突然始まる、異世界転移
力が全てだった。
小学生で両親を失い、普通という人生の道を踏み外した。
友達と呼べる仲間はいなかった。
目の前に現れる奴らが、何故か全員敵に見えた。
最初は悪いと思っていた。
殴り、殴られるうちに、そんな感情もなくなった。
そう、俺はいつの間にか、不良になっていた――――。
「おら!! 死ねボケェ!」
今日も3人の敵が俺の前に現れ、それを排除する。
全員頭の悪そうな髪色をして、奇抜な髪型。
他人を威圧するために服を崩して着こなしたチンピラスタイル。
……キメェ。
だが、俺も人の事は言えない。
俺もこいつらと同様で他人になめられないように、服装はチンピラスタイル。髪色も金に近い茶色なのだ。おまけに本当に頭がわりぃ。こいつらのことが笑えないのは俺が一番わかっているのだ。
しかし、3人を相手にするのはまずかった。足に蹴りを一発。腹と腕は角材で殴られ、顔面にも一発パンチをもらっちまった。
「ペッ」
舌打ちと共に唾を地面へ吐き捨てる。
顔面にもらったパンチで口の中を自分の歯で傷つけているため、結構な量の血が出るのだ。歯が折れなかったのは幸いだったな。
どいつもこいつも、俺も世の中も、全員狂ってる。
奴らから仕掛けてきたケンカだが、俺はこれで高校を退学になるだろう。
いくら偏差値の最底辺クソゴミ高校だろうが、2年の留年に加えて今年だけで10回も停学になったのだ。
今まで育ててくれていた叔父もさすがに俺を追い出すだろう。
これからどうするか。
行くあてもなければ、頼れる知り合いもいない。
「おめぇ、黒木か?」
俺は名前を呼ばれてそちらを向いた。
5人のチンピラが俺をにやけた面で見てきやがる。
また、か。
体が痛い。5人とやりあえば、俺は一人も倒せないだろう。仕方がねぇ。逃げるか。
………………………………………………………………あ?
奴らの顔面が、ひとつの透明な玉に変わった。
意味が分からねぇ。
俺はさっきまでコンクリートの上に立って、3人のぶっ倒れたゴミ共のいる路地裏にいたはずだ。
辺りを見渡してもなにもない。
ただただ、妙に真っ白な部屋。いや、部屋じゃないのかもしれない。壁が見えないのだ。
気味が悪い。
玉に目を向けると、玉の上に文字が書いてあるのが見えた。
近づいて確認する。
【玉に手をかざして下さい】
イラッとする敬語に舌打ちが出る。
マジでどこだよここ。
それになんだ? かざして? かざしてってなんだ?
かざす。かざした。かざ……かざ……。手をかざ……をかざ……わからん。
やりたくてもできねぇよ!
難しい言葉書きやがって! 頭に来る!
「おーい!! 誰かいねぇのかー!!」
返答はない。
誰もいないようだ。
「クソ野郎ー! ゴミー! ボケー! 隠れてんのかー!」
……なにも起きない。
やっぱり、この玉に手を〝かざして〟みなくてはいけないらしい。
色々試した。
台座に固定されているから持ち上がらない。
殴ってみても効果はなかった。
抱きついても効果は同じだ。
俺は玉に手を置いて一息つく。
意味が分からねぇ言葉を書きやがった奴に、怒りがふつふつとわいてくる。
と、何がよかったのかわからないが、玉が暖かくなってきた。
どうやら〝かざす〟ことに成功したらしい。
玉に手をかざして下さい、の文字が変化する。
【あなたに今、一番足りない物を授けましょう】
「あ? なんだ? 足りない物を……けましょう? う……うけましょう? 読める文字書けやコラ! 姿を見せて直接言えや!」
【生産性が皆無であることが判明しました。クリエイターのスキルを付与します】
「だから、なに書いてんのかわかんねぇよ! 生産性がなんだって? ちょっ……」
俺がまだ読んでるのに、次の文字に変わりやがった。
【歩き方のメモをポケットに入れておきます。ご武運を】
「あ? 歩き方? んなもん教えてもらうほど頭が悪かねぇよ! メモだ? ご……ぶ……うん、を? なにが?」
次の瞬間には、目の前に木があった。
路地裏ならまだよかった。顔を殴られたときに当たりどころが悪くて幻覚を見た、てことが予想できる。
しかし、ここは明らかに森だ。
「はぁ~……やべぇ、さすがに病院いくか。あ! 金がねぇわ」
いや、倒した3人から金をぶんどって……路地裏じゃないからいねぇわ。
とりあえず、叔父に電話するか。
携帯を取り出そうとポケットに手を入れるとレシートか何かがくしゃくしゃになった。
くしゃくしゃになったゴミを取り出すと、濃い文字で【歩き方】と書かれているのが見える。
シワを伸ばして広げてよくみる。
【この地はシラブクド王国、カバータ領、サバララ村近くのハルメスの森の出入口付近です。まずはハルメスの森を出て、サバララ村を目指しましょう! あなたの旅はここから始まるのです!】
意味がわからん。
まず、地名? かなんか知らんが、続けて書いてあって内容が頭に入ってこない。
シラブ……なんちゃら王国の……どうでもいいわ。
紙を裏返す。
【クリエイター : MPを消費して好きなものを作れるよ】
「なんじゃこれ」
紙をくっしゃくしゃに丸めて捨てた。
あらためて携帯を取ろうとポケットに手を入れるが、ない。
なにもない。
財布も携帯も家のカギも、なにもない。
本気でマズイな。
ここがどこなのかわからなさすぎる。
飯もないし人を探すか。