石のくくった棒切れも奪う。
これでやつらの武器はなくなったはずだ。
けっけっけ。これで頭を殴ったのはチャラにしてやるぜ。
「げー! 扉が壊れてやがる!!」
「男が一人いねぇ!!」
おー怖い怖い。
逃げても簡単に追い付かれそうだ。
そうだな。出てきたやつらが行かなかった方に行くか。
俺は荷物を隠してから木に登ってやつらが出てくるのを待った。
「どこへ行きやがったあのボケ!」
「……おい。俺たちの荷物がねぇぞ」
「あ! 武器がねぇ!!」
「盗賊の物を盗むたぁ、やるじゃねぇか。ただじゃ済まさねぇぞ?」
「それほど離れちゃいねぇだろ。こっちは俺が探す」
「じゃあ俺はこっちだな」
なるほど、右と左に行ったな。
じゃあ俺は洞窟の入り口を登っていくか。
どこに出れるかわかったもんじゃないが、少なくともやつらからは逃げられそうだ。
っと、それよりも、なんでもう一人のやつは出てこないんだ?
なにか忘れてるような……あ。俺と一緒で手足を縛られてるのか。
はぁー、仕方ねぇな。
やつらの荷物を漁ると思った通り黒いマスクを見つけた。
くっしゃくしゃになっちゃいるが、まあ問題ないだろ。多分。
もっと丁寧にあつかって欲しいもんだぜ。
俺は荷物を持たずカッター片手に小走りで洞窟の中へと戻った。