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CODEシリーズ

ANOTHER CODE 後編

作者: ひすいゆめ

後半から徐々にシリーズの味が濃くなっています。

楽しく読んで頂けると思います。

MDが出てくるところが時代背景が執筆した時代を思わせます。

                     古宗教のルーツ


 食後、全員はレストルームに集まり各々寛ぎ、今回の謎について話をしたり、他愛のない話を交わしたりしていた。全員が揃ったところで騒然とした空間荷静寂が訪れた。とりあえず、八幡が立ち上がり全員を取り仕切って皆に自己紹介を促した。


柏崎更紗・竟水舜・柏崎愛夢・先沼実生は説明の必要はないだろう。


 那賀健は30歳近いフリーのルポライター。結構依頼されたものは全て受けてまずまずの記事を出版社に提供している堅実家ではあるが、トイレの一件はともかく肝の据わっているところがある人物である。


 翡翠ひすいしょう。20代後半。彼は自己紹介の場では多くを語らなかった。見比の話では、『ある特殊な能力』を持ち、『人形に関する怪事件』に関わったことがあるらしい。それを知り合いから噂で聞き、何とか探し当てたそうだ。職、その他のステータス、全てが謎だが空手や喧嘩を非常に経験をして、格闘に長けていてるらしい。銀に染めた髪を立てて三白眼の一切人と関わらない孤立した存在であった。


 マーク・スチュワート。ルポライターを肩手間にある出版社で歴史人形学を専門に調べている。その真意は不明である。20代前半のいつもにこやかの温和な人物であるが、今回の件で何かを知っているようだがそれを黙っている。


 工藤魁。彼は全てが一切謎。彼自身も名前以外口にしなかった。ただ、見比の話では、霊感の強い高構生であり、少し前にあった神隠し事件に巻き込まれた時に謎の脱出を遂げたことが今回のメンバーに推薦した決め手だったらしい。


 今回、この部屋で仕切っている八幡高台は大学2年の少々弱気だが、好奇心旺盛で何かを考えたり迷ったりする前に、行動をする行き当たりばったりのタイプである。で、せっかちなところが時々失敗するのだ。


 見比も彼を選んだ理由はあるホームページのクイズ大会で1位になったからという理由だといっているが、不明である。女性群は彼が招かれざる客なのではと思っていた。


 人徳光明。彼は高校生で真言宗の寺の息子であった。霊感も人知を超えた能力もあり、数々の除霊を経験している。


 荷稲精大。高校3年で一切の事象に興味がなく虚無主義的なところがある。彼は人形について妙に執着があり、色々調べ回っていることはネット界では有名な話であるが、その理由を知る者は誰1人いなかった。


 華院春香は中国人とのハーフであり、小さい頃から日本語しか教えられない中で多くの親戚の異国語の交流があった為、また、小さい頃から怒られ誉められた記憶のない彼女は上辺、外見と内心とのギャップに心を迷わせていた結果、幼少の頃から人の心を読む力が備わっていた。それから人の心の温度、空気、雰囲気を感じることができるようになり、特に肉体、それも胸の中心に近い程強くその心を感じることができるのだ。

 それが有名になり、インターネットでよく当たる占いのサイトを管理者していた。その力が見込まれて招かれたのである。


 媛野菊理。いわゆる天然な少女ではあるが、非常に優しく男性によく誤解されることもしばしばなのである。幼稚であどけない、無邪気な女性である。


 方神沙耶香は先程の通り、大人びた、冷めた女性で依然物と意志の疎通を可能にしていた人物である。


 全員の話を一気に1回しか聞いてないので頭は混乱し、舜は今いち誰が誰だか頭の中を整理するので困惑していた。小説、漫画では1度名前やステータスを聞いて何故探偵役や皆が覚えられ、応用を利かせて考えることができるのか不思議だった。

 「単に俺が頭が悪いだけか…?」

 「そうよ」

 隣りで独り言に耳を傾けていた更紗はそう言って微笑んだ。

 「いいえ、所詮、小説や漫画は読者に解り易く読み易く分かり易いからなのよ。貴方は賢い方だと思うわ、私の勘は当たるのよ」

 気付くと舜が俯いて思案に暮れている隣りで、3人で旅行に来ていた女性の1人、媛野ひめの菊理くくりがけして美人の類ではないまでも愛嬌のある笑みを見せてそうフォローしてから、自己紹介をした。

 「見比さん、信用していいのかな。もしかしたら、この中にターゲットがいて、その人を裏の信仰の掟で殺す為に…。」

 荷稲が畏怖で全身を絞め付けられたようにそう言った。彼にしてはこの場所では懐疑的になってしまうのであろう。

 「そうすると、自分を味方に見せかける為に関係ない多くの俺達に秘密を伝えて殺そうと?謎を伝えても、知った者を消せば彼は死ななくてもいいし、そもそも謎を打ち明けて誘き寄せているのだから、秘密をバラすと殺される、ということさえ嘘かもしれないし」

 怪訝そうに八幡は額に手を当ててそう口走る。

 「全てが懐疑的で訳が分からないよ。裏信仰、隠れ里の住民は少数の犠牲を気にしない正義の味方を気取っているだけで、オカルト的なものは何もないのかもしれない」

 「もう1つ、地元でも忘れられてすでに知っている人は数少ない信仰で、それは50年前に呪われた儀式ということで封印された。詳しい内容を知りたくば丑寅の『土雲』の末裔を尋ねるといいってサイトに書かれていたのもどういう意味だか…」

 気分を変える為に那賀がそう言うと実生が話を始めた。

 「私の推測では、丑寅とは鬼門の方角、北東のこと。早稲田からだと考えて、弁当山やその山脈のことでしょう」

 「つまり、この辺りね」

 愛夢が厭な予感を感じつつもそう呟く。

 「で、『土雲』とは、土雲族のことじゃないかな。これは神道、仏教、道教、その他いろいろな信仰が合わさっている信仰なので、色々な知識を考慮した方がいでしょう」

 彼の話はさらに続く。

 「『土雲つちぐも八十建やそたける』という日本神話の1柱の神で、『日本書紀』では『土蜘蛛つちぐも八十梟帥やそたける』と記述します」

 テーブルにノートを出して漢字を綴る。

 「桓武天皇、つまり神倭かむやまと伊波礼毘古いわれひこのみことが東征のおりに出会った神の1柱で、忍坂おさかの大室、つまり、大和国やまとのくに磯城郡しきぐんを勢力下に置く土雲族、または土蜘蛛族の頭目なんです。

 『古事記』では『尾ある土雲八十建』とあり、『日本書紀』とともに考えると、土着民の身体的特徴や穴居習慣を雲に例えて悪く罵ったと思われるんだ」

 すると、マークはさも興味を引かれたように目を輝かせた。

 「その日本神話はともかく、その古の信仰の隠れ民がその『土雲族』と似た土着民族の生態からそう呼ばれていた可能性がありますね」


 そこで話が一区切りすると、方神が立ち上がり髪を手櫛ですいて1言残して去っていった。

 「せいぜい、誰も殺されないように注意した方がいいな。その信仰を調べるのも気をつけないといけないし」

 結局、それが契機で全員は解散した。各々の部屋に戻る中で舜の袖を引く更紗に躓きそうになった。

 「どうしたんだよ?」

 「怖いの」

 「同じ部屋にアム姐がいるだろう。あの人なら並大抵の男性でも敵わないって」

 「そうじゃなくて…。何か、色々あってさぁ」

 「俺も護ってやるから、泥舟に乗ったつもりで安心しろって」

 すると、少し彼女は微笑んだ。

 「本当に泥舟ね。でも、少しは期待しているから」

 いつもと違う自分を依存する更紗に照れながら舜は自分と更紗の部屋の前の廊下から見える窓の外の風景を見た。宿の外は豪雪が積もり閉じ込められるような不安が感じられた。そのうち、赤木蓮、桜が目を楽しませるようになるのだろう。今は綿帽子を被った木々が怪しげに見上げていた。すると、猫の鳴き声がして2人ともびくっとして動きを止めて警戒の糸を張った。

 薄暗い廊下の照明では奥から何が来るのかが判別困難であった。

 「このジャケットはあのカジュアルショップでお薦めの高い奴なんだから、汚さずに大事に持っていろよ」

 彼女は舜の後ろにしがみ付いて震えている。ジャケットが握り締められて皺になってしまっている。すると、見知らぬ青年が現れた。革のジャケットで腕には日本人形が納まっている。歳は18歳くらいだろうか、黄泉の者のように無表情の青白い顔を俯かせている。彼は突然飛び掛ってきた。

 「さっさと逃げろ」

 舜の怒号に更紗は我に返り逃げ駆けていった。だが、彼女は学校の近くで彼が右手を怪我して、しかもかなり重い荷物を担いできていたことを思い出した。しかも、喧嘩は得意な方じゃないはず。曲がり角で足を止めて引き返して舜を助けに走り出した。自分では何もできないかもしれないが。

 2人の部屋のドアの前には舜が凄まじいオーラを放って廊下の向こうを睨んでいた。駆け寄り腕を掴むと彼は厳しい表情から元に戻り、彼女を安心させるように微笑んで見せたがぎこちなさを隠すことができないでいた。

 「どうしたの?」

 「彼は目がイッてたね。麻薬か呪術か催眠術か。…とにかく、普通じゃない感じで手を俺に向けて目を見開いたんだけど、何も起きなかったんだ。そしたら、そのまま去っていったよ。宿泊客以外に侵入者がいる。気を付けろよ」

 そう言って呆然状態の舜は彼女の肩に手を置いていつでも自分を呼ぶように言い残して部屋に入っていった。


 早朝、人徳光明は宿の近くの森の中をさ迷い歩いていた。彼に付いてきていた八幡、荷稲、愛夢、舜、更紗、実生は彼と隠れ土雲族の里を探しに来ていたのだ。おそらく、彼らの仲間らしきものが宿に侵入している事実、そこから自分達の危機を感じて自分達から出向くことにしたのだ。

 彼らを操る彼らの言う『神』、人為的を超越したものの『何か』を破滅させて、例え、邪悪な者でも殺害されることを止めさせることが最終目的である。その『神』・『超自然的事象』を壊滅させるには解明する必要がある。その為に裏の信仰を調査しなければならない。その超自然的な『何か・神と呼ばれるもの』は何なのだろうか。

 すると、光明は祠を見つけて中にある仏像を見て大声を張り上げた。

 「これはおかしいよ。ゴーダマ・シッダルータ、つまり、仏教の開祖、お釈迦様として崇拝される釈迦牟尼の像だよ。生まれてすぐに四方に7歩歩き右手で天、左手で地を差し「天上天下唯我独尊」と言ったんだ。ただ、この像は正確には釈迦が菩提樹の下で定印じょういんを組み瞑想し、悟りを開いて菩薩から如来になった姿、つまり、釈迦如来の像なんです。その場合、一般的には右手は手のひらを正面に向けた施無毘印せむいいん、左手は手のひらを天に向けた与願印を結び、足の裏を天に向けて組んだ結跏趺坐けっかふざの説法像で表わされているんです。


 でも、この像は阿弥陀如来の印、親指、人差し指、中指、薬指のどれかで輪を作る印です。来迎の時に表わす来迎印と言って指の形によって位が表され、上品上生、上品中生、上品下生といった感じです。これは九品来迎印といって、3種の上中下の全9種の印があります。1種は定印の指を輪にする形、もう1つは施無毘印と与願印に指で輪を作る、下品上生、下品中生、下品下生。最後に両手を施無毘印にして指で輪を作る、中品上生、中品中生、中品下生。この仏像は上品下生の来迎印を構えているんです。釈迦如来には他にも天地を指差した誕生仏、身を横たえた涅槃像もあるけど、それのどれでもないですし…」

 実生の長い説明めいた話に苛立った荷稲が叫ぶように言い放った。


 「要は本来の仏像の形じゃないんだろう?それに、古そうに創作されていうけど、新しいみたいだし」

 「つまり、これは本来の目的で作られた物ではなく、『何か』の意味があるということだね」

 腕を組んで探偵気取りの愛夢が意味ありげにそう断言した。しかし、祠にも像にも何も異変を見つけることはできなかった。

 「もう、仏教とか他の宗教と別に考えた方がいい」

 沈黙を保ち腕を組んでいた実生がそう言って祠を摩った。

 「この地元信仰にあらゆる宗教の神や習慣が取り込まれたんです。つまり、そこでその神や偶像、神話等が違った新たなものが発生したと考えられるんです。この釈迦如来だって謎の裏信仰により取り込まれ別の神として崇められているのかもしれないし、その逸話でさえ別のものかもしれない。あの月夜見館のかつての御神体、月読命だって別もの。おそらく逸話もですね。日本神話とは全く違うものなんです。日本神話の月読命の主要神社は青森県の月夜見神社、山形県の月山神社、三重県の伊勢皇太神宮別宮月読宮・同月読荒魂宮、京都府の月読神社、長崎県月読神社、鹿児島県の月読神社。以上ですね」

 そこに人徳は付け加える。

 「月読命の神社で青森に月夜見神社というものもあるし、月読荒魂宮という三重の神社といい、この月夜見館と無関係なのかな?」

 「ただ、取り込まれたにしちゃ関連箇所が多いな」

 舜が呟くと実生は少し俯きながら独り言のように知識を続ける。


 「ご本尊を奉る末社であった見比卯みひゅう神社が、月読命がこの信仰に取り入れられ最高神が入れ替わり、或いは分岐し、月読命が最高神になり、宗教名も『月読荒魂つきよみあらみたま形代かたしろ信仰』と呼ばれるようになってからは、摂社となり月夜見館となった…か。見比さんの言葉がヒントになりそうですね。信仰の名も『月読荒魂』というところは三重県のに由来が近いのだろうけど、そこに『形代』が付いたのは何故か?」

 すると、愛夢は何か知っているかのようにあらぬ方を眺めながら呟いた。

 「見比卯神社は起源の地元信仰。そこに『奴ら』が現れて人形に降臨する神による支配が発生したのよ。で、月読命が偶然取り込まれたときに人形の神も一緒になって『月読荒魂形代信仰』となったのね、きっと」

 すると、次に珍しく信仰知識には無知の更紗が問い掛けた。

 「どうして、月読命が取り込まれたの?その人形の神の支配って?」

 すると、今まで見せたことのない表情で更紗を一瞥して愛夢は零した。

 「最初の質問。見比卯のご本尊が農業を重要に思っていた関係で月の神だったことと三重の月読荒魂宮の影響ね。早稲田の人形芝居の信仰が江戸中期に発生とすると、江戸時代前にはこの信仰はすでに発生していたはず。…まぁ、いいわ」

 すると、荷稲が少し不機嫌そうに全員を見た。

 「『神』?『不思議なこと』?『神に支配』?昨日の那賀さんのことといい、招かれざる客といい、誰かの人間の仕業さ。それも大勢の大掛かりなね。よく小説にもあるじゃないか。オカルト、神様の力なんて、ナンセンスよ」

 全員は彼を無視して溜息をついて祠をじっと眺めた。彼は苔と汚れを纏い厳かに前方を見張っている。深い木々の中で湿った空間の空気を噛み締めている。

 「浅学の為に、根本的に良く分からないことが多過ぎるんだけど、幾つか訊いていいですか?」

 八幡の質問に実生は更に瞳を輝かせて大袈裟なくらいに頷いた。

 「まず、古神道・月読命・荒魂・形代っていう言葉が…」

 「基本が分からないとこの問題を考えることが出来ませんからねぇ。うんうん」

 そう笑顔で頷くと、実生は言葉を紡ぎ始めて迸り出した。


 形代、月読命は前述のように説明した。

 「古神道。まず、日本人が自分達の民族的宗教を『神道』という言葉で意識するようになったのは仏教という世界宗教が移入されたからです。素朴な神祇信仰に基盤をおく神道は仏教の形而上学・論理学・論理学等広範なジャンルに跨る教学・戒律・行の体系もなかったんです。つまり、人間の頭脳による知の体系に他ならないのです」

 「しかし、神道は己を、人間を超越した『神の権威・働き・地位等の神という状態、神の属性、神の在り方』の道を伝えるもので、人間が己の頭で考え出したものではないと位置付けたんです。

 『神道のこと測り難し』という中世の常套句は人間的知な知ではアプローチできない神の道が神道ということを表わしている。だから、神道神学は存在しなく人間と神の関係の維持の為の『祭り合わせ』を正しく継承することが神道の命と見なされてきたんだけどねぇ」

 「でも、今回の裏信仰のように変化、合化、分岐が起こることもある」

 平然と舜が話に割って入った。実生は苦笑して頷いてさらに続ける。

 「こうした神道の在り方は、神道固有世界観を育てる上での大きな障害になり、先程の台詞を神道家は言うんです。でも、仏教は神がいかなもので、いかに仏に従属しているか、神道家が満足に答えられない死後も含めた世界の成り立ち、霊魂の行方がどうなっているか事細かに説明、説得することができたんです。よって、仏教は精神世界の権威となり、神道は仏教に従属せざるを得ない状況が生まれました」


 次に光明がその話の後を継いで語り始めた。

 「さらに、古代末から中世にかけて仏教は神祇世界を仏教の枠組みに取り込むべく、神道の“密教化”まで推し進めた。行者、梵字等からも分かるでしょ?他にも神道なのに密教に近いものが見られたり、取り入れられたりしたものも簡単に確認できますね。

 そこで、神職も対抗上、神道の理論化を図ったがその際に用いられた用語は、仏教や儒教、陰陽道――つまり、道教だね――等の外来用語であり、内容も極めて密教色の濃い神仏しんぶつ混淆こんこう理論に過ぎなかったのです。

 こうした、『俗神道』を否定して、神道本来の『神の道』に戻そうとする動きが、やがて江戸期の国学から生まれてくる。古神道のルーツはここにあるという説があります」


 そして、すぐに彼は実生に説明をバトンタッチをする。

 「まず、神道では神霊――つまり、神の御魂みたまには4つ形態、四魂しこんが存在すると言われています。『荒魂あらみたま』・『和魂にぎみたま』・『幸魂さきみたま』・『奇魂くしみたま』だ。

 荒魂は神の荒々しい側面、戦闘的な側面を表わしたもの。天変地異や祟りの形の表現ですね。

 一方、和魂は神の優しい側面、平和的な側面を司る。雨や日光等と表わしているんです。

 幸魂と奇魂は和魂をさらに細分化したものです。幸魂は豊穣や豊漁等産業的側面を持って表現されていて運気をもたらすとされています。

 奇魂は医療等人命に関わる側面を司るとされています。また、幸魂とは反対に直接的な奇蹟をもたらす神の力だといわれます」


 そして、一気に話をしたところで溜息を吐いてすぐに言葉を紡ぐ。

 「この4つは絶対不可分の関係にあり、荒魂だけの神や奇魂だけ持っていない神といったものは存在しない。どの悪神であれ、必ず平和的な側面たる和魂を有し、適切な形に祀れば人間に対して加護をもたらすと言われています。

 …つまり、神の荒々しい形態の1つ。天変地異・祟りの形の表現ってことです。そして、神のそれを一番信仰者は怖れ祭りで加護を得たのです」


 全ての言葉の意味からは信仰の成り立ちを垣間見ることくらいしかできなかった。全員がうむと唸っていると、実生は訝しげに思案に暮れた。

 「でも、考えて見ると変だよ。農業が重要なのは分かるけど。山岳や斜面の多いこの土地では特にね。それだけでは、月読命が伝えられたのには何か理由があるんじゃないかな」

 すると、じれったそうに愛夢が声を少し荒げて言った。

 「三重県の月読荒魂宮を『何か』が伝えたのよ。その何か、土着信仰から分岐した殺人信仰の秘密は三重にあるんじゃないのかな?」

 その言葉に全員納得して、とりあえず朝食の為に宿に戻ることにした。



                  操られた殺人者の隠れ村

 朝食を大広間で繰り広げられていると、2人の男女がエントランスから呼び声を上げた。見比は彼らを大広間に通して食事を容易させた。それを見た更紗は目を皿のようにして飛び付いてきた。

 「愛香ちゃん!どうしたの?」

 そう、2人とは明日馬と愛香であった。愛香はご飯を頬張りながら愚痴った。

 「突然、ロケハンの車が事故にあって行方不明。おまけに私達はタクシーで宿に向かう途中で道を間違えられてこんな山奥で下ろされて、迷子の末こんなところに辿り着いたって訳」

 全て、隠れ里の人間の仕業に思えた。彼らも『生贄』と見なされて『狩り』のテルトリ-に追い込まれたのだろう。横目で感情の薄い色の瞳を他の客に向けてさらに愚痴る。

 「しかも、めぼしい人はいなそうだし。あーあ。貴方は助けてくれそうもないし、宿屋のおじさんはとぼけているし、3人娘は馬鹿そうだし、おじさん達は何もできそうもないし、3人の男の子達はミーハーそうで駄目駄目だし、外国人は弱々しい単なる良い人って感じだし、大きな人は怖そうで誰も助けそうもなさそうだし」

 すると、呆れた明日馬は軽く愛香の前頭を叩いた。

 「見ず知らずの人のことをぼろくそに言って。…俺は?」

 遠くの宿泊客を一瞥してすぐに目の前の明日馬を見て言った。

 「明日馬?明日馬はウッキーだし」

 そこで更紗はくすっと笑った。明日馬は項垂れて首を横に振った。彼はいつものことのように諦めの表情を見せた。

 「ウッキーって何だよ。猿ってことか?全く俺がいないと何もできないくせに。これで世間を騒がせている歌姫なんだから不思議だよ」

 そこで、舜はすぐに食事を胃袋に掛け込み更紗の方に寄って来る。

 「何だかんだ言っても舜もミーハーね」

 更紗の悪戯っ子のような笑顔を無視して彼は明日馬に耳打ちした。

 「ここに来るまでに何か奇妙な感覚、つまり、こういう状況に導かれたような感じを受けなかった?しかも、超自然的な」

 しかし、彼は全てが偶然だろうというように不思議そうに首を横に振った。彼は顎に指をやってまるで探偵のように何か難しい方程式を解こうとしているように虚空を眺めた。すると、食器を御膳に片付けた愛夢も近くにやってきて、舜を押し退けて明日馬に尋ねた。

 ―――2人とも彼らヴォーカリストとその幼馴染という新参者が何かの鍵を握っていると思っているかのようだ。内から分からなくても外からでは分かることもあるというのだろうか。

 「ねぇ、この中で貴方達の知っている人はいる?」

 明日馬は遠くで食事する人達を見回し虚しい反応を見せた。

 「いる訳ないよね。始めて来て、偶然集まったメンバーだものね」

 彼女はまた意味深な表情で悪戯っ子のように微笑み、この危機的状況を楽しんでいるようだ。舜はこの屋敷に集まった『殺人信仰の民』への救世主達はすでに何かを知っていて、何かを『持ち』、『宿命付けられている』ように思えてならなかった。


 全員は警戒と見張りの意味を込めて、全員で行動することにした。新たに2人を加えた仲間も含め、彼らは『見比卯神社を末社とした化伝手の信仰』――舜達は仮に見比信仰と呼ぶことにした――を人形と月読命の影響を受けた三重に向かうことにした。この弁当山を中心とした土着民族、『土雲族に似た者達』なので仮に『土雲』と呼ぶことにした。その『土雲』にそれらを影響させた、もたらせた『三重県の何か』を探る為に三重県に向かうことにした。

 勿論、土雲の監視役・狩人役の尾行を引き連れて。

 見比の宿のミニバス――それほど多くの獲物を連れて来るために用意された――三重県に向かって出発した。舗装されていない細い山道をインターに向かって見比がハンドルを汗ばむ手で握る。

 舜は1番後ろの席で窓の外を見る更紗の隣りで物思いに耽っていた。愛夢と実生はその前で沈黙を続けている。何故、この2人がつるんでいるのか不思議でならなかった。共通点が何1つみつからないし、友人になる要素が皆無であった。左隣りでは3人組みの女子大生達が騒がしく話をしている。

 異様な感じを纏った隣りの春香に舜は勇気を持って話掛けた。

 「人の心が分かるのはきついですよね。辛い経験を重ねて来たのでしょうね」

 別にナンパとも下心があった訳でもなく、ただ、その重荷の辛苦を心苦しく思えたのだ。彼女は苦笑して慣れているといった感じで首を横に振った。

 「人の心を見ないでも済む方法があるんです。これを編み出すのに少し掛かりましたけど。それでも、人の体に触れるとどうしても心が流れ込んでしまうのです」

 その微笑みは天使のそれに思えた。

 「強いんですね」

 「そんなことないです。弱いからこそ…、貴方こそ強い精神をお持ちのようで。いいえ、心は読んでません。ただ、そう思えたので」

 舜は鼻で笑った。

 「俺の心なんて読んだっていいですよ。単純で大したことないし、見られて困るものもありませんから。ある出来事からストイックになってますから、逆に普通の人よりつまらないですって。それに頑固なだけ。美徳・美学・綺麗事が好きなだけです。好きな本が『シャーロック・ホームズの最後』と『塩狩峠』。大勢の人の為に望んで自らを犠牲にできるなんて究極の美学ですよね」

 「でも、人の犠牲で誰かが救われるなんて、私は嫌。例え全員助からないとしても」

 「だけど、それを、犠牲を望む者も存在するんですよ」

 すると、バスがヘアピンカーブに差し掛かり大きく揺れた。身体を触れないように力を込めていた春香は、つい舜に寄り掛かってしまう。途端に彼から様々な感情、感性、過去の心の軌跡が雪崩れ込んできた。

 どっと心が凍るような悲哀が心臓を氷水に浸される感情がショックが身体中、心身に染み渡った。自然に涙が溢れて止められずこの哀しみを堰き止めることは常人には不可能であった。そう、かつて多くの辛苦を舐め悲哀を耐えた彼女でさえ耐えられない絶望を舜は持っていたのだ。

 バスの状態が安定して順調に進む中で、瞳に右手を当てて左手を心臓を掴み肩を揺らして泣いている春香に後方の座席の人達は気付いた。

 「舜、何、女の子を泣かしているのよ!」

 更紗が舜の肩を掴んだ。彼は顔を伏せて春香を見る。その隣りの2人の春香の仲間が口々に叫んだ。

 「彼女に何言ったのよ」

 と、沙耶香。

 「春香は小さい頃から苦労していた読心術の話は辛いの」

 天然の菊理が憤怒の表情を見せている。

 「違うの、皆。彼の心が…」

 その春香の言葉を無理に遮って舜は言い訳1つせずに、無言で前方の席に移った。それを見て春香はさらに胸を苦しめて胸を強く掴んだ。息が妙に荒くなっている。

 「皆、そう。心が読めるからって無理なこと頼んだり、無神経なことを言う人が多いのよねぇ」

 すっかり舜を悪者にした沙耶香がそう鼻に付く言い方をして更紗に横目で嘲笑う視線を流した。彼女は悔しそうに窓の外に視線を戻した。少しでも舜を疑った自分を後悔して1番前の彼のやっと見える頭を一瞥した。

 そう、彼は何があっても誰かを傷付けることはなかった。逆に誰でも精一杯力を貸すタイプの見返りを求めることに罪悪感を感じる無欲的な天使の心を求める性質であった。そう、あの出来事が起こってから…。そのことは後に述べることにしてここでは割愛することにする。

 すると、急ブレーキでバスが急激に揺れて止まった。前方では土砂崩れで僅かな路地が塞がれてしまった。バックして何とかUターン出来るところで向きを変えて屋敷に戻ることにした。

 結局、見比卯に形代と日本神話が取り込まれたのか事実を調査することは直接できなくなってしまった。


 ―――そう簡単には逃さん。役者は揃ったんだ。舞台も完璧。畏怖の籠の虜となって殲滅していくがいい。歪んだ紙切れのチケットも用意したし、邪魔物を取り除いて彼らをあの屋敷にわざわざ導いたんだ。

 『彼、もしくは彼女』は運命を操っているかのように、さも楽しそうに微笑んだ。全てはこれからだ。

 …さぁ、うまく動いてくれ。奴らは疑いながらも人を信じようとする『愚かさ』を抱いている。これはまだ始まりでしかないのだから。


 バスがやっと宿の専用駐車場に止まった時に微妙に変な音を微かに立てて気付くか気付かないかくらいに傾いた。そう、駐車場には釘のトラップが仕込まれていたのだ。隠れ里の形代に宿りし神に操られた殺人集団の仕業だろう。

 舜はすぐに飛び出してバスの中の人達を眺めた。この中に何人スパイがいて、敵がいて味方がいるのだろう。彼は自分達は犯罪行為、許されない行為をしていないので、ターゲットとされている訳ではないはずだと考えた。つまり、見比に呼ばれた自分達を邪魔する者と考えている。それもターゲットになりえるのだろうか。

 すると、翔が近くに寄ってきて背後で別の方に視線をやりながら言った。

 「俺達は導き出されたんだ。見比さえ気付かない内に操られて。理由は簡単。自分達の神の力に対抗できる『超自然的』な能力を持っていて、自分達を滅しようとしているからだ。邪魔物を消す為で、今回は人間の判断で言う『悪きし』者をターゲットにしている訳ではない。つまり、俺達は『悪者』としてでなく、『邪魔物』として思われている。勿論、お前も例外じゃない。極めて強い『夢の力に打ち勝つ力』を持っている。俺でないと分からない程度しか潜在能力を発揮できていないがな。俺達の中には事情を知っている者、奴らを倒す為に来ている者も少なくない。まぁ、お前も力を発揮できるようになるんだ。この歪められた宿命に負けないように」

 それが何を意味しているのか分からなかった。女性陣に無視されつつエントランスに進みながら、舜はあることを考えた。翔の言うことが正しく、<古信仰から独立した最悪の信仰の信徒達、隠れ里の住人を操る彼らが言う『神』、人形に宿りし悪魔>が存在するのなら、自分にそれを倒す能力があるのなら早くそれを目覚めさせ、その悪魔を殲滅しなければいけない。

 ――そう、もう信仰の調査は意味はない。まず、彼らの隠れ里を探す必要だ。この屋敷周辺、文字通り陸の孤島に幽閉されて後はどこから来るか、何人来るか分からない使徒達に狙われるだけだ。しかも、悪魔の人形に能力があれば、『生ける人形が超能力で攻めてくれば』彼らは最大の危機に陥ることになる。


 大広間に集まった彼らはこれからのことを話し合った。そこで舜は悲哀、同情、意を決したような瞳で春香に尋ねる。

 「君は心が読めるんだよね?」

 「まだ、そんな酷いことを言うの」

 凄い勢いの菊理を沙耶香は無言で冷静に止めて視線で彼に続けるように頷いた。舜は春香に労わるような視線で穏かに話し掛けた。

 「この中にスパイはいるかい?」

 全員の顔色が刹那で変化する。彼は彼女に一定の距離を取る。最大の彼女への配慮を配りながら話しを続けた。

 「今、俺達に必要なのは信頼と団結なんだ。協力してこの窮地を脱出して『悪魔』と邪教を倒すんだ」

 「こうなると、むしろこの土地に現存する全ての行事、神事とはルーツは一緒でも悪魔のおかげで全く関係なくなってしまったな。宗教を調べても意味がなくなってしまったよ」

 実生は虚しくそう割って入るが、全員の非難の視線に口を噤んだ。

 「この中の全員に触れましたが、誰も『敵』はいません。見比さん以外その邪教の住人もいません。見比さんは本当にこの禍禍しい殺人行事を終わらせたい、娘さんの旦那さんを助けたいという気持ちも事実です」

 「よし、これで全員は信じることが出来る」

 安心したように那賀が座椅子の背凭れに重い切り伸びをして寄り掛かった。しかし、慎重な表情の者は大勢いる。状況は軽減されたとしてもあまり変わっていないし、謎も多く残っている。

 「この中に招かれざる客がいることは確かです。勿論、付いてきた人や私達、偶然の遭難者なので除外しますけど。それは誰ですか?」

 すると、彼女は視線を荷稲精大に一瞥した。全員の視線を集めた彼は諦めたようにゆっくりと話し出した。

 「そう、俺は人形も紙切れももらってない。リストに載っていたのは見比さんがメンバーを選んでいる時にここで宿泊客のリストに細工したんだ」

 「どうして…」

 八幡が本当に信じられないかのように思わず呟く。彼は怯えながら震える言葉を一言ずつ零し始めた。

 「実は俺は1回ターゲットになったんだ。で、高校の帰り道で黒い、でも汚れたビンテージ車で囚われて目隠しされたままあるところに連れて来られた。おそらく、隠れ里のある建物の真っ暗な1室だろう。そして、数人の人間が連れて来られたんだ。そこは薄暗く犯人も被害者もよく分からなかったけど、1人は首を折られていて、1人は床の下でばらばらだった。俺は意識を取り戻してすぐに走り出して逃げ出したんだ」

 「でも、戻って来た。復讐の為に」

 マークが膝に肘を立てて両手の指を突き立てながらそうゆっくり落ち付いて言うと、彼は真っ青な顔で首を横に振った。

 「ここに来たのは間接的に助けをする為に。貴方達を呼ぶように見比さんが決めた時にね。あの隠れ里の情報で一番知っているのはこの俺だけだし」

 すると、軽蔑の瞳で愛夢が言った。

 「すると、貴方は酷い悪さをしたのね」

 白い眼が集まると彼は項垂れてやっと聞える声で話し出した。

 「沢山の女性を騙して不幸にしてきました」

 どの女性の蔑視よりも舜の憤怒・軽蔑・憎悪の眼色が一番鋭かった。

 「優しくて面白い、自分の気分をよくする外見もまあまあの男は腐る程いるのに引っ掛かる人間が多いのよね。ホストの方がまだましで、そういうのに限って、犯罪に関わってしまうのよね」


 まるで、悟ったように沙耶香がぼそっと言った。

 「騙す方も騙される方もどうかな。人間は心・中身だっていうの。2つの世界、意志、心、思想、概念、価値観があるんだから双方を考えるべきなのに、自分勝手に自分のいいように考え、エゴで進むんだよね。男と女って。最初にいいように見せるから駄目なの。最初から格好付けないで全て曝け出せば良いのよ。相手の気分の良いように無理に合わせるから、後から価値観の不一致なんて出てくるの。心の中の奥を曝け出せないってことは――外見・持ち物・お金・地位・ステータス・家柄等自分自身に纏っている飾りでしか自信をもてない――その人に『真実・本当』の存在の価値を持っているかどうか不安なんだろうね。それに騙されるのもどうかな。それだけでいい、恋愛になるという人は本当の恋愛の心を知らない寂しい人なんだろうね。不幸を何回も重ねていくかも知れないのに…」

 マークが彼が言う台詞ではないようなことではなかったので、大広間の空気は静寂の糸に張り巡らせていた。

 「まぁ、いいから逃げた時のことを話せよ」

 面倒くさそうに魁が立てた膝に腕を載せながらそう言うと荷稲は指を北の方に指差した。

 「かつて社だったところに隠れ里の入り口がある」

 それを聞いて後で全員で行ってみることにした。次にここで話し合って謎を解明していくことになった。

 「まず、翔君。君は何者なんだ?かつて、翡翠翔君と東北で焼失したもう1つの月夜見の舘で会っている細波と香住がこの中に誰も見知っている者がいないって言っていたし」

 愛夢がそう言うと愛香達が頷いた。翔は吐き捨てるように溜息をついて頭にバンダナを巻いてサングラスをして愛夢に意志を伝えるように視線を貫いた。

 「ジンじゃない?貴方もここを嗅ぎ付けてきたの」

 すると、魁も驚愕の表情を見せた。

「どういうこと?」

 訳の分からない者達が口々に騒然としていた。

 ―――知り合いなら気付けよ。しかも何で、バンダナとサングラスで気付いてしかもそこまで驚くんだよ。

 尤もな意見を心の中に呟いて那賀は胡散臭そうにこの3人を見比べた。

 「そうね。まず、この状況から話しましょうね」

 首を横に振って俯くと愛夢は魁とジンの非難の眼を無視して話を始めた。

 「この隠れ里の人間達は悪魔に操られているの。彼らのいう『神』は黒魔術により人形に降臨させた小さな悪魔。でも、2種類の内のまだ良い方で、人間全ての殲滅を求める者ではなくて、邪気に心を奪われた人間を殲滅させようとする『間違った優しさ』を持った者達なの。彼らは召喚方法を誤ると――ある手段を抜くと――優しい悪魔になるの」

 愛夢に続き、魁も話を続ける。

 「その悪魔を殲滅させる為に俺達は来た。俺と愛夢、ジンはCODEという『メビウス』の使者と対峙するグループのメンバーで、悪魔の人形と同じ『夢の力』を使うことができる。理由は訊くな。お前らには理解できない。一般的な人間の概念を根底から覆す必要があるからな。ちなみに、見えない力で全ての事象を決めている『もの』をCODEと呼ぶ。そこから、俺達の仲間の名前を取っている」


 続いてマークもそれに続いてにこやかな表情のまま話を受け継ぐ。

 「そうか、第3勢力があるとは思っていたが、それがCODEかぁ。私は祖先の過ちを正す為、その悪魔を殲滅する為にここに来た。実際に翡翠翔君という人物もいて、彼も何回も彼らと戦って打ち勝っている。実際に会ったことも見たこともなく話だけ聞いているんだけどね。…その悪魔は『メビウス』により操られた我が祖先、歴史から葬られた宮廷人形師、アラン・スチュワートが人形に黒魔術で命を与える術を発明したのです。彼らは『ソウルブレーカー』、魂の破壊者と呼ばれています。」

 すると、実生は眼鏡を上げて不思議そうに尋ねる。

 「『メビウス』?意志のある運命みたいに言っているけど、メビウスって『メビウス・オーガスト・フェルディナンド』という1790年から1868年に生きたドイツの数学者、天文学者で1827年主著『重心算』、1837年『静力学教程』で初等的なベクトル算を導入した人物でしょ?ちなみに『メビウスの帯』という自分の名を冠した形体の発見から位相数学の創始者とされ、1844年ライプチヒ天文台長になったんですけどね」

 すると、白けた空気を打破して愛夢が口を開いた。

 「無用な雑学までありがとう。メビウス――オリジナルの方ね――は自分の性質からメビウスの帯・クラウンの壷で表現させたんだけど、自分の名を祖の形体の名前、つまりメビウスの帯という名前にしたい為にメビウスという名の学者に発見させて、結局、あの裏表のない形体をメビウスの帯と名付けたの。あのCODEでこの世の全ての事象を運命として導く『意志』は『メビウス』と自ら名乗っているのよ」


 3人を異形なものを見る眼で見ながら彼らは頭の中を必死に整理しようとした。彼らの言いたかったことは『メビウス』という大いなる『意志』――運命と呼べるだろうか?――により操られた中世の宮廷人形師の黒魔術により発明した人形に悪魔の魂(正確には『メビウス』の使徒であり、悪魔とは比喩であるが)を込めて『夢の力』という不思議な力で人の精神を操ったりする。『メビウス』は人間の気付かないCODEというマインドコントロール・サブリミナル効果のような小さな影響で全ての事象を操るのだが、それだけでは操り切れないものは、彼ら人形達に任せるのだ。

 その黒魔術の人形と異信仰の合わさった見比卯信仰が今の隠れ里の信仰となっているのだ。平和に悪魔と別離して地元信仰となり、神事のみが名残りとなったものが、彼らは今では微笑ましく思える。

 「どうして、そのアラン・スチュワートの黒魔術、悪魔人形の作り方がここに伝わったのか、今になって悪魔がどうして召喚されたのかな?」

 半信半疑の菊理がそう訊くとジンが魁に視線を向けた。意見を話せという意味であろう。


 「なぁんか、インド神話だ、道教、仏教、密教だとか言って、原因は結局西洋の黒魔術なんだ」

 新参者の明日馬がそう言うと実生は苦笑して考え込んでしまった。

 「まぁ、西洋の信仰文化が東洋の信仰文化に影響を与える例もないしね」

 「しかも、それを操っている『意志のある運命』ってのがあるらしいし」

 八幡が実生の言葉に皮肉を込めてそう付け加えた。

 「で、あの紙の梵字は何だったのかな?」

 光明の質問に実生が瞳を光らせた。

 「真言宗が大きく影響を受けているんだろう。宗祖空海、そう、弘法大師の呼び名の方が親しみがあるかな?彼の真言が関係しているのかもしれない」

 すると、菊理がすっとんきょうな声を上げた。

 「空海って授業で聞いたことあるけど、弘法大師と同じ人なんだぁ。弘法も筆の何とかっていう奴でしょ?」

 しかし、実生は浅学な言葉には興味なく無視して話を進めた。

 「高野山真言宗が代名詞の現在に継承される真言宗高野派が影響しているんです。真言宗も発生以後色々あったからね。教義対立、宗派分裂、独立等など。まぁ、いいや。そこで密教としての真言・陀羅尼が取り入れられたのです。だから、古代インド語、サンスクリット語、つまり梵語が使用されてもおかしくないんです。ちなみに梵とは『宇宙の心理』ブラフマンのこと。それの擬人化させたヒンズーの3大神の1柱、誕生の神ブラフマー、仏教に取り入れられた梵天のこと」


 そして、一息ついて再びいつものように続ける。

 「元々、古代インドの宗教の陀羅尼、神との対話の言葉。つまり、オンやナウマク、ノウマクで始まりソワカなどで終わることばね。それが、日本に伝わり真言に至っているんだ。といっても、真言と陀羅尼は同じものと思ってもいいかな。古い書誌に陀羅尼が残っていて、博物館で見られるけどね。これはもちろんサンスクリット語だけど。中国に伝わって漢字になり、日本では発音のみ伝わったので平仮名、カタガナの表記が多いかな。オンを吽と書くあれね。阿吽もその1つだけど、そこは話しが長くなるので割愛するよ」

 「充分長くなっているけど…」

 横目で呆れたように愛夢が囁いた。

 「まぁ、陀羅尼はお経のルーツとも言えるし、呪文のように使われたという記述もある」

 そして、やっと本題に入り始める。


 「この梵字の発音はカーン。不動明王を意味する。真言は『なーまくさーまんだーば さらなんかん』真言はその神によって梵字とともにそれぞれ存在している。問題は、見比は何でこの文字をあの紙の上に記述したか、だな」

 そして、またついでの言葉が続く。

 「これは各梵字には各仏教、密教の神を意味して読み方もある。十二支を意味するものもあって、お守りとして刻まれるものもある」

 さらにマニアックな話が続いて行くのを誰も止めることはできなかった。

 「この梵字の由来の話からしましょう」

 全員はしなくていいという困惑の表情を見せたが、構わず彼は続ける。

 「初期のものは貝葉経ばいようきょうで葉に書かれたお経です。貝葉は貝多羅葉ばいたらようの略で貝多羅は音写で、紙のない時に葉に釘のようなもので文字を刻みました。文字部分には油で黒く染み込ませて、読み易くしました。葉は椰子の葉の一種で厚みがあり文字は両面に記載されました。貝多羅はタ-ラという葉です。多少弾力があり手触りはがき程度、大きさ約7cm×50cm位です。葉にあけられた穴は綴じるためのもので、2ヶ所に開けたものもあります。使う時は紐をゆるめ、一枚ずつめくります。このような形式は、お経に限らず当時のインドの一般的な書物の形態です。使用文字は梵字の原形で、貝葉体と呼ばれる書体です。日本で現在使われている梵字は、6~9世紀頃にインドで使われた書体で、筆で書くことを中心とした書体です。このほかにも書体はいくつもあり、インド文字の総称が梵字――サンスクリット語を表記する文字――です」

 とうとう、愛夢は立ち上がり無理に実生の話を止めた。

 「とにかく、見比さんはこの梵字が彼ら、悪魔に操られた者に関係すると思って一番上に印字したんでしょ?」

 「はい、偶然、私に宿る人形が小火で消失して彼らの洗脳から解き放たれ我に返るとこの社の奥に印字されていたこの字を一緒にここのヒントにしたんです」

 「すると、ここの信仰のシンボルか何かで彼らを追い詰めるには関係ねぇだろう。とにかく、先に行こうぜ。その旧信仰の社だったところに」

 魁の言葉が引き金になって全員は立ち上がった。廊下に出ると、増設した旅館から社だった北部に向かって慎重に歩く。すでにこの行動は彼らに筒抜けになっているだろう。どういう争いになるのか誰も予想できなかった。


 ある細い廊下を歩いて行くと奇妙な灰色のクロスで囲まれた通路に出た。そこは突き当たりで何もなかった。しかし、舜は眼を近付けて指でなぞる。

 「これは細かい迷路だ」

 指で灰色に見えた迷路をよく触っていると突き当たりの壁の中央に四角く囲まれた場所があり、2ヶ所に出口、入り口といった途切れがあり、それを空想でつないで良くと真中に鍵穴のような形が現れる。

 そこに見比が懐から取り出した古い装飾の鮮やかな巨大な鍵を取り出して、クロスを突き破り奥まで差し込んで回した。なかなか動かなかったが、鈍くカチリという音とともに突き当たりの壁が開き戸のように開いた。

 その扉の裏側は巨大な檜の扉が存在していた。その表にはクロスが貼ってあり、まるで壁と同化させて隠してあるように見せていたのだ。

 「昔は倉庫でしたが、今は開かずの間。何もありませんよ。さぁ、広間に戻りましょう」

 蒼い顔をした見比はそう言って慌てて全員を引き返そうとするが、マーク、魁と翔は表情を変えずに足を止めなかった。

 「ここから先は元社だったところだろう。増築の跡もはっきりしているし…、異様で邪悪な空気が吹き出している。これ以上行くと霊障に似た現象か死に関わる危機が心身に襲うだろう」

 しかし、高明の話を無視してすると、後ろから近くの民家の人々と思われる若者達がこぞって現れて6人現れて彼らの前に立ちはだかった。それも、まるで何もなかったかのように対峙した者達はぶつかった。

 魁は手を軽く押し出すだけで不良風の若者を弾き飛ばし壁に叩きつけて気絶させた。マークは右肩を下げて腰を落した。そして、構えてノーアクションでいきなり腰を右に回転させて右肩を引き、左肘を右足を踏み込んで体重を込めて打ち込んだ。その力強い素早い肘打ちで1人は溝落ちを抑えて倒れて苦しんだ。

 「柔術?古武術の動きじゃないか」

 息1つ切らさず2人もあっという間に倒したマークに魁が少々驚きの声を上げた。

 「イギリス人でも日本フリークでね。日本に対することは何でも吸収しているつもりさ。この合理的で日本人の身体に合った武術に対してもね。私も華奢で日本人よりの身体だし」

 そう2人が会話している間にジンは空手で残りのメンバーを倒していた。伸びた若者達を見て後方に見ていた人達は唖然としていた。

 大きな扉から埃臭い倉庫と化した社は神聖に感じる。箱や仏具が詰まれるその中を突き進んで行く。三鈷杵や独鈷杵についた金剛鈴が転がっていた。奥にご本尊が厳かにこちらを見下ろしている。月読命に近いが少し違うその像の背を回ると大きな紙切れの上に印字されていたものと同じ梵字の刻まれた木の札とその下に大きな扉が存在していた。ぎこちない音を立てながら思い扉を開くと暗い階段が下に続いていた。神道の月読命、密教の真言宗の仏具といったミスマッチな状況に彼らの幾人が妙に感じただろうか。

 社の扉から地下道を通り崖か越えるのに困難な山の壁に囲まれた隠れ里に続いているのだろう。地下道を越えるともう1つの社に出て来た。こちらは仏像は1つもなく数体の人形が木の段に飾ってあった。おそらく、隠れ里の操られし民達の人形がここに全て納められているのだろう。信仰のご本尊のように…。

 社の目の前の扉を開くとまるで江戸時代そのままの暮しのような自給自足の質素な生活の隠れ里が広がっていた。




 


                   真言一覧


御本尊

真言


大日如来 おん あびらうんけん ばざら だどばん

大日如来(金剛界) おん ばざら だどばん

大日如来(胎蔵界) のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん

阿閃如来 おん あきしゆびや うん

薬師如来 おん ころころ せんだり まとぅぎ そわか

阿弥陀如来 おん あみりた ていせい からうん

釈迦如来 のぅまく さんまんだ ぼだなん ばく

涅槃釈迦如来 同上

千手観世音菩薩 おん ばざら たらま きりく

三面千手観音 同上

十一面観世音菩薩 おん まか きゃろにきゃ そわか

馬頭観世音菩薩 おん あみりと どはんば うん はった そわか

准胝観音 おん しゃれい それい そんでい そわか

弥勒菩薩 おん まい たれいや そわか

地蔵菩薩 おん かかかび さんまえい そわか

勢至菩薩 おん さんざんさく そわか

文殊菩薩 おん あらはしゃのぅ

虚空蔵菩薩 のぅぼぅ あきゃしゃきゃらばや おん ありきゃまり ぼり そわか

観世音菩薩 おん あろりきゃ そわか

大通智勝如来 なむ だいつうちしょうぶつ

不動明王 のぅまく さんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん

普賢菩薩 おん さんまや さとばん

毘沙門天 おん べい しらまんだや そわか

愛染明王 おん まから ぎゃばぞろしゅに しゃばざらさとば じゃくうん ばんこく

尊勝仏頂陀羅尼小呪 おん あみりた ていじゃばち そわか

孔雀明王 おん まやらぎらん でい そわか



                    全ての終焉


 舜は自然豊かな数年前の姿を眺めていると、田畑の奥から住民達が集落からわさわさと眼に血柱を走らせて集まってきた。手には鍬や包丁、鉈等が握られている。中には女性や子供、お年寄りまでいる。

 那賀が構えると魁が手で制した。

 「こいつらは『奴ら』に操られているだけだ。手を出すな」

 「ああ、人形の中の『神』さんだろう?さっきは若者をぼこぼこにした癖に。…で、どうする?」

 「ジン。頼む」

 魁がそう言う前からジンは情のない無表情で残酷にも思える雰囲気を纏って前に出た。そして、両手を合わせて少し力を溜めてから、右手を差し出すと手に力を込めてサングラスの奥の瞳を光らせた。

 すると、住人達は次々にバタバタ倒れていった。それでも平気で歩み寄ってくる者達もいた。

 「ちっ、奴らの支配下の群集に何で『夢の力に打ち勝つ者』がいるんだよ」

 その小さな魁の言葉は意味は分からなかったが、世の中には魁達CODEや悪魔の人形――ソウルブレーカーと呼ぶらしいが――の使う『夢の力』という同様の不思議な力(人間の精神に作用させたり、何かの波動を出したりするものらしい)が効かない人達がいるらしい。

 「つまり、奴ら悪魔の人形に操られていない者は信仰の力で操っているっていうことね。それで、奴らはこの信仰を利用して人形神事を取り入れることでうまくこの小人数の隠れ里の住人達を自分達の駒にしたということか、何て皮肉なのかしら」

 愛夢はそう言って全員を社に導き出した。しかし、彼らは飛び掛かって来た。社の扉をぎりぎり閉めて何とか彼らの攻撃をかわすことは出来たが、その建物の中には悪魔の魂を宿った人形、邪悪な存在の本体そのものがずらっと並んでいた。彼らは硝子の瞳を舜達に向けて一斉に瞳を光らせた。衝撃波が全員に強打して扉が破壊されて外に転げ出された。女性陣を庇いながら魁は叫んだ。

 「ジン、どうする?」

 「普通の人間を攻撃していいなら、今の状態を打破できるが?」

 感情のない大男ジンはサングラスの奥の非常な三白眼で魁を一瞥した。彼は悔しそうに項垂れた。


 自由に動ける村人の中には女性、老人、屈強な男性がいた為にいかに腕に自信にあるマーク、ジン、魁達も迂闊に手出しが出来なかった。目隠しをされて全員どこかに連れて行かれた。おそらく、社のどこかに別の部屋がありそこに閉じ込めたのだろう。鍵を閉める音がして静寂が訪れた。

 「おそらく、荷稲の掴まっていた部屋だろう」

 静かに魁がそう呟いた。全員手首、足首にロープが縛られていていた。沙耶香は何とか壁を使って置き上がり柔らかい身体を活かして腕を前に回して、目隠しを外した。しかし、そこは窓の鎧戸からの僅かな木漏れ日だけで視界を仄かにしか確保できなかった。

 「床はリノリウム?病院か学校かなぁ?」

 社から連れて来られた距離はそれほどではなかったはず。それなのに、床にリノリウムのタイルを使う建物に監禁されている事実がしっくりこなかった。次ぎに手首だけが絞められていたので、手の指は何とか自由に動かすことができたので、足首のロープを解こうとしたが固くて解けなかった。落ちていた硝子製の何かの欠片を広いロープを切ろうとするが、ほつれさえしない。白魚のような指から緋色の液体が滲み始めた。

 「それには結界の力で封じられている。奴らも馬鹿じゃない」

 無口のジンが目隠しの外が見えるようにそう落ち付いてバリトンを奏でた。

 「しかし、1つ真抜けなところもある。俺達の中にその結界の力の源である『夢の力』をキャンセルできる者がいることに気付かなかった」

 魁はそう言ってどこにいるか分からない舜に聞えるように言った。

 「貴方達の能力、CODEは使えないの?」

 光明がそう尋ねると愛夢は嘲るように言葉を吐き捨てた。

 「CODEは奴らの『夢の力』と同系の能力。波動と精神操作。ここで使えるような便利な軌跡はないわ」

 臀部と縛られた足で床を擦って沙耶香は舜に近付き、口で目隠しの大きめのハンカチを歯で取って横目を使って色眼を見せた。舜は気にしないで倒れたままで後ろ手で彼女から硝子の欠片を受け取り、足と手のロープを時間を掛けて切った。自由になった沙耶香は立ち上がり伸びをして窓に近付き窓の鎧戸を開け放った。その時、彼女と舜は戦慄と驚愕を覚えた。おびただしい血の染みが床に広がっている。ここは実験室のようで、刻まれた蛆の這った死体を乗せたベッドが並んでいる。死体の欠片が転がり、どす黒い手首も部屋の端に落ちている。窓の側には安楽椅子に揺れるミイラが永遠の眠りについている。


 窓の外には社が見える。

 ―――どういうことだろうか。社からは田園風景と遠くの民家しか見えなかったはず。いまいる所は幻なのか、見えない建物か、彼らの不思議な力で見えなくしていたのだろうか?それなら舜には見えていたはず。勿論、CODEの3人にも同様だ。次元が位相のズレているところにいる?それとも…?

 「驚くことないさ。俺達はあの社の前にいるんだ」

 沙耶香と舜によって自由になった全員は無残な部屋を呆然と眺めて溜息をついた。おそらく、この部屋も結界が張られてしかも鍵が掛けられているだろうが。

 「どういうこと?舜」

 自由になり頬を撫でている更紗が首を傾げた。

 「ここは最初の社、つまり、月夜見館なんだ。隠れ里の社とは地下道で繋がっているだけで離れているだけだからな」

 隠れ里の人形の社と月夜見館の間には細い谷間の崖に囲まれた道が存在していたのだ。

 気付くとその部屋の天井にもその梵字、カーンが描かれていた。一体何を意味しているのだろうか。ここが奉っているのは月読命。しかも、神道の神。カーンは不動明王、つまり、仏教、密教の神。その秘密は誰にも分からなかった。


 「どうして、不動明王の梵字があったのかな?」

 更紗が質問すると、愛香がその問いに付けたした。

 「明王ってなぁに?」

 すると、待っていましたというように眼鏡の奥の瞳を輝かせて話し始めた。

 「まず、仏教で崇拝される存在は大きく『如来・菩薩・明王・天』の4つと言えます。まず、如来とは『如、つまり、真理から来た存在』という意味。真理、つまり悟りに到達した存在で、大日如来、釈迦如来といった仏教で中心の存在。菩薩は『菩提薩た』の略で悟りを求める人、まだ悟りを得ていない、如来になっていないことの意味。観世音菩薩、弥勒菩薩が有名だね。


 本題の明王は真言陀羅尼、つまり密教の呪文の神格化で密教独自の存在です。如来に代わって人々を導き、救済する役目を担っています。大日如来の化身の不動明王、阿弥陀如来の化身である大威徳明王等で、仏教では如来がその教えを実行する為に変化するとされ、菩薩や明王等の姿を如来が取ることがあります。明王の姿を取ることを『教令きょうりょう輪身りんじん』、菩薩の姿を取ることを『正法しょうぽう輪身』、本来の如来の姿を『自性じしょう輪身』といい、この3つを総じて『三輪身』といいます。

 ついでに言うと、天は古代インドの宗教、つまり、バラモン教やその発展のヒンズー教の神々が元になっています。中には悪魔、鬼等も天の元になっている場合もあります。対峙するディーヴァとアスラの神々が2種ありましたけど、アスラはその後邪神とされて、悪魔とされるようになったんです。そのアスラが、阿修羅に化しています。まぁ、阿修羅は天ではありませんけどね。この天へ変化させ取り込むことは、これらの信者を仏教の信者に取り込む為に生まれたとされています。インドラが元の帝釈天、ブラフマーが元の梵天等です」


 愛夢はそこでやっと話が終わったのを確認してすぐに口を挟んだ。

 「すると、不動明王は大日如来の化身ってこと?」

 「そういう説がありますね」

 「じゃあ、同じものとして考えられない?」

 「でも、梵字も真言も違います。梵字は『バン』で金剛界も同様、胎蔵界では『アーク』です。真言は『おん あびらうんけん ばざら だどばん』、金剛界は『おん ばざら だどばん』、胎蔵界では『のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん』ですし。明王と如来は根本的に別に考えた方がいいでしょう。

 ちなみに私の守護本尊は卯年なんで文殊菩薩に当たります。まぁ、道教にも当たる天文学を含めた風水学を見ても私は多く『卯』に当たるものが多いのです。これも偶然ではないでしょう。

 その文殊菩薩の種字、つまり梵字はマン、梵名はマンジュシリ、真言は『おん あらは しゃのう』または『おん あらは しゃな』です。もともと、如来の脇待として従いやがて独立した信仰対象の菩薩です。文殊菩薩は、インドで生れた実在の人物とも言われ、智・慧・証の徳を象徴されていると言われています。「智慧の文殊」「三人寄れば文殊の智慧」と 言われている智慧は、私たちが日頃使っている知識ではなく、諸仏の智慧のことを言い、すべてを明らかにして、恐れるところはない、最も優れているということからきています。

 右手に剣、左手に経巻を持っているのが特徴です。獅子の上に座っている姿が多いようです。お釈迦さま(中心)普賢菩薩(左)と一緒に釈迦三尊のかたちを組みます。知恵をつかさどる文殊菩薩は、学問成就や受験成就を願う学生が願掛けを行うことでも知られていますが、人々に永遠幸福と悟りの智慧を授けようとします」

 「すると、卯年生まれの人は素晴らしい智慧を授かっているはずなんだよなぁ?実生には智慧はあるのか…?それにそんなこと聞いてないって。ったく、こんな時に…」

 愛夢は呆れて俯きながら首を横に振り、窓の方を見た。


 梵字集


大日如来の梵字


        


バン        アーク       アーンク(胎蔵界)




    


バーンク(金剛界)  ア(胎蔵界)及び全ての仏




文殊菩薩の梵字


    


           マン        マン




不動明王の梵字


    


          カーン        カンマン


 「もう、どうでもいいんじゃない。そんな梵字なんて。月夜見館がその梵字と関係していようと今の私達の状況には関係ないし」

 沙耶香がそう言ってこれから起こる惨劇をどうやって避けるか窓の下を覗いて考えた。高さはどう見ても3階以上はあった。

 すると、小さい声で愛香は自分の最新の曲を口ずさみ出した。

  淡い色のルージュに輝きのある明るいグロスの唇から美しい歌声が流れると、

 一同は多少の不安を紛らわすことができた。すると、ある気配と畏怖の気配が突如充満し始めて壁に嘔吐を始める者まで現れた。

 壁に寄り掛かり膝に肘を掛けて休んでいたジンは、立ち上がり誰もいないはずの死体で満ちた部屋の中央を横切り窓辺の安楽椅子を回した。こちらを向いたミイラはじっと虚空を眺めていた。その膝には『クラウンの操り人形』が乗っていた。彼は残忍な顔で舌舐めずりをして冷たい床の上に飛び降りてぎこちなく進み寄った。

 大勢の顔色が青く変化していくのをまざまざと感じることが出来た。

 「何故、ここにお前らが存在する?」

 ジンの質問にしばらく答えずに操り糸を引き擦りながら窓の方を見ていた。そして、耳障りな声を発生した。

 「何百年前だろうな。オリジナルが完成してから、魔術書はコピーを作られずアラン・スチュワートの子孫に伝えられた。その中で、1人写しを持って日本に来た者がいた。イギリスからオランダ船でここに来るとある信仰に眼を付けて悪魔の人形を写しから召喚した。ところが、写しが不完全な為、天使の人形と化してしまった。そう、邪心の持つ人間しか殲滅しようとしない愚かな者ども。魂を持った動く優しい人形を見て神が宿った形代と思った日本人はある信仰に神に人形という依り代を用意して人形を使用する神事を取り込むことになった。そこから、信仰は月読命を取り込むことで我々から離れ独自の信仰を発展させていった。それは我々には都合が良かった。隠れ里を作りその信仰から分岐させた我々に都合のいい信仰を小人数の住民で集落を作り今に至っている。その後、我々は火事により消滅して、その悪人惨殺の神事のみが残されたが、その後、スチュワート家の者が訪れて新たな魔術書をこの隠れ里に残していった。しかも、人間の死体を依り代にする実験の条件までを伝えて。そして、最近になって我々は復活した。そして、死体による召喚の実験も悪人惨殺も行なわれていった」

 「そこまで、正直に話すということは、相当の自信があるのだな」

 魁は怨恨の瞳を人形に向けて吐き捨てた。

 「ところで、ここの人間を使わずに何故自ら?しかも、君達の頭領御自ら」

 その魁の皮肉たっぷりの言葉にも動じることなく異様な頬笑みを向ける。彼らは木で出来ていようと蝋で出来ていようと自由に固形を流動的に人形の身体を動かすことが出来た。それは『波動』の力の応用のようだが定かではない。また、その『波動』により宙を浮くことも物に衝撃を与えることができた。

 「数々のソウルブレーカーと『夢の力に打ち勝つ者達』との闘いの中で、我々には2体に重要な存在がいることをお前達は知った」

 そこで、舜達は顔を見合わせて目を丸くして首を傾げた。事情を知っているのは愛夢、魁、ジンの3人だけのようだ。

 「そう、俺のような-残虐で異常な悪魔のクラウン-とソウルブレーカー召喚の力、すなわち『誕生』と魂をメビウスの形体の運命――地獄――に戻す力、すなわち『浄化』の力を抱く凄まじく強い『夢の力に打ち勝つ者』、すなわち『SNOWCODE』の血をより多く受け継ぐ人間と同じ能力を持つ天使の蝋人形、『SNOW』、君達の言葉で『雪』と呼ぶべきかな」

 愛夢とジンは目を見合わせた。『葵』の正体を知ったのは彼らでさえ初めてのようだ。しかし、詳細は今だに不明だが。

 「彼女はすでに浄化されてしまっているけどね。スチュワートの子孫により、多くの思いを込められた天使の魔術書により作られた人形『雪』は『葵』と名付けられた。数回の浄化と召喚を繰り返されたあげく、今は魂はある建物に、形代は北の月夜見の館に隠された。そう、『雪』、いや君達には『葵』という名の方が相応しいかな?君達は彼女がどんな形代でも誕生できると思っているらしいが、そうではない。最初に誕生した時の蝋人形は作り手の異常な感情が込められて蝋を加工された。次もその次も同じ身体で復活させられた。しかし、もうその身体は燃えてしまいこの世に存在しない」


 そして、北の方に視線を向けて嘲るように微笑んだ。

 「彼女を復活出来る形代は北の館の主人、ケート・スチュワートがある人間からかつて受け継いだファーストモデルドールだけ。今はな。オリジナルの次に作られたセカンドアンティークの人形。しかし、おそらく北の屋敷もろとも燃え切ってしまっただろう」

 「何故、この部屋や縛っていたロープのように結界ができた?結界は君達が誕生させられる際に偶然に生み出される『結界』を自由に使えるようになったとでも言うの?」

 彼は北の方角から彼女の方に首だけくるりと回してにやりと微笑んだ。

 「葵の消滅の時のことを言っているのかな。そう、最後の雪の誕生の際に初めて結界が発生した。それはけして偶然じゃない。あれは彼女の特殊能力の1つだったんだよ。彼女は自覚していなく無意識に発生させたようだが。勿論、もう1人の特殊な存在、悪魔のクラウンこと私も使用できる。それだけじゃない。例えば…」

 悪魔の人形は手を地に向けた。すると、扉が開いて廊下が垣間見ることが出来た。そこにはもう1人の少年の腐った死体が転がっていた。

 「アム、魁!」

 ジンが刹那に叫ぶと3人は咄嗟にCODEの力を最大限に発揮した。それが波動の力を応用させたバリアのようなものであると舜は推測できた。月夜見館の社だった部分の2階(全員が高さから3階と思っていたが、実は2階であった)が大爆発を起し、2つの社を繋ぐ細い崖の道に崩れ落ちてしまった。


 瓦礫の中にはジン達3人が作り出した衝撃のクッションとバリアで全員無傷であった。クラウンはそれを予想済みのように子供のように面白そうにその光景を見ていた。

 那賀は光明を庇い、マークは実生を、舜は更紗、そして明日馬は愛香を庇っていた。3人の女性は見比と八幡の上に尻餅をついていた。

 人形はこの状況でさらに話を続けた。

 「君達はメビウスの帯を持っているだろう。それは招待状だ」

 メビウスの帯を見せたことのない者がポケットを探るとそれが出て来た。愛夢と魁、ジンが飛び出そうとしたが、先程のCODEの波動の力の発揮で疲れ切っていた。俊敏さに欠けていたがそれでもクラウンの次の波動の攻撃の前に攻撃できる隙はあった。しかし、そこである爆発が3人の足を止めた。何と荷稲である。彼は虚ろな瞳で手を2人に向けている。

 「あいつが、波動?」

 魁が唖然としていると、クラウンはさも滑稽に高笑いして指を差した。我に返った荷稲は自分のしたことに呆然として信じられないといったように膝をついて絶望に暮れた。

 「お前は死んでいる。この殺戮の部屋のすぐ外に転がっているのを見たろう。あれがお前だ。そう、あの時に私に殺されていたのだよ。君は逃げ切ったと思ったようだけどな」

 荷稲は自分の体を触って見せる。そして、落ちていた硝子の欠片で腕を切り裂いてみた。しかし、真紅の液体1滴さえ染み出ることさえなかった。

 「そう、君も我々の仲間さ。精神に荷稲青年に似た魂を擦り込んで見せたが。そして、彼らをここまで呼ぶ込むことが使命だったのだ。逃げ出した場所はあそこだ、あそこに行こうと言って。招かれざる客になることも簡単。無意識に彼に夢の力で君達に巻き混むことも簡単」

 春香は舜の肩を叩き親指で後ろを差した。彼が振り向くと小さな石柱が傾いていた。

 「この石は無縁仏の墓だよ…。しかも、名前を見て」

 そこには『荷稲精大』と刻まれていた。享年18歳。舜達と出会った彼と同じ位の歳である。彼女は息を呑みながら不気味に囁いた。

 「彼は5年前に死んでいたのよ」

 魁とジンは再び意識を失い非情になった荷稲と対峙した。それを擦り抜けて舜は素早く走り出した。

 「彼、荷稲君ならあの3人の残りの力でも充分だ。しかし、ボスのクラウンとその他のあの社の残りの悪魔の人形の並を倒すのは、その為の不思議な能力を持っていて倒せるのはこの俺だけだ」

 そして立ち止まり舜は振り返り全員の顔を見回して頬笑んだ。瞳が異様に輝いていた。

 「これで終わりだ。…皆、更紗、アム姐。世話になったな。じゃあな」

 「駄目ぇー。皆、彼を止めて!」

 春香の言葉は空しく崖に挟まれた空間に響いた。誰1人舜を止めることはできなかった。

 舜の言葉の意味は誰でもすぐに分かったが、彼はクラウンが手を伸ばして放つ波動を避けて後ろに回り込み、それを抱えてもう1つの社に向かって走り飛び込んでドアに鍵を掛けた。


 多くの人形の中央に放り込まれた禍禍しい空間に悪魔の人形と舜が2人対峙している。2人とも微笑む。

 「自ら窮地に陥るとはな。結界を張る事で自らを閉じ込めているんだぞ。気付いているのか?」

 すでに舜は皆を救いたいという強い念から『魂の力』に目覚めることができたのだ。人形達は彼の作り出す結界に囚われている。

 「俺は魂の力が使える。そう、かつての人形『葵』の持った力、より強い『夢の力に打ち勝つ能力』。全ては魂の力なんだ。君達メビウスの使徒の降臨・浄化・封印・CODEの無力化キャンセル。そう、この力は歪んだもう1つのCODEの力さ。『葵』が使えたのも法ローの存在に混沌カオスの強い感情が込められた為に偶然その力を手に入れたんだ。メビウスの帯のように裏表のないCODE。この2つの力は裏表だけど1つに繋がっているのさ」

 そういうと、大勢の人形は恐れ慄いた表情を見せる。クラウンは驚愕の表情で1言ずつ確かめるように尋ねた。

 「お前、他の人間為に死ぬのか?愚かな者、吐き気がするほど邪悪な人間を助ける為に死ぬというのか?お前はそれでいいのか?」

 すると、舜は思い残すことがないように微笑んだ。

 「いいも、悪いもそれしか俺の道はないだろう。それに自他ともに俺の存在の消滅に何の意味がある?マイナスがあるのか?…別にどうでもいいじゃないか。さぁ、君達は帰るんだ、地獄へ。俺が道先案内人になるからさ」

 悔しそうにクラウンは俯くがすぐに上目使いで言い放った。

 「我らは何度でも蘇る。死ぬことはないから。愚かな人間どもがいる限り、スチュワートの一族が続く限り何度でもな。お前の死は無駄だ。犬死だぜ」

 「どっちにしても殺すつもりだったんだろう?僕達を」

 「この馬鹿なことを止めれば命は助けてやる。お前達には手は出さない」

 「立場があべこべで都合のいい言い草だな。もう、終わりにしようぜ」

 そして、少し考えてから舜は次のことを口にした。

 「冥土の土産に1つ教えてくれ。あの社の象徴の梵字は何なんだ?不動明王の意味だろう?でも、あそこは月読命、つまり仏教の神でなく神道の神を取り込んで奉っている」

 「梵字?いいや、あれはかつて村人が描いた走り書きの帽子を被った人間の絵だ。彼女は彼らに魔術書の写しを渡して再び滅びた我々が蘇ったのだ。でも、その術が不完全な為、我々の覚醒に時間が掛かって最近になってしまったが・・・」

 すると、舜は大きく笑った。

 「そうか、再び依り代に神を宿らせる術をもたらせた者を称えて象徴として描いていただけなのか。…ただの印か」

 そして、全ての謎を解いた舜は鋭い瞳を彼らの長の悪魔のクラウンに突き刺した。彼らに畏怖の表情が浮かぶ。

 「さて、もう、終わりにしよう。終幕の時間だ」

 彼の力はやがて最大に高められて眩く直視することさえできなくなっていた。

 「…や、止めろー!」

 全ての覚醒したばかりの力を舜は解放した。彼は体中からオーラが発生して下から風が吹きすさび光に包まれ始める。

 「悪魔に作られ曲げられし信仰、その犠牲者全ての徒花にあえてなろう。この微塵の魂をもって」

 人形達の鼓膜が破れるくらいの反吐の出るような段末魔が響き大爆発と大炎上がもう1つの社を包んだ。全ての形代に宿る悪魔は灰と化して黒き煙となって曇り空に立ち昇っていった。


 「舜!」

 更紗は狂ったように泣き叫び燃え盛る社に駆寄ろうとするのを愛夢抱き止めていた。

 ジン達が残りのCODEの力で荷稲に化けた悪魔の人形を弾き炎で消滅差せた後に向こうで消滅した社を見て全員は固まった。

 これで隠れ里の住人も悪魔の精神の操作から解放され、全てが終焉を迎えたことになる。炎を見つめながらジンはサングラスの奥の目を細めてずっと眺めながら腕を組んで立ち尽していた。本当に全てが終わったのだろうか。あの人形を召喚した者達は誰で何故、こんなことを起したのだろうか。そして、どこでまた何をしようとするのだろうか。ここで何がしたかったのだろうか。

 「人体実験・死体による依り代の実験は成功に近付きつつある。さぁ、何とかしようぜ」

 魁の言葉にジンは冷たく悲哀に暮れる者達を横目にその場から立ち去っていった。悔しそうに愛夢は更紗を抱き絞めながら炎を眺めて呟いた。

 「大いなる闘いは私達は負けられない」

 崩れ倒れた社は全てを灰にしたようにゆっくり静寂を向かえ出した。新たなる歪んだメビウスの形の運命を予期するかのように。


                TO BE CONTINUED CODE…


基本的にこの話はあくまでも歴史、神話物の公募用のものです。

ただ、シリーズの一部として、新たな話が進展しています。

神話の勉強もできていいと思います。

最後の方の梵字等はオリジナルに梵字の画像を貼っていたので、表示されていません。表も出ていないので申訳ありません。

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