転生は計画的にいこうよ?
「で、本当にここはどこなのさ…」
誰に言うでもなくつぶやく。
だだっ広い草原は、目に良さそうな煌びやかな浅葱色であり、正直な所「綺麗」以外にいい言葉が見つからない。
「強いて言うなら、ココはあの世までの途中じゃ」
突然背後から声をかけられ、素っ頓狂な声を上げながら身構えてしまった。
「だ、だれ…?」
「ワシは「世導菩薩」。お主の神社で祀られる菩薩じゃよ」
ウチの神社の本堂に祀られる菩薩。
それと全く同じ格好をした人が立っていた。
「ぼ、菩薩様…ってことは、やっぱ俺って死んだ?」
「そうじゃのう。
そちらの世界の肉体を捨てた、とも言えるかの?」
「それ死んでるから…」
「端的に言えばそうじゃの。
時にお主、名前は?」
「隠 八雲です」
「やはり隠か。
して、隠の末端よ。
お主、全く同じ人生を0からやり直すのと、
全く別の世界を1からやり直すの、
どちらが良い?」
不意な質問に思考が鈍る。
「というと?」
「つまりじゃ、
馴染みの家、馴染みの友、馴染みの世界でもう一度赤子からやり直し、今回の死を回避し、今後送るはずだった人生を迎えるのと、
馴染みの肉体、馴染みの思考、馴染みの知識を持ち、別の世界で全く新たな生活を始めるの、
どちらが良いと思う?」
噛み砕いた説明を自称菩薩様はつらつらと続けた。
「えっと…その…」
とは言えいろいろ聞きたいこともツッコミどころも豊富なこの状況で、満足な思考を行えるわけがないのである。
「だああぁ!もう!
物わかりの悪い小童じゃのお!
コンティニューの話をしておるのじゃ!!」
「いやコンティニューってなんだよ!?」
急に横文字使ってんじゃねぇよ菩薩様!!
「…ん?
お主何も聞いておらんのか?」
「…聞く?」
「そうじゃ。
隠神社の人間は、神社の創設からワシと契約しておる。
ワシが隠の血族が天寿を全う出来るように尽力する代わりに、
不慮の事故があり、寿命の前に死んでしまった場合、
転生ないし蘇生してやるとゆう取り決めじゃ。
隠神社が大きくなり、長く信仰されれば、
それだけワシも力を保てるからのぉ」
初耳だわ。
だが、よくよく考えてみれば、
じぃちゃんも、ひぃじぃちゃんも大往生だった。
ウチの家計で病死や事故死はあまり聞いたことがない。
「実を言うとな、お主の祖父は一度事故死しておる。
交通事故じゃ」
え?!
驚きは声として発せられるよりも、表情に出ていた。
「だが、彼奴は既に結婚していたし、子供が生まれることも分かっておったのでな。
それを分かっていたから、もう一度赤子からやり直しを選びおったよ。
どうしても子供の顔が見たいと言ってなぁ」
ようやく回り始めた思考は、今までの17年間を振り返り始めていた。
目の前の自称菩薩様は頼んでもいないのに、
「隠家の○○は実は一回死んでます」話を続けているが、
それは正直どうでもいい。
振り返り始めて数十秒くらいか、いや数分以上か?
俺は振り返った17年に特に未練がない事を再確認した。
特に部活に励んだわけでもない。
特に好きな人がいたわけでもない。
特に、特に、特に、特に…。
「赤ちゃんからまた同じ17年をやってくなんて、面倒過ぎる」
自称菩薩様は話を切り上げると、こちらに視線を向ける。
「ほぉ…では、別の世界に行くと言うのか?」
「だって、面白味がありそうじゃん?」
「・・・なるほどのぉ。
隠の末端よ。
異世界での新たな生活を選んだのは、「隠」でお主が始めてじゃよ」
菩薩様は菩薩とは思えない具合にニヤァっと笑みを浮かべた。
「では、お主は今までの人生で築いた周囲の繋がりを捨て、新たな世界で新たな繋がりを作るのだな?」
「まぁ「コンティニュー」って言うならそれくらいぶっ飛んでないと面白くないんじゃない?
それに…今までの人生。2回もやる程楽しくはなかったからな」
菩薩様は右手を掲げた。
「お主は面白さをすべてに優先するか。
なら、新たな世界も「面白味」のある世界を選んでやろう。
ちょっとしたサービスじゃで、あちらの世界の言語知識だけは後付けで授けてやろう。
それでは検討を祈るぞ」
「え!今すぐなの…!?」
俺が言い終わるよりも早く、菩薩様が右手をサッと下ろすと、
俺の意識はまたもやブラックアウトした。
ただ、先ほどのブラックアウトと違うのは変な夢を見た事くらいか。
それは俺が友人と遊び、
見知らぬ女子とデートしている風景。
次に、少し背の伸びた俺がまたも見知らぬ女性と歩く姿。
ふと気がつくと、その間に小さな男の子が現れる。
男の子は俺と女性の手を握ってとても楽しそうに笑顔を見せている。
これは…俺が迎えるはずだった…。
「未来…」
自分の呟きで目を覚ました。
なんとゆうか、釈然としない物を見ていた気がする。
どうやらまたもや俺は横たわっているようで、視線の先は先ほどとはかなり違う薄暗い灰色の空だった。
「で、2度目の「ここはどこ?」だよ」
俺は上体を起こそうとして腕に力を込めたが、その先に何かヌルッとするものがあったのかバランスを崩してしまった。
ベシャッとゆう心地がいいものではない音を立ててしまった俺は、ふと周囲を見回すのを躊躇った。
嗅ぎ慣れてはいない異臭とも呼べる匂いが辺りに漂っていたのだ。
左を見ると、そこには倒壊した建物「だったもの」があり、隙間からは煙や炎が出ている。
それこそたった今崩れたかのようだ。
そして、
手元には、瓦礫に潰れた人の足。
俺が触れたヌルッとした物はその足から流れる血だった。
「あ、ああぁあぁぁぁあああああ!!!!????」
言いようのない恐怖に駆られて叫び声をあげていた。
自制できない。
「おい!こっちから声がしたぞ!!」
「急げ!まだ生きてる人がいる!!」
少し離れたところから声がいくつか聞こえ、そちらに視線を向けた。
無意識に出ていた涙のせいでよく見えない。
「おい、少年!大丈夫か!」
「よく無事だったな!」
肩や手を握ってくる人たち。
直前に目撃したショッキングな映像がフラッシュバックするより早く、安心感が襲ってきたため、
俺は眠るように意識を手放した。