1-7 突然始まる、異世界の旅
「着いたぞ」
「早いな!」
まだ飯を食って出発してから20分も経っていない。
すぐそこだったらしいな。
目の前の村は最初に行ったクソ村よりも見るからに大きい村だ。
森と平原の境に作られた変な村で家はやっぱり草や木で作られたしょぼい家。
俺とおっさんが近づいてきたのを見て、村から武器を持った半裸の男たちが出てきた。
武器はやっぱり木の棒だ。
「兄さん、俺はこれから村長と話をつけてくるから居心地は悪いだろうがここで待っててくれるか?」
「あ? わかったよ」
手土産かなんかしらないが荷物をいくつか持ったおっさんに男が二人ついていき、俺は武器を持った男が4人と取り残された。
かー、今にも殴りかかりそうなやつらの近くにいたくねぇが、我慢するか。
だいたい、取引か商売か知らんけどこんなしょぼい村と取引して利益になんのか?
「お前、妙な格好だな」
俺とタメぐらいの男が突然話しかけてきやがった。
俺の格好……ああ、まだズボンはいてなかったわ。
どうせMPも回復してないしズボンもねぇからどうすることもできねぇけどな。
あー、面倒くせぇなぁ。
「あ? そういうお前も俺からみたらずいぶん変な格好だぜ」
「俺達の正装をバカにするのか!! 貴様!!」
いきなり4人全員が殺気立って俺を囲む。
なんなんだこいつら。
「なんだぁいきなりこのやろう! てめぇからケンカ売ってきたんじゃねぇのかコラ!」
「お前の格好はおかしいだろ! おかしい事をおかしいと言って何が悪い!」
「てめぇ薬かなんかで頭がイカれてやがんのか? 俺もお前らの格好が変だから変だっつってんだよ! これで文句あんのか? あ!?」
しばらくにらみ合いが続く。
殴られるまで手を出さない。それが親を失った俺が子供の時に決めたルールだった。
これが良いか悪いかなんて知らない。
ただ、「殴られたら殴り返して良い。お前から手を出してないなら父さんはお前の味方だ」
親父が俺に教えてくれたことの一つだ。
それを俺は今まで、ただただがむしゃらに守ってきた。
外国に来ても、相手が棒切れを持っていようが俺はルールを破らない。
破れば俺はいままでのただ一つを貫いてきた自分を無かったことにしてしまいそうで、親父が本当の意味でいなくなりそうで怖かったのだ。
どちらも手をださないまま、じりじりとやつらと俺の距離が縮まってくる。
100%負けるケンカだ。
物を持った野郎に囲まれた時点で逃げる事もできねぇクソ試合だ。
「おいおい、兄さん。勘弁してくれ」
「……おっさんか」
おっさんが下がるように俺へジェスチャーで指示してきたので仕方がなくおっさんの後ろへ下がる。
「すまねぇな若い戦士たち。この兄さんは記憶喪失でな、まあ悪いやつじゃないさ」
「だが、我らの正装をバカにした! ゆるせん!! 我らに殴られるのがいやなら村から出ていけ!!」
てめぇらからケンカ売ってきたんだろ! という言葉をぐっと飲み込む。
おっさんが間に入ったんだ。
多分俺よりも強いし、おっさんに任せるべきだろう。
「いやいや、しっかり村長と話をつけてきて村での活動許可を我々は得ている。意見があるなら村長へ言ってくれよ? それとも兄さんが暴れていたか? 俺にはそうは見えなかったがな?」
「くっ! わかった。村長と話をしてくる。我々が戻ってくるまで余生を楽しむんだな!」
男4人が村の中に消えていった。
もう、我慢しなくていいな。
やつらが視界から消えるまで腹がよじれそうで苦しかったんだよ!
「なあ……おっさん、聞いたか? 余生だってよ! 余生! 笑っちまうぜ!! あーっはっはっはっは! 殺すつもりかよ! くっくっくっ!」
「はー……兄さん勘弁してくれよ。いよいよとなりゃあ仕方なく応戦することもあるが、俺のモットーは穏便に事を済ませる事なんだからよ」
あー、久々に腹の底から笑った気がする。
真面目くさった顔で余生とかほざきやがるんで笑わずにはいられなかった。
しかし血の気の多いやつに良く会うな。
まあ、日本でも同じようなものか。
チンピラもどきみたいなのと目が合えばケンカになんだからな。
「んで、俺も村に入っていいんだろ?」
「あ、ああ、まあな。しばらくは俺と行動したほうがいいだろうけどな」
「ちっ! 面倒だが、あの4人がきたらもっと面倒だから、そうするか」
馬車をその辺りの木に繋げたおっさんと俺は一緒に村に入ることになった。