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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コードネーム「マッチ売りの少女」が、エージェントと出会うまで~タイムリミットは一晩⁈~

作者: 松雨 亀丸

提出直前ギリギリの約3時間で書き上げた作品ですので、謎が解明されていない部分がいくつか残ってしまいましたが、お楽しみいただければ幸いです。

私はマッチ売りの少女である。

寒い雪の降る中、マフラーも手袋もコートも無い状態で、石畳の町中を歩いている。

既に日は沈み、家々に暖かい明かりが灯りだしてから暫く時間が経過した。

籠の中にあるマッチの箱は、家を出た時から全く減っていない。

道を行き交う人々は早足で、声をかけることも出来ない。

少女の歩幅と身長の高い大人の歩幅の差は、あまりにも大きかった。


私は転生者でもある。

だから、今夜が私にとって最後の夜になるであろうことは嫌でも気づいていた。

己が転生者であることに気が付いたのは、先ほど転んだ時に脱げた片方の靴を強奪された時。

つまり、今晩。


何でもっと早く転生者であることに気づかなかったのか。

どうしようもない感情が湧き上がる。

しかし、こればかりは仕方がない。


私に残されたタイムリミットは、多く見積もって明日の早朝。

原作でマッチ売りの少女の遺体が発見されたのが、そのタイミングである。

しかし、恐らく少女が亡くなったのはそれより数時間前であろうことは何となく推測できる。

雪の中に倒れ込んた後、寒さが追い打ちをかけて彼女を死に追い詰めたのではないだろうか。


そもそもの話、原作が開始した時点からマッチ売りの少女を助けようとしたら可能なのだろうか。

可能性が全く無い訳ではないが、主人公に暖かい衣服と食事と住居を提供できる第三者的立場が存在しなければ、彼女の生存率を上げることが出来ないのは確かだろう。


なのに、何故、私は、主人公になった⁈

仕方がないと先ほど思ったが、思わずこう考えてしまうのも仕方がないと思う。

どうせだったら第三者的立場に生まれ変わって、主人公を手助けしたかった。


転生者である自覚が生まれてからもマッチを売ろうと試みたが、結果は惨敗である。


こうしているうちに、道を行き交う人が着実に減ってきている。

同時に、私の生存率も確実に下がってきた。


もう完全に詰んでいる。

誰か、助けてくれよ!と無責任なことを思いつつ、一瞬、やけっぱちになって発狂でもしてやろうかこの野郎!とも思ったが、すぐに思い直して止めた。

体力無駄遣いで生存率を下げたくない。

簡潔に言うと、私は死にたくない。


寒いし、お腹は既に空いているを通り越して痛いけれど、私は生きたい。

今夜中に死ぬかもしれないけれど、私は生きていたい。


だが、どうすれば生き残れるだろうか。

一先ず、明日の朝まで生き延びる方法を探すことにした。


道端の人に助けを求めることも考えたが、恐らく可能性は低い。

予測不可能な将来があるものの、生存率を上げるには一番良さげであると考えたアイディアは、「まず家に帰ること」。


原作では、マッチが売れないと父親から暴力を受けるとあった記憶がある。

しかし、父親は健在であることは確か。

彼も本当に栄養失調だったら、少女をボコボコにする気力と体力は無いはずである。

素面で殴るのか、泥酔して殴るのか不明である点が心配であるが、なりふり構ってはいられない。


とにかく、食事と暖かくて安全な居場所の確保が最優先。

私は、原作の少女のような素直で純粋な心を持っていない。


家に急ぎ足で戻る最中、私は偶然道端に新聞が一部捨てられているのを見つけ、急いで拾う。

新聞には保温効果があることを思い出したからだ。

この時代の新聞紙にもその効果があるか分からないが、多少は寒さを凌げるだろうと希望的観測をした。


家に着いたらどうすべきか。

生存率を上げる方法が一番高いのではないかと考えたことは確かであるが、この方法はリスクも高かった。

最悪、父親に捕まって暴力を受けた時に、少女の体が耐え切れずに死ぬ可能性があるからである。

殴られて転倒し、頭の打ちどころが悪くて死ぬ可能性もある。

だが、私はやりきらないといけない。

いっそのこと、演技でもして騙すか?翌日も生き残ることを考えるとハイリスクすぎる気もしなくない。

嘘を続けるのは疲れるし、事実に反映させるのが難しい。

そこまで考えられるほど、私の頭脳は出来ていない。

ちょっとした悪知恵が思いつければ上々。


さて、家に着いた。

もう深夜になる頃かもしれない。

正確な時刻は時計が無いから分からないが、そんな気がする。

音が空気に溶けて消えていく感覚がするからだ。


・・・もしかして体がヤバいんじゃないの?とおもった貴方。

・・・実は、私もそう思いました。


それはさておき、実は家の明かりが付いていなかった。

人の気配もせず、ひっそりと静寂を保っている。


私は籠の中に仕舞っていた鍵を取り出し、音を立てずに鍵を開けて中に入った。

逃げ道の確保をしたかったが、開けっぱなしにするわけにもいかないので、中から鍵を閉め直す。

中に入ったとたん、後ろや前や横や上や下からドーンと殺されたりする可能性があったが、後には引けない。私は生きたい。

家の中を隈なく捜索した結果、父親は不在。

この家が少女の家であることは間違いない。

しかし、少女の記憶によると父親不在は果てしなく珍しいことだった。


気は抜けないものの、行動するには最適の環境である事は確か。

家宅捜索中に見つけた防寒着を羽織り、食べ物をスカーフで包んだ後、飲み物は持ち運び出来る瓶に詰めた。

父親が帰って来た時に見つからず、その上逃げやすい場所に身を潜め、スカーフに包まずにいた余分の食べ物をもそもそ食べ、新聞紙で上から身を包む。


それから何時間経ったのだろうか、未だ少女の父親が一向に帰って来ない。

食べ物を食べたことと、防寒着や新聞紙で身を包んだ結果、無事体を暖めることに成功した。

うとうとしつつ、体力温存と父親の帰宅警戒のみに力を注ぐ。


空が白けてきた。

朝日が昇る。


私は、生きていた。

生きて朝を迎えることが出来た。


生き残れた嬉しさで頬に涙が伝い落ちる。

未だ父親のことが気にかかるものの、一先ず安堵した。


勿論、生き続けるために、まだまだ安心してはいられない。

今日をどう生き、どう次へと生かしていかなければいけないのか。

正直、考えると気が重くなる。


どうしよう・・・


と思った次の瞬間、パチンという乾いた音がして目の前に一人の女性が現れた。

シンプル且つオーダーメイドである事が素人の私でもわかるパンツスーツを身にまとい、片手にバインターを持った女性は、私を目にすると人懐っこそうな笑みを浮かべて話し出した。


「初めまして、突然お邪魔致します。私、転生者たちによる転生者たちの為のサポート協会、通称「転協会てんきょうかい」から参りました、コードネーム「白雪しらゆき」と申します。マッチ売りの少女様、お疲れ様です。原作の苦境をよくぞ乗り越えて下さいました。これからは私たち転協会がサポートをさせて頂きたく思います。どうぞ、お手をお取りください」


差し出された彼女の手を見て、なぜか疑いを抱くことなく素直にその手を取った。

その瞬間から、私は己の意志で、原作のマッチ売りの少女とは異なる存在へと自らを変えることになった。


長きにわたる「転協会」での私のエージェント生活がここから始まったのである。


えっと・・・実際のところ、エージェントとしてスカウトされて、私が白雪さんと同じように活動し始めるようになるのは少し後の話なんだけどね。


とりあえず私の物語はここで終わり。


転協会に入ってからの物語はって?

それはまた、別の機会があったらお話ししましょう。





それは密かに活動しているらしい。

転生者たちが、原作の物語の中で懸命に抗って生き残るために、沢山の同士が集い、同じ転生者たちをサポートする組織を設立した。その名を「転生者たちによる転生者たちの為のサポート協会」。

通称「転協会てんきょうかい」と呼ばれる秘密結社が生まれたことは、必然の結果であるのかもしれない。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!

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