宴会とこの世界について
俺たちは迷宮遺跡の前にいた。
「ボルトリザードにスレイブドッグとマスターウルフ。
それに僕たちが戦ったのもアーミーグールの群れだった。
このダンジョンに生息している魔獣はそれなりに強いものばかりだし、一度ギルドに報告して上位か中位のギルドに対処してもらおうと思う」
そう提言したリカオンの言葉に全員賛成し、ダンジョンから出てきたわけだ。
取り敢えず戦果としては
ボルトリザード×1(イロハ組単独討伐)
スレイブドッグ×11
マスターウルフ×1
アーミーグール×14(ワカヨン組単独討伐)
スカルスパイダー×2(チリーヌ組単独討伐)
イーターマンドレイク×8(チリーヌ組単独討伐)
と言った具合らしい。
単独で討伐した魔獣の素材等はそれぞれが独占。
スレイブドッグに至っては3頭分は俺たちとリカオン達、5頭分はシュナ達と言う配分になった。
理由としては、シュナ達が討伐した「スカルスパイダー」と「イーターマンドレイク」はどこのダンジョンにも居るようなザコモンスターだからという事だ。
マスターウルフについては紆余曲折あったのだが、
マグを発見したのが俺たちであり、
そのマグがほぼ単独で倒した、
という事で、取り敢えず俺たちが素材を獲得する事となった。
「実際アレ見せられると何も言えないからね〜」
「ははは」と笑いつつシュナは腕を組む。
ちなみに問題のマグ…マグメール・フラインの処遇については、第一発見者たる俺たちの所属するイロハギルドの方で検討して貰うという事で落ち着いた。
〜〜〜
採石場からマルクスに着き、宿に戻る頃には既に日は沈んでいた。
そうなると…まぁ居酒屋兼宿屋に宿泊しているのだから…
「そぉれじゃあ!お疲れ様ぁぁあああ!」
シュナの掛け声に俺たち全員は乾杯した。
てゆうか、帰ってきたらすぐに宴会が始められるように、どうやら出発前に個室を予約していたらしい。
全く抜け目がない巨乳だ…。
「アタシのハンマー捌きはどんなもんよ!!素晴らしいでしょ!素晴らしかったわよね!!
素晴らしいと思ったならアタシに早くそのデミワインを注ぎなさい!」
デミワインとは、いわゆる酒のような物なのだが、アルコールは入っておらず、魔力の循環を活性化させる効能がある飲み物だ。
飲んでみたが、味は完全にジュースその物でありお酒特有のアルコール臭も無い。
確かに体温が少し上がったような感じはあるが。
「思ってないから注がない」
俺は本心をサラス伝えた。
「なんでよぉ!!犬っころ相手にも前線で戦ったのよぉ!!」
「アレは勝手に前に出ただけだろうが!そのせいで増援に殺られるかと思ったわ!」
「まぁまぁナバリっち!可愛い女の子がワインを注いでくれって言うんだからさぁ、注いであげなってぇ」
顔を若干赤くしたシュナが絡んできた。
そう。
このデミワイン。魔力の流れを活性化するのだが、その弊害として完全に酔っ払いと同様の症状が出る。
さっきからリカオンはローラを愛でているし、ローラさんは笑い上戸宜しく頭を撫でられながら爆笑、
シュナはいろんな人に絡むし、サクラさんは泣き上戸でアルジュさんに泣きついている。
ホントに宴会だ…それも割とグダグダな。
「あぁ…もぅ分かったよ。ほら」
俺は取り敢えずサラスのグラスにデミワインを注ぐ。
「・・・やっぱり」
「ん?」
「やっぱり巨乳が好きなんだぁ!!!!あらしの言う事は聞かないのに、巨乳タイツの言う事は聞くんだぁ!!」
サラスが怒ってるのか泣いてるのかわけわからん状態になっている。
「巨乳タイツ…シュナの事か?!」
アダ名特殊過ぎるだろ…。
そう言えばリカオンの事も「金髪ロリコン」って呼んでたな…。
的を得ていると言えば…得ているんだけど。
「どうせヤクモも巨乳がいいんでしょ!!」
「いや、そうゆうわけじゃ…」
「どうせあらしとか、あの紅茶ピンクみたいなまな板は死ねって思ってるんでしょ!!!」
突如使命されたサクラさんも、自分の胸を一瞥し、大号泣でアルジュさんに泣きついた。
「まぁぁぁなぁぁぁぁいぃぃたぁぁぁぁぁんんん!!!」
サクラさんもキャラ変わる感じか…。
アルジュさんも、相変わらず前髪で顔半分は見えないものの、困っているのは見て取れた。
すいませんウチのバカが…。
「まな板とは失礼だな!!僕からしたら胸なんてある方がギルティだぞ!!!」
突然大声出したと思ったら何言ってんだよ金髪ロリコン。
「あはははははは!!!リカオンがまたバカ言ってる!あははは!!!」
ローラさんも変わり様がすげぇな…。
全員が暴走し、完全などんちゃん騒ぎ。
肩身が狭い。
何故だか知らないが、俺はどんなにデミワインを飲んでも酔っ払う気配が一切来ない。
酒じゃ無いからか?
それとも極端に少ない魔力が…いやそれはサラスも同じか…。
部屋の端に座りデミワインを飲みつつ、自分より年上の人たちがバカやってる姿を眺めていたところ、
「ダンジョンより疲れる」
そう言いながらアルジュさんが隣に座ってきた。
「アルジュさんはまだ酔ってないんですか?」
「デミワインを飲んで無いからね」
なるほど。
「デミワインで魔力酔いしないのか?」
「あ、あはは。なんか酔わないんですよね。さっきからそれなりに飲んでるんですけど」
「珍しいね」
・・・会話がつづかねぇ。
「あぁ〜アルジュさんは…」
「呼び捨てでいいよ。そんなに歳も離れて無いだろうし」
「あ、じゃぁ・・・アルジュはマグの事、どう思う?」
アルジュの表情が見えない代わりに、前髪が軽く揺れた。
「アレはなんとも言えないかな。
前に「超古代文明の自律行動非生命体の研究について」ってのを読んだことが有るけど、それに関係してるのかと思ってる」
「自律行動…非生命体?」
「無機物で組み立てた、生命体と見分けが付かない人形。
超古代文明ではそんな物を作り上げる技術が有ったらしい」
ちなみにこの場にはマグは居ない。
宿に着いたと同時に「眠い」と言い出したので、寝室に置いてきた。
しかし…アルジュの言うことが本当なら、超古代文明とやらはロボットをつくっていたという事になる。
それがマグだったとして・・・「眠い」って・・・あはは。
「正直な話、ダンジョンや古代文明、強いてはこの大陸自体、未だに未解明の部分がほとんどなのだから、
わからないのも当然だ」
アルジュは手にしていたコップの中身を空にした。
「話は変わるんだが…俺、実は記憶喪失でさ、この大陸の事とか国の事とかまるっきり覚えてないんだよ。
まぁそういった理由でギルドに入ってるんだけどさ」
俺はここぞとばかりに「記憶喪失ネタ」を引っ張ってきた。
アルジュからこの世界の常識的な部分を聞き出す為である。
数秒訝しげな顔をしたアルジュだったが、ふと思い出した様に口を開いた。
「なるほど…魔獣王について質問してきたり、変なヤツだとは思っていたが合点がいった」
変なヤツ認定されてたのかよ…。
未だに盛大な宴が繰り広げられている中、
アルジュが淡々と、しかしとても分かりやすく説明してくれた話はこうだ。
俺たちのいるこの国「アーノルン王国」をはじめとする国々は、
「マグナリオ大陸」という大陸に存在し、そのほとんどが南方にかたまっている。
一部は、海岸からも見える程度しか離れていない島国だったりするらしい。
大陸の北方は、進むに連れて土地自体の隆起が激しい所か、
土地に含まれる特有の魔石の影響で方向感覚が分からなくなる森や、
単純に木が生い茂っており大型の魔獣が存在する原生林、
未だにマグマを吹き続ける活火山群、
地平線まで広がる広大な砂漠地帯、
底が見えない程に深い渓谷など、
これでもかと言うほどにボキャブラリーに富んだ大自然…いや、超自然が否応無しに脅威を見せつけてくるらしく、
未だに最北端まで行って帰ってきた者は居ない状況なのだという。
現在確認されている最北端は「地獄の口」とも呼ばれている大渓谷へと落ちる滝となっている。
その先は、雲まで届く超巨大な山脈が壁として横たわっている上に滝はその山から来ているのか、まるでカーテンの様にその谷底へと流れ落ちているのだとか。
渓谷から滝までの広い大地の溝は底が一切見えないため滝壺も見えず、故に「地獄の口」と呼ばれるらしい。
対して南側…つまり、海の向こうに着いてだが、
島国の向こう側は未知の領域であり、時折巨大な海洋性の魔獣が沿岸にも現れる事から、完全に海洋型魔獣の支配下にあり「制海権」なんてものはまず無いと考えて良いようだ。
「ある意味「箱庭」なわけか」
「…面白い例え方だが、的を得ている。
何せこの世界は7〜8割は「未知」で片付けられている。
見えない壁に囲まれた「箱庭」に例えて間違っていない」
「てかその「地獄の口」?の向こうに行こうとしたり、南から船を出したヤツは?」
「居たには居た…としか。文献に残る程度で達成した…いや、達成して帰ってきた者が居ない。
海や滝を渡れたとしても帰ってきていないのだから分からないと言う事だ」
「達成出来たら英雄か勇者だな…」
「まぁ実際のところ、ギルドで「勇者」と呼ばれる人間が挑戦しているんだけどな」
「・・・勇者って居るのか?」
「居るよ?
まぁ指折り数える程度だけど。
少なくともチリーヌやワカヨン、イロハには居ない。
「勇者」は上級職の上に位置しているから」
上級職?
・・・ジョブ的なものがあったのか。
「んじゃ、その職業に着いて教えてくれないか?」
「良いけれど…そろそろ、みんなをどうにかしないと」
「・・・あ」
俺たちが話し込んでいるうちに、全員盛大な寝息…もといイビキをかいて眠ってしまっていた。