橋村恵那子
はじめまして。
よろしくお願いします。
「えっちゃん、今日の予定はおしまいだよ。」
「え、まだ夕方だよね?」
「うん。でも、明日は朝早くに出発して、向こうに帰ったらすぐ仕事入ってるよ。」
「分かった。」
「じゃあホテル行こう。もうチェックインできるはずだから。」
「瀬田は先に行ってて。私、コンビニ寄ってから行くから。」
「そっか。あ、その荷物、私が車に持っていくよ。」
「ありがと。じゃあ、また後で。」
「うん。また後で。」
私は橋村恵那子。職業は女優で、橋村エナという名前で活動している。
瀬田は中学時代の同級生で、マネージャー。仕事中は私のことを「エナさん」と呼ぶけれど、仕事が終わると、昔のあだ名で私を呼ぶ。
この日、私はドラマの撮影を大阪でしていた。
仕事はもう終わったので、私はのんびりと近くのコンビニに入って、飲み物を買って、外へ出た。
私が横断歩道を渡っていたとき、一台のトラックが目に入った。左へ曲がろうとしているのだと思っていたが、どうやら私がこのままここにいると轢かれてしまう方向へと向かっているようだった。
私がつい立ち止まっていると、向かいからやって来た、制服を着て松葉杖をついた少女がトラックと私を交互に見た。その後、その少女は松葉杖を放り出して私の手を引っ張って、引き返すようにして走り出した。
しかし、私達が向かっていた先の歩道から、一人の少女と、その少女を追いかけているらしきナイフを持った男がこちらへと走ってきていた。
私が慌てていると、先程の少女がまた私の手を引っ張って、横断歩道を外れて車道を走り始めた。
今度こそ逃げられると思ったが、進行方向からバイクが来て、わざわざ私達の方へと向きを変えてスピードを上げ始めた。それを見て、ようやく動揺したらしき少女がえっ、と言って立ち止まった。
ドラマや映画の撮影中でもないのに、何で私がこんな目に遭うのだかと思っていると、後ろの方から悲鳴とエンジン音が聞こえてきた。振り返ると、トラックまでも方向転換していて、あと数メートル先というところまで迫ってきているのが見えた。
私が恐怖のあまりに隣にいた少女にしがみついたところ、少女の方も私にしがみついてきた。
目を瞑った時のと同時に、体に大きな衝撃を受けて、私は意識を失った。