お引っ越し①
千鶴と出会ってから一ヶ月経った。
……というか、千鶴とはあれ以来一度も会っていない。
だから、自分だけで小説のおおまかに思い出してみていた。
あ、でも、あらすじじゃないよ。忙しくて流し読みしていたから、分からないし。
『王女の秘密』という小説は、央城国の王女メリーザが主人公だった。メリーザが幼い頃に別々に育った双子の姉のリイミスと出会うところから始まって……。
リイミスは、物語の始めの方はすごく貧乏って雰囲気が駄々漏れで、テンションの差がとても激しい。……私とは大分違う。
その後は一度回想シーンになって……何かファンタジーな感じで、四つの城が空飛ぶんだっけなー。リイミスは飛ばない城にいたからその時に央城国に帰ってくるって話だったはず。……なんだそりゃ。
しばらく経って、リイミスとメリーザが成長して、メリーザが、リイミスは何か隠し事をしていることに気付く。リイミスはとても演技が下手で、何人も気付いている人がいるのにメリーザは気付かない。……どれだけリイミスが演技下手なのか、逆に見てみたい。
確か、リイミスの秘密は、父親がメリーザと兄の二人とは違うこと。リイミスの他にも、炎光国の第二王女キキと、どっかの女の子アニナもメリーザの異父姉妹。何か変な決まりがあって、ばれてはいけなくて……ややこしいよ、千鶴。
その後もリイミスは新たな隠し事してたり、どっかに誘拐されて消えたりしてたはずなんだけど……まずい、今は私がリイミスなのに分からない。
分からないからもっと考えようと思ってたんだけど……私は今まで家族と住んでいた舎校国というところから、明日、堂講国という所に引っ越す。だから準備をしなくてはならない。
……ただし、一人で引っ越す。
あれから二人との関係は、元には戻らなかった。前と同じようにしようとはしてくれているみたいなんだけど、やっぱり何となくギクシャクしてしまっている。
堂講国というところは全寮制の学校や……全寮制の幼稚園(!?)みたいなところだ。同い年では、お隣に住んでいる苗子って子と、近所に住んでいる多映って子を含む六人以外は全員舎校国に行くらしい。……ので、私を堂講国に行かせる理由は、気まずいからというだけではない。……はず。
舎校国や堂講国って、国という文字が名前に入ってはいるけど、どこかの校舎とか講堂とか会議室の一部を集めてそれぞれ一つの建物に改装したものを国と呼んでいるだけらしい。
隣り合う山の中腹辺りにある。橋が架かっているので、簡単に行き来できる。
……だけどね……、
「千鶴……あいつ、ネーミングセンス無さすぎ!それから子供が親と離れるの、早すぎ!あんた何考えてそんな風に決めたの!?あり得ない!ふざけんな!それから複雑すぎて思い出せん!あんた私のこと、また早死にさせるつもり!?」
千鶴のことがものすごぉーく気に入らない。千鶴にはあれ以来一度も会っていないので、直接本人に文句を言いたくても言えない。しかも、誰かに聞かれると頭のおかしい子扱いをされるに決まっているので、叫ぶ時は誰にも聞かれない場所に行かなければならない。……え?準備はどうしたのかって?勿論ちゃんとやってるよ!やってるけど、時々こうして叫ばずにはいられないんだよっ!
今日は湖の近くまで来た。でも湖に近付きすぎると誰かに聞かれてしまう。この湖には氷水国とかいうのが沈んでいて、魔法で住めるようにしていて、人が住んでいるらしい。……不満だ。
「せっかくお父さんとお母さんと仲良くしようと思ってたのに!確かに小説でもリイミスの過去とかそういうのに書いてあったからいつかこうなるって知ってはいたけど、こんなに早くからなんて聞いてないよっ!それから、湖に沈んだ国に、何で暮らせるわけ!?あんたの思考回路どうかしてるよ!」
はー、はー、はー……いっぱい叫んで、ちょっとだけだけどすっきりした。もうそろそろ帰って荷物の最終確認しようかな。……ん?だ、誰かいる……!今、靴が見えた!あの木の裏に消えたっ!