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箱舟列車と銀の鳥  作者: 柿の木
第二章 船長会議
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第零話




 リウは意外と負けず嫌いで頑固だよね。


 そう評したのは、五つ上の姉だ。

 リウに言わせれば、彼女の方が余程頑固で扱い辛い。

 一度こうと決めたら周りが何を言おうが関係ない。

 そんな姉を見て来たせいか、リウはそもそも幼い頃から割と手がかからない子だった。

 勝てない喧嘩はしない。

 よく考えてから話す。

 自然と一歩引くリウの姿勢は、間違いなく姉が反面教師。

 負けず嫌いで頑固なんて、地元の友人にも言われたことがない。

 ただ正直、「似ている」と言われても仕方がない部分もある。

 生まれた時から傍にいて、多々難はあれ、仲は悪くない。

 姉が当時流行っていた騎士物の童話にハマって訓練場通いを始めると、当たり前のようにリウも訓練について行った。

 遥か頭上を走る海上鉄道に感動して、エルッツェンドの駅前広場に通い詰めるようになったのも、将来は海上鉄道の運転手になるのだと宣言したのも。

 思い返せば、彼女が先だ。

 結果的に、リウの方が長く訓練場通いをすることになったのも、試しにと受けた試験を奇跡的にパスして海上鉄道に就職出来たのも。

 きっと、リウが負けず嫌いで頑固だからではない。


 特に後者は、最早『運』としか言いようがなかった。


 良いわ、君。

 面白い。


 あの息が詰まるような面接試験の場で、歌うようにそう言ったのが、現上司。

 心臓に悪い美人だとか、お腹冷えそうな短いタイトスカートだとか、そういう青少年には重要な印象より、腹を空かせた獣が獲物を見つけた時みたいな獰猛な視線が忘れられない。

 狩られそう。

 背筋が冷えたのは、多分気のせいじゃない。

 何が、「良い」のか。

 何が、「面白い」のか。

 リウはその場で理解が出来なかった。

 どちらかといえば、言われた言葉とは正反対の意なのだろうと思った。

 直前の自分の発言はそう、『海上がり』による犯罪抑制策について。

 

 鉄道会社の誇りは、乗客を安全、確実に目的地に運ぶこと。

 そのためなら、別に『海上がり』と歩み寄っても良いんじゃないだろうか。

 

 エンドランド諸島連合の歴史と、海上鉄道を取り巻く諸事情。

 その膨大な情報を詰め込んで自分なりに理解した上で、リウが考え口にしたことだ。

 けれどその言葉で、場は凍った。


 あ、終わった。


 瞬時に理解出来るレベルの、冷ややかな視線。

 頑張っても駄目なことって、実際結構あるし。

 いつか「一応面接までは行ったんだけど」と笑って話せる時も来るだろう。

 それじゃあ、この度はご縁がなかったということで。

 その一瞬で、リウの思考はそこまで辿り着く。

 引き戻したのは、彼女の声だ。

 

「良いわ、君。面白い」

 

 思い返せば、実にわかりやすい。

 リウの性格がどうとか、そんな理由ではなく。

 まして珍しくもない海上鉄道への憧れを、評価されたわけでもない。

 『海上がり』を敵だと断じ切れない、外の人間としての考え。

 致命的な「感覚の違い」。

 それを、彼女が必要としていただけだ。

 

「君、私の班に来て」


 欲しい。

 面接で言われたら歓喜すべきその言葉に、何故かぞっとした。


 狩られた。


 だからいつだったか通信で、「初志貫徹だね。やりがいあるでしょ」と姉に言われた時、何も言えなかった。

 彼女に引き抜かれて任された仕事は、想像していたものと違った。

 つまり心底やりたかった仕事ではないし、やりがいがあると胸を張れるほど現状をきちんと理解しているわけでもない。


 そうだ。

 僕は今、憧れの裏側を見ている。


 



 


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