1-9 突然始まる、異世界の旅
前からさっき別れた4人組が歩いてくる。
それほど広い村ではないから、歩いてれば出会うこともあるだろう。
だが、明らかにこちらを見てきているのだ。
……そうか。お前たちも、俺の敵なんだな。
「おっさん。ありゃ、やる気だぜ」
「見ればわかるよ。どうすんだい? 悪いが、これ以上は俺も関わらないぜ。俺まで飛び火してくんなら別だが、俺は商人だ。できるだけ村とは友好的にいかなきゃならねぇからな」
「そりゃそうだ」
やつらが俺目当てなのは間違いない。
おっさんが俺と一緒に戦ってくれるなんて一ミリも思っちゃいない。
そんな善人、この世にいるわきゃねぇんだからな。
そんなのが居るなら、子供の頃の俺をその誰かさんが助けてくれただろうからな。
おっさんだって、なんだかんだ言いながらも実際はさっき助けてくれているのだ。
まあ、コマのお礼ってとこなんだろうが。
俺もコマは運賃のつもりだったが……っと来やがったな。
「村長に話をつけてきたぞ外国人」
「おうそうかい、ご苦労なこったな外国人。それで?」
「このまま村から出ていくなら見逃してやる。出ていかないなら我々が――」
「マジで!? ラッキー! じゃ、出てくわ。じゃあな」
「……え?」
棒切れ持った4人なんか相手にできるかバーカ!
ほうけた面しやがって笑えるぜ。
俺が出ていかないとでも思ってたんだろうが、御愁傷様。
おっさんじゃねぇが、俺だって飛んできた火の粉しか払ってないつもりなんだ。
道がわからなくなってまた例のクソ村に着くかもしれないから、とりあえずはおっさんの馬車へ向かって進む。
来た道は戻らないようにすれば少なくともクソ村に戻ることにはならないだろう。
「兄さん!」
「なんだよ、おっさん」
わざわざ追いかけて来やがったな。
馬車を盗むとでも思ってんのか? そもそも、あんな不気味な犬をあやつれる自信がないから盗まねぇよ。
「行くあてはあるのか?」
「だからねぇって。こんな場所知らねぇんだからよ」
「そうか……そうだったな。……ならこいつをやろう。見たことないかもしれないが、これは鉄を熱して叩いて伸ばして――」
自慢気におっさんが話してるがようはただのナイフだな。
おっさんは俺にナイフを差し出している。
持つところは木製で刀身は鞘に入っていて見えない。かなり擦りきれた物だな、使い込んだのだろう。
「いらん」
「な、なに? 石の刃より切れるんだぞ? それに兄さん、武器なんて持って――」
「武器なんてねぇよ。だがな、そんな貴重なもん、はいそうですかってもらえるやつの神経が疑わしいわ。……貴重なんだろ?」
話し方から勝手に貴重だと思ってしまっただけかもしれない。
肉が貴重な国だし何に価値があるのかわからないからな。
貴重じゃなかったらもらってやろうじゃないか。
「あ、ああ。確かに。だが、この技術もこの国に広まるのはそう遠くないんだ。今は貴重でもゆくゆくは貴重じゃなくなる」
「やっぱ貴重なんじゃねぇか、いらね」
「このまま村から出たら、兄さん、死ぬぞ」
「あ? なんでだよ」
死ぬと言われれば多少嫌な感じがする。
あの4人組が襲ってくんのか?
「乗り物も無くて、武器もないんだ。どこで寝るんだ? 外は魔物がうじゃうじゃいるんだぞ? それに盗賊の集団もいるし、食べる物も――」
ああ、そっちかい。
「そんなに気にすんなよ。なるようにしかならねぇんだから」
少なくとも食い物はどうにかなるのだ。
後は寝る場所だな。
木の上とかになんのかね?
ポーンとかいうやつ、木が登れたら厄介だな。
「まあ、おっさんがいいやつだってのは伝わってきたわ。ここまで助かったぜ」
「そうか……無事を祈ってるよ」
「おう」
「気がかわったらコマを俺に売ってくれよ!」
結局それかよ!
村から出て、来た道に戻らないように進み始めた。