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血色の世界  作者:
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4話 アキ

 教会前の鍛練から数日が経つ。


「おはよう。セレメ」


 任務から帰って来たアキが言った。

 テーブルに料理を並べているのでそれを手伝いながら朝食を見る。

 今日は何かの肉のステーキと麦粥と果物か。

 朝からこれを食べれば、今日は昼抜きでも頑張れそうだな。

 勿論昼食も取るけども。


「女神ルーダ様に感謝を、この命に感謝を」

「女神ルーダ様に感謝を、この命に感謝を」


 アキと息を揃えて祈りの言葉を口にした。

 さて。食べようか。


「セレメ。仲間を作る気はないのか?」


 食事をしながらアキと会話をする。


「いずれは作るさ」


 俺はいつものようにそう答える。


「いずれっていつなんだ。ずっとそう言っているじゃないか。一人で強くなっても同時に緊急事態が二か所で起きればどちらかに行かなくてはならなくなる。セレメは一人しかいないんだ。頼れる仲間も必要だぞ」


「それはわかっている」


 アキは俺が心配なのか何度もそういうけど今は鍛練に集中したい。

 アキの言うこともわかるんだ。

 例えば北と南で敵に攻め込まれたら北か南に行かないといけない。

 迷ってもその一瞬で誰かの命が奪われるかもしれないしどっちの方が助けが必要なのかとかは行ってみないとわからない。

 信頼出来る仲間がいれば二手に分かれて戦えばいい。

 そういうのはわかるんだけど人と関わるのはなんかその……苦手なんだよな。

 将来必要だから成人までには見つけるけど。


「考えたんだか一度セレメは学び舎に通った方が良いんじゃないか? あそこなら色んな戦い方を学べるし本もここより沢山ある。殆どが戦うことの出来ない親が子供に身の守り方を教えたいが為に通わせているようだかその中には優秀な子もいる」


 ……悪くはないないか。

 俺に足りないものを教えてくれるも知れないし新しい知識を手に入れられるかもしれない。

 アキが勧めるんだから行ってみよう。

 その方がアキも安心してくれるさ。

 ダメだったらそれはそれで別の手を考えればいい。


「学び舎に通ってみるよ」


「よかった。では直ぐに申し込んでくる」


 アキは余程俺の言葉が嬉しかったのか、急いで食事を口に押し込み鼻歌を歌いながら家を出て行ってしまった。

 ……あんなアキ初めて見たぞ。


 とりあえず食事を終えたらいつも通りに丘へ行こうか。

 アキも直ぐに来てくれるだろう。

 必要な物を持って俺は家を出た。


 準備運動で走ったり素振りしたりしながらアキを待つ。

 しばらくして仮想の敵相手に戦っていてもアキは来なかった。

 申し込みとかに手間取っているのかもな。

 水を飲んでまた鍛錬を続けた。


「あんた! また模擬戦するわよ!」


 声が聞こえたのでそちらを見る。

 この間教会の前で鍛錬した相手がなぜここにいるのか?

 アキがいないから手合わせしてもいいけど、俺の居場所をどう見つけた?

 ……鍛錬が出来るし細かいことは気にしないことにしよう。

 でも木剣がないんだよな。

 仕方ねぇ。

 家から持ってこよう。

 丘を降りようとしたところで少女に止められる。

 名前は何だったか。

 レ、レ、レ……レンズ?

 レモンだっけ?

 いや、カモンだったか?

 カレンだった気もするな。

 ……まあいいや。

 後で聞こう。

 それより何故止められたかという方が気になる。


「模擬戦しない気なの? セレメ」


 ああ、黙ってどっか行こうとしたから止められたのか。


「家から木剣を持って来ようとしたんだが、真剣の方がいいか?」


「そ、そういうことならいいわ。さっさと持って来て模擬戦よ!」


 急いで木剣を持って来て模擬戦を開始した。

 今回は魔法を使わない。

 俺の言葉通り同意がないと使わないって言うのを実践しているらしい。

 良いことだ。

 それに何度も少女を転がしても直ぐに立ち上がって俺に攻撃をしかけてくるのも良い。

 諦めないその姿は俺も見習わなくてはいけないな。




 どれくらいの時間が経ったか。

 そろそろ休憩して昼食を食べたい。


「そろそろ飯を食おう」


「そう、ね。」


 少女は頷き、上がった呼吸を整えている。

 でも立つのもしんどいのかすぐに座り込んでしまった。

 水を飲ませるか。


「これを飲め」


 水筒をぶん投げてやる。

 少女は直ぐに水筒の口を開け、中の水を飲み干した。

 そんな喉が乾いていたのか?


「ぷはぁ! 美味しいわ! セレメありがとう!」


 少女が笑って水筒を返してくれる。

 コイツ笑えたのか。

 この間もさっきも敵意丸出しで剣を振り回していたからな。

 少し安心した。

 敵意以外の心もちゃんと持っているらしい。



「セレメ。その女の子は誰だ?」


 いつの間にか近くにいたアキが聞いてくる。

 アキは相変わらず気配を消すのが上手い。

 いつからいたんだ?

 声をかけてくれればいいものを。


「コイツはこの間教会の前で鍛錬の相手をしてくれた少女だ」


 アキの質問に答えてみせる。


「名前は?」


「名前は……カリンだったか? いやマリン……マイコだった気もするな」


「全然違うわよ! 私はレイダ! レ・イ・ダ!」


「そうそうレイダだったな」


 名前はすっかり忘れていたが、存在を忘れていなかったことは褒めてくれ。

 俺とレイダの様子をみるアキは呆れたように笑った。

 でもどこか嬉しそうだ。


「レイダもその年にしては結構強いみたいだしセレメにとっても良い影響を与えるだろう。これからが楽しみだ」


 そう言ったアキは本当に楽しみなんだろう。

 今にも踊りだしそうなほどそわそわしている。


 そんなアキは突然表情が抜け落ちたような無表情になりレイダを見た。

 アキの表情の変化が急激過ぎて怖い。

 さっきはあんなに素敵な笑顔だったのに、今は見る影もなく石の彫刻のように表情が動いていないじゃないか。


「レイダ。学び舎を抜け出してセレメと手合わせするのは頂けないぞ」


 アキが静かに怒っている。

 俺が怒られているわけじゃないのが救いだ。

 というかレイダは学び舎に通ってたのか。

 そこを抜け出してここにいるとは知らなかった。

 そりゃあ怒られてるわな。


「学長に頼まれてレイダを探していたらもう昼だ。セレメの鍛錬に付き合えなかったじゃないか。最近セレメを鍛える時間が減って、私は寂しく思っているのに、代わりにレイダがセレメと鍛錬していたなんて……!」


 今度はアキが泣いてしまいそうな顔をしている。

 いつものアキはあまり表情を変えないけど何かのキッカケで感情が暴走したようになってしまう。

 ここのところ任務続きでストレスが溜まっていたんだろう。

 寂しいとかいつもは恥ずかしがって誰にもいわないし。

 あとで俺が本でも読んであげようかな。


 そんなことを考えているとアキが俺を抱きしめてきた。

 こうなると俺から離れようとしないし、逃げようとしても直ぐに捕まる。

 今日はもう鍛錬は諦めるしかないな。

 つい溜め息を吐いてしまう。

 家に帰ろう。


「ほらアキ。家に帰るぞ。飯も作ってやるから」


 アキを宥めながら歩いていく。

 レイダは大丈夫だろう。

 ここまで一人で来たんだ。

 一人でも帰れるさ。

 飯もどっかで食べるだろう。




 家に帰ってきてアキの看病をした。

 アキの感情が暴走したようになるのは過去のトラウマの所為らしい。

 詳しくは教えてくれないけど辛い目に会ったんだそうだ。

 いつもは冷静沈着なんだけど。

 本を読み聞かせている途中に眠ってしまったアキを見ながら思う。

 アキの心は脆いから俺が守ってあげないと。

 その為にはまず俺はアキよりも強くなる。

 守られる側じゃなく守る側だ。


 手元にあるアキの大好きな本をもう一度読む。

 昔は魔王と女勇者の話と呼んでいた本。

 題名『異界人の戦い』は別の世界から来た悪夢ユータが魔王と名乗って国を支配した話。

 勇者ヨーコもまた、別の世界から来たらしいが本当の話かは今ではわからないことだ。

 でもアキは魔王の気持ちがなんとなくわかると言っていた。

 俺にはよくわからない。

 魔王はなんで国を支配し人々を少しずつ殺して行ったのか。

 アキは自分も魔王になりそうで怖いらしいけど、アキが魔王になったなら俺が倒すから大丈夫だ。

 アキなら魔王になんてならないだろうけど。

 

 本を棚にしまった後やることがなくなった。

 ……家事でもするかな。

 食器洗い、洗濯、掃除など。

 それらも終われば夕飯の準備。

 暇になればまた読書だ。




 日が暮れ始めた頃にアキが目を覚ました。

 夕飯にしよう。

 シチューの入っている鍋を温め皿に装う。

 パンを何個かシチューの中に突っ込み、アキと俺の分をテーブルに置いた。

 あと野菜が欲しいか。

 適当にニンジンをスティック状にしてマヨネーズを付けて食べられるようにする。

 こんなもんでいいだろう。


「セレメ。流石にシチューの中にパンを入れるのはやめないか? 入れるとしても丸々ではなく一口サイズにしてだな……」


 いつも通りに戻ったアキが淡々と文句を言ってきた。

 フォークをぶっ刺して食べれば問題ないって。


「それにこのニンジンは何だ? もう少し工夫するか別の野菜も入れないか?」


 ニンジンは美味いからこれでもいいだろう。

 キュウリとかダイコンとかってあんまりマヨネーズにつけて食べたくない。

 個人の好みの問題だろうがマヨネーズを付けて食べる野菜はニンジンとブロッコリーがいい。

 でもブロッコリーがないから仕方ない。

 キュウリとダイコンは漬物が一番だと俺は思うんだ。


「セレメ? 話を聞いているのか? なんか言え」

 

「女神ルーダ様に感謝を、この命に感謝を」


「おい、無視するな」


 アキはブツブツ言いながらも諦めたのか、お祈りをして食事を始めた。


「無駄に美味いのが腹立つぞ」


 アキがパンにフォークをぶっ刺して食べながら言っている。


「それは褒められてるってことにしよう」


 美味ければ問題ない。

 食べづらいのならゆっくり食べればいい。

 朝や昼ならこんなことはしないが夜ならゆっくりのんびりする。

 少しくらい行儀が悪くたって夜なら暗くてあまり気になりはしないだろう。


「セレメ。学び舎なんだが、五日後の朝からなら来ていいと言っていたぞ。ここは都じゃないから試験なんてものはないらしくてな。寧ろ子供が少な過ぎてどんな子でも歓迎状態だ」


 そんなもんなのか。

 ここは魔族の国の外れだし学び舎があるだけでも奇跡に近いもんな。

 単に魔人を都に入れたくないからこんな村に学び舎があるのかもしれないがそれでも殺されないだけマシだ。

 人間の国なんて魔人ってわかった時点で、全ての人間が殺しにかかってくる。

 男であろうが、女であろうが、子供であろうが、老人であろうが関係ない。

 黒い血の子供が生まれれば、罪のないその子供もすぐさま処刑だ。

 火あぶりだ。


「学び舎の持ち物は特になくていい。でもお金は後で渡しておこうか。昼に何か買って食べなさい。」


 おっと。思考が脱線していた。

 持ち物は財布だけでいいなんて楽だな。

 剣は持っていっちゃ駄目だろうか。

 肌身離さず持っていたいんだが。

 まあ注意されたら隠して持っていくことにしよう。


「ありがとう。アキ」


 学び舎に通わせてくれるアキに礼を述べておく。

 正直少し楽しみになって来てるんだ。

 人との関わりは苦手ではあるが、戦う術を身に着ける者たちのいる場所だ。

 楽しみでないわけがない。

 どんな戦い方をする人がいるのだろう。

 でも通っている子供の数は少ないらしいからあまり期待はしないようにしておこうか。


「楽しそうだな。セレメ」


 アキがそういって微笑む。

 顔に出てたかな?


「セレメの笑顔を久しぶりに見た。セレメは私に似て感情を表に出すのが苦手だから心配だったけれど、その様子だと大丈夫だろう」


 アキは優しい笑みで俺を見つめる。

 なんだか照れてしまってそっぽを向いた。

 そんな俺が可笑しかったのかアキはくすくすと笑う。

 アキは俺よりは感情を表に出せているよな。


「心を許せる仲間を見つけなさい」


「……見つけるよ。仲間」


 そういってみるものの、照れて顔が熱くて頭が混乱する。

 アキの目を見ていられない。

 でもアキの優しさが嬉しくて、アキが俺の親でよかったと再確認した。

 

セレメもアキも可愛いでしょ!?

……可愛く見えるといいなあ。

なんて思ってみたりしてみたり。


次話は4月29日投稿予定です。

次話予告、アキのサインが欲しいぜ

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