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箱舟列車と銀の鳥  作者: 柿の木
第一章 彼女と彼と白い海
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第五話




 本日はエンドランド海上鉄道をご利用頂きまして、誠に有難うございます。

 この列車はレド島経由、海上線西回り。

 カナルタ中央駅を出ますと、次はレド島に停まります。

 まもなく発車いたします。


 車内アナウンスの後、ぎしりと列車が揺れた。

 作り物みたいなカナルタの街並みが眼下を流れて行く。

 カナルタは海上抗争後観光と交易メインで再開発された島だ。

 緑も多くて、建物も新しい。

 一等客車と食堂車の間。

 乗降口の大きな窓から、トルカはじっとカナルタを見下ろす。

 海上鉄道に乗っていると、つい海に出る瞬間を見たくなる。

 

「……――で、今回も例のあれ?」


 幕を下ろしたみたいに、水色が広がる。

 陽を反射すると、海面は白く光った。

 砂潮の時期だけの、白い海。

 トルカ、とリウに呼ばれて、仕方なく視線を上げた。

 

「うん。とっても安全な盗み聞き作戦」


 盗聴とも言う。

 運び屋摘発なんて「らしい」活動は、この半年ほぼない。

 二人が揃ってやることは大体が、こういう地味な聞き込みや盗み聞き。

 リウはもう諦めたらしく、「犯罪行為だ」と反論することもない。

 トルカは窓に身体を預けたまま、ポケットを探った。

 取り出したのはウィエルドお手製の通信補助端末。

 その端子部分に右耳から外したイヤリングを嵌め込む。

 

「……君のところの後方支援は、そういうの好きだよね」


 彼の手で改造された通信補助端末に、本来の機能はほぼ残っていない。

 夢中になると止まらないウィエルドが詰め込んだ機能は、使っているトルカですら全て把握していないレベルだ。


「そうなの。凝り性なんだよね、エルは」


 トルカは笑いながら答えて、更にイヤホンを繋ぐ。

 このぐらいの距離なら、十分音を拾えるだろう。


「リウ、リウ」


 ちょいちょいと手招きをすると、彼は少し身を屈めてトルカの手元を覗き込んだ。

 その耳に、片方のイヤホンをかける。

 顔が近いのが恥ずかしいのか、リウはさっとイヤホンごと耳を押さえて身体を引く。


「どう?」


「…………列車の音が、凄い」


「ちょっと調節するね」


 リウの様子を見ながら、端末を弄る。

 聞こえた、と彼が呟いてから、トルカもイヤホンを耳にかけた。


「毎回だけど、僕を実験台にするの、やめてほしい」


「これくらい率先してやってほしいな。小道具の準備から仕掛けまでやってあげてるんだから」


「面倒なことになると僕に丸投げして逃げるくせに」


 そんなことも、あったっけ?

 

「それよりちゃんと聞いとかないと。そのために来たんでしょ?」


 『海竜』相手に仕掛けるのは、それなりにリスクがある。

 だからウィエルドに新しい盗聴機器を作ってもらったのだ。

 機能がやや劣っても、発覚の危険性が低いイヤリング型で使い捨ても出来る。

 凝り性の彼は、わざわざ可愛らしい花飾りのイヤリングに仕立ててくれたわけだが。


『――――が、本題に。恐らくは、……を持って頂ける品――』


 流石、エル。

 雑音の多い車内でもばっちり声を拾えている。

 リウの眼が変わる。

 『海竜』と『青牙』。

 交渉というよりは、商売の話だろうか。

 まともな品なら良いが。


『……でも興味深いと………なっているんですよ。それが、――――』


 交渉人はどちらも男だ。

 売り込んでいるのは、立場から考えて『青牙』だろう。

 武器か、それとも。

 がたん、と音を立てて、一等客車側の扉が開いた。

 乗客が隣を通っても、二人は仲良く話しているようにしか見えないはずだ。

 さして気にも留めなかったトルカに対して、リウがはっと反応する。

 イヤホンのコードが張って、トルカは黙って彼の袖口を強く引いた。

 気を引くなという警告のつもりだったが、彼は通り過ぎていくはずの相手を凝視する。


「ハーグウィル?」


 芯の強そうな声には、聞き覚えがあった。

 さっきの。


「……セレン、先輩」


 リウの、苦い声音。

 見ると、やはり先ほどの乗務員だ。

 向こうもトルカの顔を見て、それからリウを見た。


「ハーグウィル……、私的な、乗車ですか?」


 一瞬、その確認の意図を図り損ねた。

 彼女を見つめ返すリウが、一度言葉を飲んで、それから首を振る。

 セレンと呼ばれた彼女は、ぐっと拳を握り込んだ。

 ああ、なるほど。


「そっか。お姉さん、摘発班だったんだ?」


 リウと面識があり、その乗車の意味を問うなら、それ以外考えられない。

 その腕に赤い腕章ないが、特別警戒中なら納得できる。

 ただ、私服ではなくしかも一人のところを見ると、この交渉を追っているわけではなさそうだ。

 運び屋の一件もあって、乗客に不安を与えない形で警戒を強化しているのだろう。

 彼女は信じられないような表情で、トルカを見た。


「……先程の。まさか、じゃあ、貴女が、『協力者』?」







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