表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

タマ

アルドニアはイロハギルドから見て西方に位置する小さな山村で、アルドナ山の中腹にある。


民家も20軒程度で、日に2度商人が魔法陣経由でものを売りに来るのだとか。


「ありがとうございました、ユズさん」


俺とサラスティーナを家で休ませてくれたのは、町の中で1番若いユズさんだった。

1年前に父親が他界して以来、1人で生活しているとの事だ。


「いえ、さすがにあれ程疲弊してる方を見過ごせませんから」


苦笑い交じりに本音をこぼした。


ですよねぇ…。

剣やらハンマーやらを持ち、鎧まで装備した人間が、

魔法陣から出てくるなり既に虫の息とか、笑いを通り越してヤバイわ。


「確か「ブロックゴート」の討伐でいらしたんですよね?」


「まぁ一応」


未だに体力回復せずに、ソファで寝かせてもらっているサラスティーナを横目に見つつユズさんに返答する。


「そうですか。

では、依頼の遂行中はこの家で休んで頂いて大丈夫ですよ。

元より、この村に宿屋などありませんし、寂しい1人身の私では持て余していた家ですので」


なんと良い人なんだ。

現代日本じゃありえないな。


なんてことを考えていると、やっとサラスティーナのヤツが起き上がった。


「アナタ…なんで、もう元気なのよ…」


「休んだからに決まってるだろ。サラスティーナもそろそろ仕事しないと」


「この体力バカ」


「うっせえただのバカ。


俺に実力とやらを見せるんじゃなかったのか?」


俺の挑発にサラスティーナは眉尻をピクリと動かした。


「そぉの通りよ!!アナタにアタシの素晴らしいハンマー捌きを見せてやるわ!!


さぁ!何してるの!!出発するわよ!!!」


元気なのかバカなのか…いやバカなんだな。


〜〜〜〜〜


村から出て1時間ほど歩き、岩場のゴツゴツした地帯に出た。


「ブロックゴート」についてユズさんに聞いたが、

思った通りにヤギだった。


ただ、ブロックと言われる所以もやはりあるわけで…。


「取り敢えずそこらへんの岩っぽい物でも潰してみましょう!」


そう言うと、サラスティーナはそのご自慢のハンマーを振り上げ、手近な岩に盛大に振り下ろした。


ハンマーが岩を砕く強烈な破砕音がすると同時に、明らかに何かの鳴き声らしきものも聞こえた。


『ヴメェェェェアァアアア!!!』


砕け散る岩の隙間から垣間見えていたのは、灰色の毛をしたヤギ…に似ている生き物だった。


そう、このブロックゴート。

本体はヤギ的な見た目なのだが、厄介なのが「岩に擬態」する事だ。

分泌する体液が岩の様な見た目と硬さになるのだとか。

それは年輪のように大きくなっていくらしく、

長く生きているほど、大きな岩のような見た目、かつ動かない。

動けはするが、自重のせいでかなりの鈍足になる。

形状としては、ドーム状の岩を被った様になるとか。


サラスティーナの攻撃で表面の岩部分が砕け、生身の部分が垣間見えるブロックゴートに対して俺はレンタルした剣を突き立てる。


さすがに魔獣と言えど、生き物に刃を刺し込むのは何とも言えない気持ち悪さがあるが、

さすがにこの状況、そんな事は言っていられない上に、これからこんな仕事をしていくんだ。やるしかない。


「アナタもなかなかやるじゃない!少しは見直してあげてもいいわよ!」


サラスティーナがなんか言ってやがる…。


「そもそも、表面に岩の鎧を着てるんだから、アンタのハンマーで一撃で仕留めるのは難しいと思うぞ」


「だ、だったらぁぁぁあああ!!!!」


俺の言葉にムカついたのか、先ほどよりも盛大に振りかぶったハンマーを、

同じく先ほどよりも勢いよく手近の岩に振り下ろした。


岩は凄まじい音を立てて弾け飛んだが、それはただの岩だった。


「ハズレじゃねぇか」


「うっさいわね!!」


ブロックゴートか…見た目じゃさすがに分かんないな。

ただ、完全に全身を岩で包まれているから相手の視界はゼロであり、

やはりしらみ潰しに岩を破壊するしかないのかなぁ…。


取り敢えず、俺は暫くサラスティーナに片っ端から岩を破壊する様に言った。


結果、

破壊した16個の岩のうち、ブロックゴートは4頭だった。

さすがに効率が悪い。


「おい、依頼だと「大量発生したブロックゴートの討伐」で、達成認定は15頭以上の討伐だよな?」


「そうだったわね」


「大量発生っていう割に少ねぇか?」


「たしかに…」


サラスティーナもこの違和感に気付いたらしい。

ユズさんの話だと、ブロックゴートは長い年月をかけて岩と相違ない見た目になるとの事だった。

だとしたら、大量発生したって言うくらいだから、

若いブロックゴートが増えてるんじゃないのか…?


「おい、ブロックゴートの主食ってなんだ?」


「え?なんで?」


きょとんとしてやがる。


「多分大量発生してるのは若いブロックゴートだ。

それに大量って言われてるって事は「群れ」か何かが目撃されたんじゃないか?


だとしたら、餌場に固まってるのがセオリーだと思うんだが?」


「なるほど。

だとすると、成熟したブロックゴートの主食は足元の苔や藻とかだったわね…。


若い、動けるうちは…たしか普通に草を食べるんじゃなかったかしら?」


自分で言って自分でハッとしやがった。

こいつ頭いいのか悪いのか微妙に分かんねぇな…。


という事で、満場一致で俺とサラスティーナは近場の草原的なところを目指した。


そして予想は的中した。


ざっと数えても20頭以上のブロックゴートが草を食んでいる。


「いっくわよぉぉおおお!!!」


やっぱサラスティーナはバカなんだな。

ブロックゴートと知るや否や、即座に飛び出して近くの標的から一気に3頭の頭を潰していった。


やたらと血気盛んにブロックゴートを潰していくサラスティーナを眺めつつ、

俺は彼女が倒したブロックゴートの耳を切り落とし、皮の袋に入れていく。


何頭討伐したのかはコレで確認すると言った感じだ。


初回の討伐依頼は結構簡単に終わるな。


「ちょちょちょっとぉおぉおおお!!!ナバリぃぃぃ!!!!」


「なんだよ急…に…」


ブロックゴートを嬉々として倒していたサラスティーナが、半泣きで走ってきた。

その後ろには、大型犬くらいの大きさの…蜘蛛。


「なんだそいつぁぁぁああああ!!!てかこっち来んな!!!」


「な、なんか既に倒れてるブロックゴートがいたんだけど、その血を吸ってたのよコイツぅう!!」


吸血する蜘蛛だと!?

なにそれ!!??


サラスティーナがこちらに向かって走ってくるため、俺もつられて走り出す。


「おい!バカ!!なんだよあの蜘蛛!!」


「多分血を吸ってたから「ヴラドスパイダー」よ!」


「どーすんだよどう見たってお前に釣られてるだろアレ!!」


そう。

サラスティーナはブロックゴートを何匹も倒していた故に、その返り血で血みどろだった。

吸血蜘蛛からしたら、餌が歩いてるも同然だろ。


「くっそ!なんかねぇのか!!マキビシとか何か足止め出来そうなもの!!!」


「マキビシってのが何か知らないけど…ユズさんに貰ったコーヒーの残りならあるわよ」


「使えねえなホントにお前ぇぇぇ!!!・・・いや、待て、でかしたぞ!!!!そのコーヒーかせ!!」


「今コーヒーなんて飲んでる場合!!???」


「飲まねえよ!!!」


怪訝な顔をしながらもコーヒーが入ったボトルを取り出したサラスティーナから、ボトルを受け取り、背後ギリギリまで迫ってきていた蜘蛛を睨みつけた。


「飲ませるんだよぉぉ!!!」


そしてボトルの蓋を開け、勢いよく蜘蛛の顔面に向けて投げつけた。

溢れたコーヒーが蜘蛛の顔面にかかり、


蜘蛛は10秒くらいしてヨロヨロと足を止め、その場に丸くなった。


「はぁ…はぁ…なんだってんだよもう…」


蜘蛛はコーヒーなどに含まれるカフェインによって酔っ払った様になるって、昔テレビかなんかで言ってたの…覚えててよかった。


あとユズさん、グッジョブ。


足をピクピクさせているあたり、やはり死んではいないらしい。

ふと見ると、蜘蛛の腹と胸の間にタグがぶら下がっていた。



【タマ】



「お前かぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ