1-5 突然始まる、異世界の旅
「よし、じゃあ行くぜ……」
(良く回る魔具のコマをくれ!)
俺の手のひらにコマが現れた。
持つところはつまようじのように細く、大きい梅干しぐらいのなんの飾りも模様もない銀色の金属製のコマだ。
結構重い。
MPを確認したら0になっていた。やっぱり何も作れなくなりやがった。
「これがコマだ!」
「兄さん……今、何をしたんだ?」
「あ? 作れっていうから作ったんじゃねぇか。コマを」
やっぱりこのコマじゃなかったのか。
外国のコマなんか俺しらねぇしな。
「手に……突然現れたような気がしたが……」
「おう」
「いや、おうって……何かの珍しい魔法か?」
「魔法? ……確かに魔法っぽいな。魔法なのかもな。魔法ということにしよう」
「……そうか。なんか変わった兄さんだとは思ってたが……」
おっさんはぶつぶつ言いながら顎に手をやって何かを考え始めた。
俺は手のひらにあるコマを試してみたくなった。
何せ俺が頼んだのは良く回るらしい魔具とやらのコマだ。
ガキの頃以来だなコマなんか。
「よし、試してみるか」
俺は座席で回すために体を横に寄せる。
「お、回してみるのか」
おっさんも逆側に体を寄せてくれた。
座席は木製で多少の木目や傷、段差があるが、まあ良いだろう。
コマの持つところを人差し指と親指でつまむ。
こういうのは思い切り力を入れて回そうとしても、どっか飛んでいったりして上手く回らないものなんだよな。
昔よくやったぜ。
馬車から落ちると面倒なので、力2割ぐらいでコマを回す。
座席の木材に着地したコマはきれいに回り始めた。
「ほう、きれいに回るもんだな。ゆがみもない。きれいな銀色だが、コマの材質はなんなんだ?」
確かにきれいな銀色だな。
鏡になりそうだ。
まあ多分鉄だろうが。
「知らん」
「……ん? コマの材質だよ。知らんってことはないだろ?」
「知らねぇよ。俺は作っただけなんだから」
「作ったから知ってるんじゃないのか……」
しかし良く回るコマだ。
全然力を入れなかったのにまだ回ってやがる。