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無表情の神速

シュナさんから分けてもらった「微光石」によって、淡い光が通路に灯っている。


本当に長い間人が立ち入っていないという事を、ジメッとした空気やカビ臭さ、足元の土やホコリで体感する。


「ねぇ…なんでこんな所に来ないといけないのよ。

てか、なんでこんな所に来たのよアタシは!」


相変わらず…お化け屋敷耐性ゼロのサラスは、ずっとハンマーを構えて、軽やかさなど微塵も感じない足取りで一歩ずつ進んでいた。


「その疑問の答えは単純だ。金に困ってるからだ」


「他にもクエスト依頼が有ったのになんでよりによってダンジョンなのよ!」


「コレが1番手頃だったんだよ!

俺もお前も魔法陣がロクに使えないからな!!」


自分で言ってても悲しくなるわ…。


俺はイライラを抑えつつ、アルジュさんに貸してもらったある魔道具を確認した。


それは「魔感玉(エネミーマーカー)」と言い、ある程度先の魔力を感知する、野球ボールくらいの白い水晶で、

感知した魔力によって光の粒が中に現れ、

それぞれ魔獣の物だと赤く、人間の物だと緑に、魔法や魔道具の物だと青く発光する。


現在、水晶の中心には緑の光が2つある。

つまり、俺とサラスだ。


通路を進み始めて10分程経った時、水晶に俺たちと別の光が灯った。


「・・・はぁ?」


思わず声を上げてしまった。

灯った光の粒は「紫」に近い「黒」の様な…正直何とも言えない色だった。


「・・・この仕様は聞いてないぞアルジュさん」


俺は静かに腰の剣を抜いた。


「サラス、もしかしたら戦闘になるぞ」


「戦闘?!ここで?!」


「じゃ何処でやるんだよ!」


「ダンジョンの外とか…」


「お前から斬り倒してやろうか…」


先程よりも慎重な足取りになる。

水晶の黒っぽい光が徐々に近づいてくる。


俺は「微光石」の1つを通路の向こうに投げた。

緩く放物線を描きながら、暗い通路を石は照らしだす。


石は数秒飛んだ後、地面に落ちコロコロと転がると、何かにぶつかって止まった。


「・・・なんだアレ?」


「な、なな、なによ?」


投げた「微光石」の光が淡いため、全体像がつかめないが、

何かが通路の真ん中に「ある」。


粉末の微光石で足元を照らしつつ、投げた石に近づいていく。


水晶の光を確認すると、通路の真ん中にある何かが、黒い光の元らしい。


「・・・え?」


俺はその「何か」を確認し、言葉が出なかった。


「ど、どうしたのよヤクモ!」


「えっと…これは…」


「ちょっと!怖いんだから早くしてよ!!!」


あ、今アイツ怖いの認めやがった。

いや、そんな事より・・・なんで・・・こんな場所に、


人が倒れてるんだ?


〜〜〜〜〜


ある程度辺りに光を灯して、通路の真ん中に倒れている人の全貌が明らかになった。


「なんで、こんな所に寝てるのよ?」


「知らねぇよ…てか、本当に人か?

入り口が塞がって500年以上経ってるんだぞ?」


服は劣化し、茶色くボロボロで、なんと言うか…ただ布を身体に巻いた、みたいな感じだ。

うつ伏せに倒れており、顔は長い髪の毛で隠れているが…それ以前に、垣間見えている腕や足は、ホコリこそ積もっているものの、生きた人間のようだった。


実際どうなるのかは分からないが、

500年以上入り口が塞がっていたんだ。

その前に迷い込んでいたとしても、白骨化…少なくともミイラ化してるもんじゃないのか?


「てか、この人のコレ…なに?」


サラスが、横たわる人を指差す。

その両肩甲骨辺りからそれぞれ30cmくらいのアンテナの様な物が伸びて…というか、生えていた。


何故アンテナと表現したかと言うと、まさにそうだからだ。

つまり、ガラケーの中でも古い物やラジオなどに付いているスコスコと伸縮するあのアンテナと、かなり似た見た目の物が伸びているのだ。


まぁだからと言って、このアンテナもどきに何の理由が有るのかは不明なままだが…。


混乱しつつ、「魔感玉」を見る。

…やっぱり黒い光の粒はコイツの物だ。


てことは、まだ魔力を持ってる…または魔力を発しているわけか。


その時、水晶に赤い光が現れた。


「な!?


サラス、魔獣が来るぞ!!」


通路の奥に目を向ける。

確かに少し先に光る目の様なものが見える。


こちらの動きを見ているのか…。

魔獣からしたら、久々の人間=エサなわけだからな。

確実に仕留めたいだろうよ。


「チチチチチチ」


魔獣は何とも形容し難い音を発している。

鳴き声か?


くそ!

さすがに暗闇に紛れてたらわかんねぇな。


俺は再び「微光石」を手にした。


「おい、サラス。

これを投げて相手の出方を見るぞ」


「わかったわよ!ったく!!

なんでこんな所で戦闘なんか!」


素直に従ってくれるが、文句はキチッと言う。

相変わらずだな…。


俺は暗闇の双眸に向けて「微光石」を投げた。

魔獣は飛んできた石を避けたものの、その姿を一瞬見せてくれた。


それは、大人くらいの大きさの恐竜の様な魔獣だった。


「おい、アイツはなんだ?!」


「一瞬だったから分かんないわよ!


…んんっと、でも多分見た感じだと「アーミーリザード」か何かだと思うけど?」


「アーミー…軍隊か!?」


「そうね、アーミーリザードならそれなりの群れで行動してるはずよ…?」


てことは、今から増えるかも知れないって事か…!?

だとしたら、先にこいつを潰すべきか。

仲間を呼ばれても厄介だしな。


「よし、サラス攻め込むぞ!」


「ああ、もう!!!やってやるわ!!」


俺とサラスは一気に走り出した。

距離にして10m超。


「チチチチチチチチ…ケェエエエ!!!!」


リザードが鳴き声を上げた。

まずい、仲間を呼んだか!?


一瞬リザード自信が光った様に見えたと思った瞬間、サラスに頭を無理やり下げられた。

あまりに急な事だったため、受身も取れず、額を地面に強打した。


「何しやがる!!」

と言おうと思った瞬間、頭上を何かがかすめた。


ガガガガ!!


すぐ横の壁を削る様な異様な音がした。


「な、なんだよ!?」


「ヤクモ、引くわよ!アレはアーミーリザードじゃない!


ボルトリザードよ!!」


「なんだよそれ!!」


アーミー…いや、ボルトリザードとやらは、

俺が先程投げつけた微光石の近くに立っており、微妙に姿が見て取れた。


全体的に黄色味がかった体色で、二本足で立っているが、人間的な二足歩行ではなく、さながら小型の恐竜の様だ。


頭には鞭の様なトサカが伸びているのが分かるが、アレは武器なのか?


そして、尻尾の先端が蛇腹になっており、

ガラガラヘビよろしく、その尻尾を小刻みに動かし「チチチチチチ」と音を立てていた。


「ボルトリザードってなんだ?!」


「ボルトリザードはとにかくヤバイのよ!

アーミーリザードよりヤバイのよ!!」


「具体的に言え!!」


「ケェエエエ!!!!」


またボルトリザードが咆哮すると、頭の鞭の様なトサカを、尻尾の蛇腹部分で勢いよく擦るような動きをした。


その瞬間、小さく静電気の様なものが発生しているのが見て取れた。

さっき体が光った様に見えたのはそれでか…!


擦られたトサカは電気を帯びているのか?


ボルトリザードがトサカを振るった。

そうなると、トサカは見た目通りただの凶悪な鞭となるのは、予想できた。


トサカ自体は俺たちには届いていない。


でも、

トサカが帯びていた電気が、そのままの軌道で飛んでくるのは反則だと思うんだけど!?


俺とサラスは再び全力でその電気を避けた。


俺たちの傍をかすめて通過した電気の鞭は床を少し削りつつ霧散した。


一応射程はそこまで長くないらしい。


だけど…俺は両手剣。サラスはハンマー。

あのトカゲを倒すにはどちらにせよ、電気の射程に入らないと有効打が打てない。


「おい、アイツがヤバイのはわかった。

後はアイツをどうするかだ!」


「どうするも何も、あとトサカか尻尾をどうにかしないとダメなんじゃないの!?」


「どうにかって!?」


「千切るとか!」


「どうやってだよ!!

てか、俺は両手剣なんだから、どちらかと言えば切り落すわ!」


ボルトリザードはこちらの様子を伺う様に、また尻尾の先端を「チチチチチ」と鳴らしている。


こっちには、遠距離攻撃の手段がない…さてどうするか。


「ああ!もう!考えるのやめた!!」


サラスが頭を掻きむしりながら大声を上げた。


「こんにゃろー!!!邪魔なのよ!!」


「ちょ!まさか!」


「そぉりゃぁああああ!!!」


やりやがった…。

このハンマー馬鹿は、自分のハンマーをボルトリザードに投げやがった。


かなりのスピードでハンマーは一直線に飛んだ。

飛んで行ったが、

ボルトリザードは軽く横にスライドして避けた。


虚しくハンマーが空を切る音が離れていき、

結構遠くの方で破砕音が聞こえた…。


おい、アレ取りに行けるのか…。


「晴れて本当にどうしようもねぇじゃねぇかよこの馬鹿!!!!」


「ば、馬鹿とは失礼ね!!!」


「いいや!!今のは馬鹿だ!!考え無しにも程があるぞ!!!!」


「く、うぅ…」


本人も自覚があるのか、押し黙ってしまった。


クソゥ…ホントにヤバイぞ!?


見た感じだと、あの尻尾で電気を作ってるよな。

作った電気をトサカにまとわせて放ってるから、まず間違いないだろう。


「ケェエエエ!!」


再びボルトリザードがトサカに電気をまとわせた。


「いぃ!?」


コレを好機とばかりに、トカゲの野郎向こうから突っ込んできやがった!!

狙いは・・・武器のないサラスか!!


コイツ、どんだけ狡猾なんだよ!?


「この!!」


俺は両手剣を捨てて、サラスを押し倒した。

ギリギリの所で電気の鞭は回避できたが、ボルトリザード本体がすぐそこまで迫っていた。

くそ!

ここで終わりか!!


「ケェエエエ!!!!」


トカゲの表情が嫌という程よく分かる…。

最後に見るのがコイツのこの狡猾な表情だなんて、最悪だな。

考えてみれば、階段から落ちて初めて死んだ時は、なんとも言えない男子の表情だったし。


「ケェエ!ケェエエエ!!・・・ケケ!?」


残り1〜2mの所で、ボルトリザードの動きが止まった。

その目は俺たちではない方向を見ている。


トカゲの視線の先を、俺も見てみる。


驚きと言うか、混乱と言うか…脳がフリーズしてるのか?

通路の真ん中に人が立っていた。


「ちょ…アレって…」


あ、忘れてた。

俺の下に横たわるサラスも、通路に突如現れた人間に驚いている様だった。


…ん?

いや、待て。


突如現れた?

違うな。

さっきから居た!!


通路に寝ていた人間が、何を理由にか立ち上がって居たのだ。


うつ伏せだったので分からなかったが、どうやら女性だ。


長い髪の間から緑色の右目が垣間見える。

だが、焦点が合っていないのか、虚空を見つめてフラフラとしている。


「チチチチチチチチ…」


ボルトリザードは少し距離を取り、尻尾に電気を溜め始めた。


「ケェエエエ!!!!」


「おい!逃げろ!!」


俺の言葉より早く、ボルトリザードから放たれた電気の鞭は一直線に、通路に立つ謎の女性に向かっていった。


しかし、

飛んで行った電気は、女性に当たる直前に分裂し、


彼女の双肩から伸びるアンテナに吸収された。

それと、同時に女性の体が「ビクン!」と脈打つ。

例えるなら、医療ドラマで見た事がある、心停止した人が電気ショックを受けた様な…。


「ア…アア…」


女性の目が、今度はまっすぐとボルトリザードに向けられていた。

女性は引きずる様に、一歩、また一歩と、ボルトリザードに近づく。

さながらホラー映画のワンシーンみたいだ。


対するトカゲは、

相当自分の電気に自信が有ったのか、尻尾の振動が先程とは比べ物にならない程激しくなっており、

「グルルルルルル」と怒っているかの様な表情と声を発している。


俺はサラスを引きずる様に移動し、できるだけ通路の端に逃げた。


「ちょっと!なんで離れるのよ!」


「アレはどう見てもヤバイ一撃が来るだろ!」


「ヤバイって…具体的に言いなさいよ!!」


「お前も同じ様な説明してただろうが!!!」


ボルトリザードの尻尾が、バチバチとかなり大量の電気を生み出す音を発している。

一撃で仕留めるつもりか?


女性は、鈍足極まりない。

秒速何センチメートルだ?

だが、着実にボルトリザードに近付いていた。


そしてその距離が、おそらくボルトリザードの射程に入ったのだろう。


先程までのトサカの鞭を使った変則的な一撃ではなく、

尻尾を直接振るって、ボルトリザードは電撃を放った。

もはや小型の雷だ。


無論、雷のスピードを女性が避けられるはずも無く、

見事なまでの直撃を受けていた。


トカゲの尻尾からは音が消えていた。


女性の方は俯いており、歩みは止まっている。

着ている服や体の各所から煙が上がっている。


しばしの沈黙。

ボルトリザードも様子をうかがっている様だった。


20秒程した時だった。


「おはようございます」


女性がかなり背筋よく直立したあと、挨拶とともにお辞儀をした。

それと同時に、両肩のアンテナがスコスコと音を立てて収納された。


女性は前髪を軽く掻き分けた。


その時初めて確認出来たのだが、

彼女の顔は、ちょうど目の下辺りに一直線に縫合痕があり、目の色も右が緑、左が薄いグレーとなっていた。


「ケェエエエ!!!!」


ボルトリザードは混乱しているのか、取り敢えずの虚勢なのか、鳴き声を女性に向けて発している。


女性の左目からパチパチっと電気が飛び始めた。

ただ、何かの攻撃の様には見えない。


「うるさい生き物デスネ」


刹那、

女性はボルトリザードの背後に立っていた。

俺もサラスも唖然とした。


遅れて凄まじい風が辺りに巻き起こり目も開けられないほど、土と埃が舞い上がった。


どんだけ早く動いたからこんなソニックブーム的な現象が起きるんだよ!!


なんとか、目が開けられる様になり、状況を確認する。


まず目に飛び込んできたのは、頭部のないボルトリザードだった。

肝心の頭は、本体の足元に転がっていた。


そして、その背後に立つ女性の左腕が、ボルトリザードの血で汚れていた。

なんなら、まだ血が滴っている。


「は、速過ぎじゃないかしら…?」


「全然見えなかった…」


しばらくして女性はゆっくりとこちらを向いた。


「・・・誰?」


それはこっちのセリフなんだが…あの一瞬の攻撃を目の当たりにした後だと、なんか気軽につっこめない…。


「俺は(なばり) 八雲(やくも)だ」


「アタシは…サラスティーナ・アプリコット」


サラスは、珍しく素直に名前だけ名乗った…。

こいつもヤバさを感じているのだろう。


「ナバリ・アプリコット?」


「合体してるじゃねぇか!」


しまった!

つい、つっこんでしまった!?


・・・あ、攻撃はしてこない。


「サラスバリーナ・アプリコックモ?」


「お前、わざとだろ」


「冗談よ」


先ほどから一切表情が動かない彼女の心境が、全然読めない…。


「ところで…ココは…変な遺跡?の中で合ってる?」


「あ、ああ。合ってる。


アンタ…名前は?」


「名前…」


彼女は虚空をしばらく見つめて、思い出した様に身体に巻きつく布を弄りだした。

一応服なのか?


その隙間から一枚のボロボロになっている紙を取り出した。

それを読み始めたのだが…


「ま、まぐ…ぐめー…める?めーる?ふ…ふらぁ…ふらん…いん?」


何を言ってるか全く分からない。


「・・・これ。」


結局諦めて紙を突き出してきた。

自分で読めってか…。


取り敢えず書かれている文字に目を通してみる…。


「てか、これ文字かよ…?」


こっちの世界の言葉を読める様になった状況なのだが…一切読めない。


「どれどれ?」


サラスが俺の横から紙を覗き込む。


「コレ…多分古代語ね?」


「読めるのか?」


「馬鹿じゃないの?読めるわけないじゃない、考えて物を言いなさいよ」


ガン!!!


「いったいじゃない!!!なんで無言で殴るのよ!!!」


ムカついたからに決まってるだろ。

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