致命的な欠点を発見
「それじゃあ早速討伐に行く手続きをして来るから、アナタはそこで指でも咥えて待ってなさい!!」
微妙に言葉遣いがおかしいぞコイツ…。
無事にパーティーを組んだ俺とサラスティーナは、
「大量発生しているブロックゴートの駆除」と言う魔獣討伐依頼を受ける事にした。
正直「ブロックゴート」とやらがなんなのか一切知らないが、ゴートなんだから多分ヤギだろう。
依頼書を手に意気揚々と窓口に行くサラスティーナを見つつ、無意識に溜め息が出た。
「ま、気にすんなよ新入り。
あのチビはここじゃ有名な「アホ」だからな」
何歳か歳上であろう、背中に弓を背負った男が、気さくに声をかけてきた。
てか、やっぱ「アホ」で通ってるのか…。
「ま、適当に付き合って、できるだけすぐにマトモなパーティーに移動するのをオススメするぜ。
それじゃあな!」
男はそう言うと、掲示板で依頼を見ていた仲間らしき別の男に話しかけていた。
マトモなパーティー、ねぇ。
「手続きが終わったわ!!」
そう言いながらサラスティーナは手のひらサイズの羅針盤らしき物を手渡してきた。
「なんだこれ?」
「ほんっとに何も知らないのね、アホ!」
こいつにアホって言われると、マジでムカつく…。
「コレは依頼を受けた際に渡される「ギルドコンパス」よ。
依頼先までの道案内になるのと、
依頼遂行中である証になるの」
「なるほど…」
サラスティーナからコンパスの1つを受け取りポケットに入れた。
「それで、アナタは装備はレンタルしないの?」
そうだった。
さすがに「魔獣」と呼ばれる存在に学生服じゃ意味無いな。
俺は窓口まで行き装備のレンタルを申し込んだ。
〜〜〜
「ま、こんなものかな…」
取り敢えず上半身…主に胸部と背中を守るアーマーと、脛当て、籠手を装備した。
武器はオーソドックスで使いやすそうな、刃渡70cmくらいの両手剣。
それを腰にベルトで下げる感じになった。
やっぱ、アーマーとか武器はカッコいいな。
さすがにテンションが上がってくる!
部活には入っていなかったが、
かと言って「もやしっ子」と言うわけでも無いので、
アーマーや剣の重さにへばることは無い。
むしろ心地よい重さであり、現状の装備でもある程度の激しい運動は問題無い感じだ。
「それじゃあナバリ・ヤクモ!!
アナタにアタシの実力を見せつける為!いざ行かん!!ブロックゴートを蹂躙しに!!」
「いや、言い方選べよ…」
サラスティーナは、どう見ても自分よりも重そうなハンマーを片手で軽々と持ち、肩に掛けつつ足取り軽やかにギルドの出口に向かって行った。
それについて行く俺に対して、ギルド内の各所からは、
「アホの子をよろしくな!」「頑張れよ!」「新入りだけでも帰ってこいよ!」
などと言う、激励なのかなんなのか一切の分からない声が飛んできていた。
すべてに返事は出来ないので、取り敢えず苦笑いしつつ会釈しておいた。
ギルドを出て俺がターミナルサークルの前に向かおうとすると、サラスティーナが止めに来た。
「ちょ、ちょっと!!何してるのよ!」
「いや何って、これで近くの町とかあり、まで行かないのかよ?」
「そ、そんなもの使うわけ無いじゃ無いの!!!!」
「いやいやいや!じゃ何で行くんだよ?!」
「…徒歩」
「アホか!!魔法陣使うに決まってるだろ!!」
「徒歩がいいのよぉお!!!」
「体力バカに付き合えるか!!」
サラスティーナの腕を掴み、俺は魔法陣の上に立つ。
「行きたいなら1人で行って待ってなさいよぉ!!」
「何時間後に到着するつもりだ!!」
「…3日くらい」
「72時間も待てるかぁ!!!!」
サラスティーナがよろめいて魔法陣に足を踏み込んだ瞬間、俺は依頼書にあった町の名前を叫んだ。
「ポジション!アルドニア!!」
「ちょ、ちょっと!!!」
〜〜〜〜〜
ランスさんから聞いていたが、本当なんだな。
ターミナルサークルの基本的なルールとして、
使用者が触れている物も一緒に転移することが出来るというもの。
そのルールに例外はなく、手を握るなどしていれば人も含まれる。
その場合、どちらか1人が呪文を言えば転移は発動する上に、2人分の魔力から転移する距離分の魔力が消費される。
つまり、
本来1人100円の通行料を個別に払うところを、
手をつなぐなどしていれば、100円を2人で割り勘する事になる、といった具合だ。
到着した小さな農村「アルドニア」は、とても空気の澄んだ、清々しい町だった。
言い方は悪いかも知れないが、つまり田舎であり、
むしろそこが、現代日本のそこそこの都会から来た俺からすれば、心が休まる気がした。
だが・・・。
「ぜぇ…ぜぇ…はぁ…はぁ…」
「ゲホッ…うぇ…はぁ…おぇ…」
クッソみたいな疲労感…。
魔力割り勘じゃねぇのかよ…!!
歩いて3日かかるとか言ってたな…。
つったら距離はどれくらいだ?!
少なくとも、カナハからイロハギルドまでの転移の比じゃない疲労感だ。
1km以上全力疾走したみたいな…。
サラスティーナに至っては死にかけなんじゃねぇか…。
…待てよ。
コイツ、めちゃくちゃ魔法陣を拒否してたよな…。
「おい…サラスティーナ…はぁ…アンタまさか…俺以上に…魔力がねぇのか…?」
「おぇ…エホッ!…た、多分」
マジか!!!
どうりで!!!
「あのぉ…大丈夫ですか?」
魔法陣から現れた俺たちが余りに虫の息だったからか、心配した村の人が声をかけてきた。
「はぁ…はぁ…すみません…少し、休めるところを…ぜぇ…案内して…くれませんか?」
「それなら、私の家がすぐそこなので、そこで良ければ」
とても優しい村の娘さんに大感謝祭を開いてやりたい…。