無表情は元気です
「こっちは特別な物は何も無かったよ。ただ、大型のモンスターが居たから討伐はしておいたよ」
「ウチらんとこは、そんなに強いモンスターは居なかったけど罠ばっかりだったねぇ。
一応解除しておいたけど、途中から瓦礫に埋もれてて3人じゃどうしようも無かったよ」
「えっと…地下への階段はありましたけど…2人で行くのは危険と思って下までは見てないです…。
あとボルトリザードが居ました…。
あと、この人が居ました…」
「やっほー。」
集合の約束をしていた分かれ道前の少し開けた所。
俺、リカオンさん、シュナさんで成果の報告をしあった。
他のメンバーはそれぞれ好きに休んでおり、
サラスは律儀にも、改めてサクラさんから紅茶について聞き直していた。
そして、俺の隣には…通路の途中に倒れていた謎のツギハギ女性=名称不明なので、仮に今は「マグ」と呼んでいる。あのボロボロの紙の最初は「マグ」と書かれているらしいからな。
「・・・えっと」
リカオンさんは言葉を選びに頭を使いすぎて、かなり表情が難しいものになっている。
まぁそうだよなぁ…。
ボルトリザードを「マグ」が倒した後、
取り敢えず、サラスのハンマーを取りに行きがてら通路の奥まで進んでみたのだが、
アルジュさんの占い通り、確かに下りの階段が伸びていた。
ただ、「魔感玉」の反応が結構なものだったのでその先までは探索していない。
さて、そうなると困るのは「マグ」の処遇だ。
その場に放置なんて出来るわけもないわけで…取り敢えず「なるようになれ」精神で連れてきたわけだが…。
「ねぇナバリっち。さすがに説明不足が過ぎると思うんだけど。
てゆーか、ナバリっち達が2人から3人に増えて戻ってきた時はかなり驚いたんですけど」
「そう言われても…正直俺たちも良くわかってないんですよ?
通路の途中に倒れてたんですけど、ボルトリザードの電撃を受けたら動き出したんですよ」
電撃を受けて動き出した。
それ以外に説明のしようがない。
ただ、1つ言えるとしたら…俺の、あくまで予想なのだが彼女=「マグ」は恐らく「ロボット」的な何かなんだろう。
少なくとも、電気で動く何かだ。
「ボルトリザードの…電撃を?」
リカオンさんの顔が更に難しいものに…いや、もはや考えが追いつかず引きつった笑みになりかけている。
「ボルトリザードは「雷産蜥蜴」とも呼ばれるそれなりに危険なモンスターだよ?
その電気鞭は自然の雷の6分の1、尻尾からの直接放電に至っては3分の1以上の威力があると言われているんだよ?
それを受けて…こんなに元気って」
「元気です」
無表情のまま、「マグ」は返答する。
はぁ…これは埒があかない感じのやつか…。
ふと、ここで俺は「マグ」が持っていた紙のことを思い出した。
さっきから預かったままだった紙を改めて2人に差し出す。
「そう言えば、コイツがこれを持ってたんだ」
「ん?」
「古代語…?いや、それよりも古いわね?」
「シュナさん、これ読めるんですか?」
シュナさんに紙を渡すも、彼女もやはりかすれて読みづらくなった昔の文字を解読するのは難しい様で、
かなり眉間にシワがよっている。
「マグ…メイル?もしくは…マグメールかな?」
お!読めるのか!?
「フラ…イ…ン?んんんん〜…ちょっと紙が古過ぎるわよ」
ですよね〜。
「でも、多分名前よね?
マグメール・フラインってとこかしら?」
「それじゃ、アンタの事はマグメールって呼ぶけど、良いか?」
「先ほどからの「マグ」で構わない」
「そっすか…」
ほんと、無表情ってのが困る。
少しくらい感情を出して貰っても良いんだけどなぁ…。
まぁ俺の見立てだとマグは「ロボット」的な何かだし…感情を出せるほど精巧には出来ていないのか?
精巧に出来てないって言っても…見た目じゃ判断は出来ないんだが…。
「まぁ彼女の事は後でギルドで処遇を決めよう。
恐らく僕たちでは手に余るだろうから。
さて。
問題はナバリ君達が調べてくれた通路の向こうだ。
地下への階段は確認出来ているとの事だから…取り敢えず全員で地下に行ってみよう。
それでも危険と判断したらギルドに報告し、改めて編成を考えて再調査してもらおう」
リカオンさんの提案に俺は賛成した。
シュナさんも軽いノリで「オッケー」と言っており…まぁこの人はいつでも軽いんだな、と思った。
〜〜〜
改めてリカオンさんが全員に行動方針を伝えた。
俺とシュナさんはリカオンさんの両サイドに座ってその説明を聞いていた。
説明が終わった後、リカオンさんが別途の要件をつたえた。
「それと、今後このダンジョン内での行動方針は僕、シュナさん、ナバリ君の3人の話し合いで決定していこうと思うんだけど、どうだろう?」
「ちょっと!!なんでこのアタシじゃなくてヤクモなのよ!!
このパーティーはアタシがリーダーなのよ!!」
やはり内のハンマー女子が異議を唱えた…。
てか、お前がリーダーとか初めて聞いたわ!
それ以前に対等な立場を約束しただろうが!!
「バカか!戦闘中に唯一の武器を手放すヤツの言う事が聞けるか!!」
「だってアレしか方法が無かったじゃないの!!」
「いやお前考えるの辞めてただろうが!!」
「うぐ…」
反論出来ないのかよ…。
そのやり取りを苦笑いで見つつ、リカオンさんは続けた。
「それじゃぁそういう事で。
別に独断で判断するわけではないので、みんなからはどんどんいろんな提案を出して欲しいと思う」
かくして俺たち一行は地下への階段へ歩みを進めた。




